第12話 君は曇天
「ごめん、さっきはああ言ったけど、まだ···言えない。」
花火の後、憂に送って貰ったけれど、私も言いたいことは言えず仕舞いで、結局会話はあまりはずまなかった。
「ただいま···。」
「おかえり、恋夏。ご飯食べるかい?」
「うん、お腹空いた。」
「じゃあ、手洗ってきな。用意しとくよ。」
「はーい。」
おばあちゃんは私が帰って来るまでご飯を待ってくれていて、二人で卓を囲んだ。
「水族館、どうだった?楽しかったかい?」
「うん、すっごいきれいで楽しかった!あ、おばあちゃんにも写真送ったよね、見てくれた?」
「見たよ。でも恋夏たちの写真がなくて寂しかったよ。」
「…あー、そういえば送ってなかったかも…?」
「まぁ、いいさ。その分恋夏から色々聞かせてもらおうかね。」
「えへへっ、うんっ!」
「そういえばね…」
その日の夜、私はお風呂に入ってベッドの上に寝転がって考えていた。
「(憂は私に辛かったこと話してくれた。私も、そろそろ話したいよ…。)」
話したいという気持ちはあるが、気持ちを知られるのが怖くなる。悶々としながらその日を終えた。
次の日、今度は私のほうが遅くなりそうになっていた。
「(憂、心配してるかな。)」
憂のことを考えたら行かないとと思う、でも足が重たくてリビングから一歩も進めずにいた。そんな様子の私を見かねたおばあちゃんが、頭をぽんっと撫でた。
「無理しなくてもいいんだよ。いつだっていいいさ。憂くんもそんな子じゃないだろう?」
「!」
私は憂に”言う”と一言も言ってこなかった。なんでおばあちゃんそんなこと言ってくれたの…?
私がぽかんとしてたらおばあちゃんが優しく笑って、背中を押した。
「恋夏のこと、おばあちゃんはだいたい分かるよ。怖がらんでええ。」
「うん…いってくる!!」
がたっと勢いよく立ち上がる。そんな私を見ておばあちゃんは安心したようにあらに笑みを深くし、今度は手で背中を押して言った。
「気をつけていってきな!おばあちゃんはずっとここで待ってるからなぁ!」
「はーい!!」
駆け足でいつもの場所に向かう。逸る気持ちなんてなく、あるのは緊張しかない。
駆け足でなんとか緊張を緩和しようと思ったけど、それも逆効果かもなぁ…。
そうこうしてるうちに憂の姿が見えた。今日の憂は立ったまま海を見ていた。その姿に見とれながら走り続けていると、憂が振り返った。
振り返った憂は私の姿を見るなり笑みを浮かべた。
「恋夏っ!」
「ゆ、憂っ…!おまたせっ…。」
息を切らせながら憂のところに駆け寄った。
「そんなに急いで走らなくていいのに。恋夏そそっかしくて転ぶんじゃないかってひやひやしちゃうから。」
「もー、私を子どもみたいに〜…!」
「だって中学生はまだ子どもでしょー。」
そんな他愛のない会話しながら息を整え、いつものように二人座った。
「ねぇ、恋夏?」
いつになく、憂が真剣な声色で聞いてきた。
「どうしたの?」
「···変なこと聞くけどさ···あ、答えたくなかったら答えなくてもいいよ···!?」
「わかった、できる範囲で答える。」
そう言うと、憂の焦りが緩和してまた真剣な顔つきになった。
「恋夏···味、感じれないんじゃない?」
「っ···!!」
喉の奥で何かがつっかえたようになり、声が出なかった。心臓がばくばくと脈打つ···。
な、んで···?
「ご、ごめん。こんなこと聞いても困る、よね。」
つっかえたものを吐き出すように笑った。
「あははっ···憂はなんでも気づいてくれるね。」
「そうだよ、私···味わかんなくなっちゃったの。」
「···」
そしたら、憂は泣きそうな顔をしながら言った。
「ごめん···」
「なんで···?」
「だって、恋夏···俺に合わせてお祭りとか、水族館の時とか色々···食べさせて···」
憂は消え入りそうな声で言った、そんな様子を見て私はむかついてしまった。
「勝手に決めつけんなよ···」
「···え···?」
思わず語気が強くなってしまった。でもこれは、私の緊張の現れでもあった。
一息思いっきり吸い込んで憂に向かって叫ぶような気持ちで言い放った。
「私は!憂と食べてる時は幸せなの!味がしなくても、幸せは感じられるの!だから···ごめんなんて言わないで、憂を悪くしないで。」
「···恋夏···。」
憂はたった一言、私の名を呟いた。私は安心しきって、強気にでた。
「私、今なら言いたいことちゃんと言える。」
「ねぇ、憂。聞いてくれる?」
不安混じりに尋ねる。憂は優しい笑みを浮かべ頷いた。
「···私ね、小学生の頃友達がいなかった。6年間ずっと。」
「だからね、私中学生になったら友達いっぱい作れるように頑張るって決めたの。それで、私頑張ってクラスの人に話しかけたの。」
「そしたら自然と私はグループに入れて、友達と一緒に過ごすことが初めてできたの。」
「···でもね、あんまり合わなかった。」
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