第9話 君は星空
しばらく人混みの少ないところで二人休んだ。
「恋夏、このお祭りの最後には花火が上がるんだけど、見ていかない?」
「見ていく!最近お祭りの花火とかないから楽しみだなー。」
「そうなの?ここでは毎年上がってるよ。」
「そうなの?じゃあ、毎年来よ!」
「…そーだね、また来年も!」
二人寄り添って境内の中の休めるところで花火を待つ。いっぱい楽しんだお祭りももう終わり、切ないけど最後の花火を今か今かと待ちわびる。
「花火って終わりって感じするよな。」
不意に憂が口を開く、私の心を見透かされたように感じてびっくりした。
「…そうだね。さみしいな、今年が最後でもないのにね。」
「…まぁね、恋夏もきっと来年にはいい友達が出来てるし、俺とじゃなくても…」
憂が言ってほしくないことを言いそうになったから遮るように否定する。その瞬間…
「憂とがいいの!」『ドォン!』
「「あっ…!!」」
私の言葉さえもかき消してしまうように大輪の火花が空で弾けた。
まるで憂の言葉を花火さえも遮ったようだ。言わないで、と。
「きれい…!」
「うん…!」
二人見とれたまま最後の花火を待った、その間二人何も会話はなかった。
最後の一輪が夜空に溶けていった。そして放送がなった。
「今年の天女祭《あまめまつり》はこれにて終演とさせていただきます。皆様大変夜が更けてまいりますので、お気をつけてお帰りください。」
「終わっちゃった…。」
「うん、さみしいね。」
「また来年も…」
行きたいよ…。
もう一度言いかけた言葉は、喉につっかえて出てこなくなった。
「?」
「ううん、帰ろ?もう遅いから。」
「…そうだな、送るよ、恋夏。」
「うん…。」
二人、いつもと変わらないような会話を望んでいたけど、でも二人疲れがでてあんまり会話が弾まなかった。そして、ついに私の家の前までたどり着いた。
「ありがとう、憂、一人で大丈夫?」
「うん、大丈夫、まだ帰ってる人もいるし平気だと思う。」
「今日は楽しかったよ、それじゃあ、またね恋夏。」
「…ぁ、うん。また、ね。」
家に入るとおばあちゃんがリビングでテレビを見ていた。
「おかえり、恋夏。楽しかった?」
「うん…楽しかったよ、すっごく。」
「そう…食べ物は美味しかった?…味はした?」
「美味しかったけど、あんまり…味わかんなかったよ…あはは…。」
「そっか、おいで。帯ほどいてあげる。」
「…うん、ありがと。」
次の日、いつもの場所に行く。今日は憂はいなかった。
「(まだ来てないのかな…。)」
つい憂とのメッセージ画面を見てしまう、なにか送るつもりはなく、ただただ見つめる。
一分がすごく長く感じる、何かあったわけじゃないよね…。
悶々としてると後ろから足音が聞こえたような気がして、恐る恐る後ろを確認する。足音の正体は、ジョギングをしていた人だった。
なんだ…憂はまだなんだ。もしかして私が帰りあんまり会話できなかったことを気にしてる…?もしそうならメッセージ送ったほうが…!
「何悩んでるの?恋夏。」
「きゃああ!?びっくりした、憂…!」
「ごめん、そんなびっくりするとは思わなかった…。」
憂は悶々とする私の隣にいつの間にか座っていた。
「昨日は楽しかったね。」
「うん、花火も見れたし、もう夏に悔いないかもっ。」
「あはは、気が早くない?恋夏、俺はもうちょっと夏休み満喫したいかも。」
「例えば?」
「例えば?えーっと…ちょっと遠出したり…手持ち花火とか?」
「あー、いいね。私もしたくなってきた〜!」
「あれ?もう悔いないんじゃないの?」
ニヤニヤしながら憂が聞いてくる。いつもの調子で楽しい。
「それはそれ、これはこれなの!」
「何その理論。笑」
ひとしきり会話を弾ませて、会話の終わりが来て、沈黙が訪れた。
「憂はさ、天気のどこを好きになったの?」
「急だね」
「んー、今気になっちゃって、いいでしょ?」
「うん、俺が好きになったとこは…考え方、捉え方次第で面白くなるとこ、かな。」
「これはいろんなものにも言えるだろうけどね、でも、」
「天気は理系的に考えたらただの事象に過ぎないけど、天候が神様の気持ちの現われかと思えば愛おしいんだ。」
「…。」
「今晴れてるから、嬉しいのかな、楽しいのかなとか。ちょっと曇ってきた、嫌なことでもあったかなとか考える。雨なら辛いことがあったのかなって思う。」
「あとね、雨のときはこう考えるんだ。”誰かのために泣いてるのかな”って。誰かに寄り添おうとして涙…雨を降らしてるのかと思うとさ、なんだか嬉しくなる。神様は俺が辛いときも泣いてくれるのかなって思えるから。」
「…いいな、その考え方…。」
「ありがと。…恋夏だけだな、こんなことを聞いてくれるの。」
「…。」
「学校のみんなはさ、こんな話よりも最近のゲームの話とか嫌いな先生の愚痴とかいじりとかの話のほうが好きなんだよな。」
「…それってなんか、生きてる世界が違う気がする。」
ぼそっと呟いたつもりだった。でも憂は気づいてくれた。それは私がいつも抱えている気持ち、言いたくて燻っていた気持ち…。
「確かに、それは言えるかもな。人それぞれの感覚が”世界”と考えたらみんな違う世界を生きてる。」
「私…憂の生きてる世界で生きてみたい…。」
「…あっ、変な事言っちゃった…ごめん、気に…」
「変なことじゃないよ。それに、恋夏は俺の天気の話を楽しそうに聞いてくれてるから、
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