第14話 君は晴れ渡る

「そっか…憂、引っ越すのかぁ…。」

そう言うと涙が抑えきれなくなって、溢れ始める。

「あ、あれ…?涙止まんない…さっきので涙腺っ…おかしくなっ、ちゃった…」

「…恋夏…。」

「ごめん、ちょっと待って…うぁ…ひぐっ…」

「ごめんっ…今までっ…だまってて…。」

二人で泣いた。悲しくて、さみしくてたまらなかった。


ひとしきり泣いて、いつもの調子に戻るように頑張って明るく言った。

「…ねぇ憂!!」

「…!恋夏…?」

思った以上に大きな声が出て憂をびっくりさせてしまった。

「あのっ、あのね、まだ引っ越すまでには時間あるでしょ?だからいっぱい思い出作ろう?」

「思い…出。」

「…そうだな!!恋夏、たくさん思い出つくろう!!」

「うん!!」


それからたくさんの思い出を作るためにいろいろなところにお出かけすることにした。

「決めた!!明日はちょっと大きなところでショッピングしよ!」

「ちょっと大きなとこ?いいんじゃない?」

そうして明日はお買い物デーになった!


「今日は〜お買い物!!」

「テンション高いな、恋夏。」

「だってー、昨日あんな事言われたんだもん。テンション上げてかないとでしょ?」

「ま、そうだな。よし!行くか!!」

「いえーい!!」

二人電車に乗り込んだ。行くところはそこそこ遠いけど、それでも憂と行くところならあっという間に着く。

「今日行く所はね、大きなショッピングセンター!いろんなお店あるし、映画館もあるんだって。見に行っちゃう?」

「そうだなぁ…気分で決めよう!」

「あははっ、気分ね!わかった!」


それからショッピングモールでいろんなものを見て回った。

「ねぇ、この服どう思う?」

「ん”…!?んー…可愛いけど…俺はこっちのほうが好み…かも…。」

「ふーん…」

「あ…!えと…あの…」

「やっぱそうだよね!えへへっ、ごめん。試すようなことしちゃって。」

「ふー…よかった…。」


「あ、この猫かわいい。」

「え、どれどれ?え〜!めちゃかわいいじゃん!おそろいにしない?」

「いーじゃん!買うか!」

「うん!!」


「恋夏、なんか食べる?」

「んーそうだなぁ…かき氷なんかどう?」

「それちょうど俺も食べたかった!行くか!」

「うん!何にしようかな〜♪」


「わ〜…やっぱ子犬かわいい〜…癒やされるぅ…。」

「あー…喧嘩しちゃってる、大丈夫かな…。」

「ふふふ…人懐っこ〜い、かわいい…。」

「…あっ、負けちゃった…大丈夫…?」

「さっきから憂は何見てんのさー笑」

「そこの二匹がおもちゃの取り合いで喧嘩してたんだよ。」


たくさん買い物して、色んなものを見て、一休みすることにした。

フードコートでフルーリーを注文して2人座ってのんびりとした時間を過ごす。

「恋夏、フルーリーどう?」

「···味はしないかな···でも、なんか嬉しい味感じるよ。」

「ふふっ···そっか、なら良かった、のか···?」

笑ってから、憂は冷静になって首を捻った。

「あははっ、要は美味しいってこと!憂と一緒だからかな。」

「!」

驚いた顔をして顔をぱっと隠した。

「もー、顔隠さないでよ。きっといい表情してるのにー。」

「俺にとっては良くないから、だめ。」

顔を隠したまま憂は隙間から覗いた目を逸らして答えた。

この時間も愛おしくて、ずっとこうしていたかった。


しばらく休んだからもう少しだけ買い物しようと提案した。

「ちょっと気になるものがあるんだよねぇ〜···」

「なになに?」

「ふふふ、後で教えたげるー。」


「じゃん!伊達メ!」

「伊達メガネかぁ、そういや恋夏コンタクトとかしてる?」

「ううん、してない。で、どう?似合ってる?」

「うーん、可愛い、可愛いんだけど···やっぱメガネしてない方が俺は好きかも。」

〜〜〜っ!!なんて事···!!

「わかった、買わない。」

顔から火が出そうな気になりそうになりながら憂に背を向け店を後にした。

「え、え?あ、うそ···ごめんっ、恋夏〜!」

後ろで憂の焦る声が聞こえてきたけど無視して歩く。

ごめん···憂。今顔向けらんない···。

「憂、照れるからそういうこと言う前には言ってよね。」

「⋯ふふっ、わかった。ごめんね、恋夏。」

「⋯うん。」


時計を見るともう5時半。家までは1時間くらいかかるから、もうそろそろ帰らなくちゃいけない。寂しさから時計をぼんやりと眺めていたら、

「もう帰らなきゃだな。電車あと十分後だって。」

「うん。」

「…。」

憂は私の様子を汲み取ってなのか、黙ったまま私の手を取った。

「寂しいけどさ、まだ一緒だから。」

「…。ばか…かっこいいよ。」

小声で言った、聞かれたくないけど聞いてて欲しいそういう矛盾の心の現れ。私はその手を握り返した。

「恋夏⋯。」

「ほら、電車に乗り遅れちゃう。行こ?」

照れ隠しで手を引いた。素直になれないなぁ…。

「うんっ。」

それでも憂は嬉しそうに頷いた。


帰りの電車に揺られながら、私はうとうとしていた。その隣で憂は景色を眺めていた。

「恋夏、まだ降りるまで時間あるから寝ててもいいよ?」

「…うん、でも頑張って起きとく…。」

少しでも長く、憂と一緒にいる時間をかみ締めておきたいから。

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