第15話 君は雨空
あっという間に最寄り駅に着いた。2人とも一時は寝てしまってどうなる事かと思ったけど。
「はぁー、楽しかったな!買い物!」
「うん。でもそれより電車乗り過ごさなくてよかった···。」
「まぁ、あれはちょっと焦ったな···。」
困り顔で憂は頭をかいた。
「そうだ、次はどこ行く?もっと思い出作りたいよ。」
「んー、そーだなぁ···じゃあ次は遊園地とかどう?」
「遊園地···!!行きたい!一生に一度は家族以外と行きたかったんだよねぇ!」
「じゃあ、決まり!えっと···最近は遠出続きだし、明日と明後日は普通におしゃべりしない?」
「そうだね。あんまりお出かけしすぎると私もお小遣いが···。」
「あっ、ごめん。」
「んーん、いいの。おばあちゃんからも貰えるし。でもちょっと申し訳なくてさ。」
「そうだな。さ、帰ろう。」
「うん。」
2日間、いつものように当たり障りのない会話をして、楽しかった。この生活も、もうすぐ終わりを迎える。
「明日かぁ···遊園地!あっ!明日のために洋服選ばなきゃ···。」
「おばーちゃーん!どっちがいいと思うー?」
「んー、そうだねぇ···」
明日が楽しみでたまらない。早く明日にならないかなぁ···。
「お待たせ!!楽しみすぎて早起きしちゃってちょっと眠い!」
「あははっ、恋夏、電車でちょっと寝とく?」
「んー、どうしよ···。寝れたら寝ようかな。」
「ん、大丈夫、乗り換えの時は起こすから。」
「分かってるけど···憂と一緒にいる時間を長く感じてたいから···。」
「そっか。嬉しいこと言ってくれんじゃん。」
照れくさそうに憂は言って、手を繋いだ。
「こうしてたら、一緒に居る時間さ、寝てても感じれるんじゃない?」
「···!!」
何か言いたかったのに、照れて声が出ない。
「あ、電車きた行くよ。」
「こ、このまま行くの!?」
私が焦りを含んだような声で尋ねると、憂は何も驚くような素振りもしないままサラッと言った。
「うん、だって俺がこうしてたいんだもん。」
「···もう···」
憂は素直すぎるなぁ···。
そのまま手を繋いで電車を乗り継いで行った。私は手を繋いでいるという事実に緊張して余計寝れなくなった。
「ついた!ほら行くよ!!恋夏!」
弾むように歩き出す憂を眺めながら憂に手を引かれつつ進んでいく。
「もー、ちょっと待ってよー!」
「早く行かなきゃ乗り物乗れなくなっちゃう!」
「ふふっ、はいはい。」
子供みたいにはしゃぐ憂を見てると体が重いことももうどうでも良くなって、私も振り切ってはしゃぐことにした。
「まず最初はジェットコースター、その次は休憩がてらメリーゴーランドで···それで、その次は空中ブランコ!いや、スケートボードアトラクションもいいなぁ···んー、」
「まず、ジェットコースター乗ってから次考えよ?」
「それもそうだな!よし並ぶぞ!あ、恋夏はジェットコースター好きなタイプ?」
「···もちろん!めちゃくちゃ好き!早く行くよ!!」
「おう!!」
ジェットコースター乗り場の列に並ぶ、50分待ちらしい。それでも憂と一緒なら何時間でもいい。
「こういう待ち時間って微妙だよな。」
「確かにねー、会話のネタ尽きちゃうかも。」
「でも、いつも通りの会話すればあっという間だよな。」
「うん···あれ、いつも通りの会話ってなんだっけ···。」
「あっははは、別になんでもいいよ。そうだ!これ恋夏に言おうと思ってたんだけどさ···」
「ジェットコースター楽しかったぁ!」
「···あんな激しいとは思わなかった···ふー···。」
「酔った?大丈夫、憂?」
「平気平気、楽しかったよ。さ、次はメリーゴーランドだ!!行くぞ!」
「おー!」
それから色んなものに乗った。メリーゴーランド、空中ブランコ、スケートボードアトラクション、スプラッシュコースター···他にもいろいろ。
夕方、あっという間に夕日が映える頃になった。
「次観覧車乗ろ!」
「うん、観覧車楽しみー。」
「ふっふっふ、観覧車はこの時間帯が一番映えるんだ。きっと恋夏も気に入るはず!」
「ほんと?ふふふ、私の審査は厳しいよ?」
「もちろん!ガッカリさせないことを保証しましょう!」
2人観覧車に乗り込み、向かい合わせに座る。私は上に上がる前から外の景色を見ていた。憂も同じように外を眺めていた。
「わぁ、高っ···!!綺麗···!」
「うん···。」
「わぁ、ほんとだ。ここからだと夕日がよく見れる。確かにこれは憂の言う通りだったよ。」
「良かった···。」
憂の声色がさっきとは違う。感動しているのかなと思ったけどそんな感じはしない。景色から目を離し、憂の方を見ると···
「···あ、ごめん···。こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ···。」
憂は泣いていた。涙を拭うけれど、止まらないらしい。
「憂···。」
「ごめん、恋夏の顔を見てたらさ、もう、この表情を見れなくなっちゃうんだって思って···」
「···。」
「···。」
無言の時間が続く、憂は涙を拭い続けている。言葉を探していたら、ポツポツと音が響いた。
「え、雨?」
外を見ても夕日は見えたまま、狐日和なのだろうか?呆気にとられていたら憂がぽつりと呟いた
「···天気って不思議なんだよなぁ···」
「···憂···。」
「だってさ、俺が泣いてたらよく雨が降るんだよ。だから、俺さ、雨はどこかの誰かの為に神様が泣いている涙なんじゃないかって思い始めたんだ。」
「···そっかぁ、そうなんだ···。」
私もついにこらえきれなくなった涙が溢れた。噛み締めるように共感を呟き、2人泣きつつ笑った。
神様に泣いて欲しくないから、もう大丈夫だと言いたくなったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます