第11話 君は狐日和

帰り道、また一時間くらいかけてゆっくり帰っていく。

帰りの電車の中で今日のことを二人語った。

「今日はいっぱい憧れが現実になって楽しかったな〜!」

「よかったー…楽しめなかったらどうしようかと思った。」

「十分楽しめる要素いっぱいあったよ!イルカショーでしょ?ペンギンでしょ?海中トンネルに〜…」


気がついたらもう最寄り駅についていた。

「はやー…あっという間だったね、憂。」

「うん、楽しかったからすぐ時間過ぎちゃったな。」

「ほんと今日はありがと!!こんなに楽しい遠出初めてかも!」

「そう?良かった!俺も一番楽しかったかも!」

二人笑い合う、そんな二人に近づく影が3つ…

「お〜、憂じゃねーか!」

「ほんとだ、ゆーうくん!」

「おっひさ~!ゆーくんっ!」

憂の顔が少しこわばった気がする。

「お、お〜!久しぶりだなお前ら!」

「あれ?もしかして彼女〜?」

「ちげーよ!」

「憂、お前彼女いたのかよ!!」

「だからちげーって…」

憂は苦笑いで否定してる。なんだか居心地が悪そうだ…。

「へぇ〜、カワイーじゃん。てかちっちゃくね?何年生?」

ちょっと怖い人たちだ…憂の友だち…なんだよね。

「ちゅ、中学二年生です…けど…。」

そういうと三人の中で一番大きな人が吹き出した。

「ぶっは!!お前!中学生相手に恋仲になってんのか!」

「やばーw」

「ははははw」

『やめてください!憂も嫌がってるし!私も嫌です!!』

…そう言いたかった。実際は私は立ちすくむことしか出来なかった。

「うっせ!てかお前らなんでここにいんだよ?」

「俺等は、部活の帰りだよ。見たら分かんだろ?」

「言われてみれば、制服じゃんおまえら。」

「しっかりしろよなーw」

「あ、もう電車くるくね?」

「お、まじか。じゃーなー、憂」

「あとカノジョちゃんw」

「じゃーな」

そう言って憂の友だち?は駅に入っていった。

「はぁー、ごめんな。恋夏困っちゃうよな、あいつら押しが強くてさー…。」

「うん…。あの、さ…ほんとにあの人達、友だち?」

「…うん、友だちだよ。高校の。」

憂は暗い顔をして答えた。憂は一息置いて笑顔を作って聞いた。

「恋夏、門限何時?」

「え?えーっと、連絡すれば日付が変わらなければ何時でも。」

「じゃあ、ちょっと俺の家寄らない?」

「へっ…?」

いきなりの提案に変な声が出てしまった。な、なんで急にそんなこと…?

「この前さ、手持ち花火したいって言ったじゃん?やんない?」

「…うん!したい!」


おばあちゃんに連絡してみる。

『おばあちゃん、憂と手持ち花火するからちょっと帰るの遅くなってもいい?』

『いいよ、楽しんでおいで。』

『ありがとう!』


帰り道も憂はいつもと変わらないような気がしたけどどこか辛そうな気がした。

「憂、大丈夫…?」

「うん…大丈夫。恋夏こそ平気?高校生に詰め寄られて怖かったろ?」

「うん…まぁね。でも憂…」

「やっぱ、なんでもない。」

「そっ、か…。」


憂の家に久々に来た。最初に来た頃が懐かしい。

憂に促され、庭まで入った。憂は私の方に振り返って、

「ごめん、恋夏、ちょっと待っててもらっていい?母さんに言ってくる。」

「うん。」

そう言って憂は家に入っていった。

「(お母さんか…初めて会うな…。き、緊張しちゃう…。)」

しばらくしたら憂が手持ち花火とバケツを持って家から出てきた。

「おまたせ、じゃあやろっか。」

「あ、う、うん。」

お母さんは来ないんだ…。そう思ってたら、ドアが開いた。

「はじめましてー恋夏ちゃん」

ひょこりと憂のお母さんが顔を出した。若そうなお母さんだ。

「!!…はじめましてっ!」

「気をつけて遊んでねー、私いたら邪魔だろうし。なんかあったらスマホで連絡しろよ、憂。」

「はいはい」

びっくりした…。私がドキドキしてる間にも憂はバケツに水を入れたり花火を出してたり準備を進めていた。

「あ、ごめん!何も手伝ってなかった…!」

「いいよ、お客さんなんだから。もうすぐしたら済むからちょっとまってて。」

「あ、うん…!」


最後に憂はろうそくに火をつけて、私に言った。

「花火選んで!恋夏。」

「わかった!なにしよ…」

「じゃーこれ!」

私は2本手にとって憂に一本渡した。

「これどんなの?」

「わかんない…可愛いから選んじゃった。」

「あははっ恋夏らしーや。」


火を付けるとパチパチと弾けて鮮やかな閃光を私達の瞳に映した。

「きれー…。」

「なんか落ち着くー。」

「なぁ、恋夏···さっきの友だちさ…高校の友だちって言ったけど…。」

「うん」

「あんま上手くいってなくてさ、苦手なんだ。」

「うん。」

いい終わった途端に2人共の灯火が消えた

「それでさ、あいつらな···」

そう言いながら憂は新しい花火を持ってきた。

「まぁ、あの通りアイツら乱暴で人の話とかあんま聞かなくてさ、だからあいつらを苦手に思う人も沢山いてさ。でも、俺あいつらとつるんでたら楽しいっちゃあ楽しいんだよ。」

「うん。」

「でも、アイツら俺に1発芸をいっつも強要してさ、いつも白けるのにずっと俺にさせてさ···多分それが一番面白いんだろうなとは思う、でも···」

「うん···。」

憂の声が震え出す···私も釣られて声が震えそうになる。

「それは嫌いで···でも、アイツらのとこしか居場所がなくて···俺もアイツらと同じだと思われて誰も関わろうとしてくれないんだ···。」

「···っ、うん···。」

私の方が泣きそうになってしまう、憂の方が辛いはずなのに···。

2人、涙を流しながら花火を続ける。静かな夕方に花火のはじける音だけが反響する。


気がつけば最後の花火になっていた、最後の2本に火をつける。

「こんな愚痴を聞いてくれてありがとう···」

「これ、母さんにも言えなくってさ、でも恋夏になら話せると思ったんだ。だから、ありがとう。恋夏。」

「うん、こちらこそ、話してくれてありがとう。辛かったよね。」

もうすぐ火が消える、日もすっかり沈んで、夜が私たちを包もうとする。

「うん···」

憂が優しく頷いた時、火が消えた、暗闇が訪れた。私も覚悟を決めて、憂に伝える。

「私も、憂に聞いて欲しいことが···あるの。」


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