第13話 君は春雨
友だちはみんないい子だけど、私には合わなかった。
「そういえばさー、うちらの小学校もさ、そんなやついたよねー、みぃ?」
「あー!かっつんね!いたなー!」
「がちぃ?うちらんとこはさー…」
「あはははっ、いたいた!」
五人グループ、そのうち二人は同じ小学校出身、もう二人も同じ小学校出身で、私だけが一人だった。そのせいで合わせるのが余計辛かった。
趣味の違い、会話のノリの違い、思い出の違い、いろんな違いが混ざりあって私は違いの壁を乗り越えられなくなった。
一緒にいると辛いくせして弱いから一人になりたくなくて一緒にいた。
移動教室の時も、いつも私は溢れてみんなの後ろからついて行って一人で歩く。
「それでさー、こないだのカラオケめちゃ楽しかったよね!」
「ね、ワニちゃん歌うますぎてびっくりした〜!」
「あはー、ほめてもなにもでないぞ〜?」
「ねぇ〜みぃは?みぃも歌上手かったでしょ〜!?」
「はいはい、みぃも上手かった、上手かった。」
わたし誘われてないな…。
「あ!恋夏ちゃん…。」
「あ、あ〜…そういや…」
「ごっめん!!みぃたち恋夏ちゃんのこと誘ってなかったのにこんな話ししちゃった!」
「みぃ、直球すぎ。ごめん、次は誘うよ。」
「んー?もな、みぃ言い方悪かった?」
私がいるせいで空気悪くなっちゃった…なんか言わなきゃ…
「うん、もうちょっと気持ち考えられる人になろうな。」
「恋夏ちゃん…もしかして怒っちゃった…?」
「あ…ううん!大丈夫、全然怒ってないし気にしてないよ、わかなちゃん。」
もなちゃんの言った”次”は二度と来なかった。だから私からいつも誘うようにした。知らぬ間にハブられていたとしても、私はそれでも一人が嫌だから。必死にしがみついていた。
でもそれが祟ったのだろう。中学二年生に上がった頃、給食の味が薄くなったような気がした。二年生でもみんなと同じクラス、今まで通りの日常を過ごしていくうちに、食べ物の味がわからなくなっていた。
6月頃には完全に味がわからなくなってしまった。調べてみると「心因性味覚障害」というものらしい。でもそんなことはお母さんには言えないままだ。
「…って事があったの。」
「そっか…。」
「私は今、おばあちゃんの家に暮らしてるの。」
「お母さんが7月ぐらいに海外出張が決まったから、夏休みが始まる頃に引っ越ししてきたの。だから今お母さん家にいないんだ。」
「そう、なの…?」
「うん、それにねお母さんに味がわかんないこと言えてないんだ。」
「…。」
「あとね、私サモエド飼ってたんだ。ルリっていう名前でね、私が生まれた頃にいてたわんちゃんなの。」
「でも、中学二年生の6月にお散歩に行ってたら急に走り出して、どっかにいなくなっちゃったんだ。」
「…。」
「多分それもあって味がわからなくなったんだと思う。」
ルリがいなくなった次の日は休んだ。泣いて泣いてどうしようもなかったから。次の日学校でみんなとおしゃべりしてたら…
「なっつんどした?昨日も休んでたし、だいじょぶ?」
「うん…一昨日さ、家の犬が逃げてどっか行っちゃって…」
「えー!!つら…」
「元気出してー恋夏ちゃん、いつか見つかるよ。」
「犬って言いえばさ、ワニさ犬買ってたよね。」
「あー、なんだっけ…トニー?」
「あははっそんな名前じゃーなくて、ドレイク。」
「あ、それだそれ。」
そのままみんないつものテンションに戻っていった。
その様子から私は、私のこの出来事はそんな簡単に掃き捨てられる問題で、すぐに切り替えられるほど軽い話題なのだと悟り、私はこの人たちとは完全に合わないと思った。
「だからね、お母さんたちが海外出張に行くことになって私はあの学校を離れられるように…」
声が震えて…涙が溢れてきた。
「なっ、てよかった…な、っておもっ、たよ…。」
「そっか…よかった…恋夏…。」
憂も笑顔を浮かべながら泣いていた。
「…はぁー…」
涙を拭って、一息つく。憂はまだ泣いてくれている。
「憂は…春雨だね。」
「…ぇ?」
涙を流しながらちょっと間抜けな顔を私に向けた。
「ふふっ…なんでもないっ。憂にも言えてよかった〜…。」
「ありがと…話してくれて嬉しい。」
「聞いてくれてありがとね。あと、憂といっしょにいるときはなんか味が少しだけするんだ。ほんのりね。」
「!!」
「それは…すっごい嬉しい!」
少年みたいにはしゃいで笑った。
「…はぁ…」
笑ったあと憂は夕日に顔を向けてため息をついた。
「俺もちゃんと最後まで言わなきゃいけないこと言わなきゃだな。」
「え?」
しんみりとした表情を浮かべ、憂は私の方を向いてこう言った。
「俺さ、引っ越すんだ。」
「…え…?」
顔がひきつってしまいそう…
必死に取り繕って笑顔を作った。
「それって…どういう…?」
「8月の終わり、俺は県外に引っ越すことになったんだ。」
「…あ…そっか…」
これまでの言動がすべて繋がった、夏祭りも、おしゃべりも今年で最後だから…。
「ごめん、怖くて言えなかった。」
「…ううん、気にしないで。」
視界が歪んでしまわぬように必死で瞬きをして、憂を見続けた。
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