天探女
第7話 君は上の空
今日は約束をしたお祭りの日だ。憂どんな服で行くのかなぁ。どんな髪型にしていこう…。あの髪飾りつけよう!色々考えながら洗面所で立ち尽くしていたら、
「恋夏ここにいたのかい、上の空で…。浴衣着るんだろう?おいで。」
「はーい!」
私の浴衣は淡いピンクの生地に牡丹とかきれいな柄の入ったきれいな浴衣だ。可愛くて私のお気に入り。透け感のある帯の赤色でお花みたいに仕上げてもらった。
「はい、出来た。」
「ありがと!おばあちゃん!」
「うん、よう似合っとるね。これで憂くんもイチコロやね。」
「もぉー、おばあちゃーん。」
「髪のセットしてき、それともやったげようか?」
「あー、んーん自分でするよ。申し訳ないし。」
「気ぃ使わんでええに。まぁやって欲しいときにゆーてな。」
「はぁい。」
髪型は無難に編み込みを混ぜたお団子ヘアにした。
「そういえばさー、天女祭ってどこでやってんの?」
洗面所からおばあちゃんに話しかけながらリビングに向かった。
「天女祭はね、天命神社っていう近くの神社でやってるんだよ。」
「そうなんだ。おばあちゃん行ったことある?」
「そうだね、若い頃はいっぱい行ったね。恋夏も楽しんできな。」
「うんっ!」
そういう会話をしていると憂から連絡が来た。
『恋夏、どう?準備できた?』
「憂!…『うん!準備万端!っと』」
『迎えに行くから待っててな』
「!『はぁい!』」
「憂くんはなんだって?」
「迎えに来てくれるんだって!」
「よかったねぇ、お金は足りるかい?もうちょっとあげようか…」
「ううん!大丈夫!いっぱいもらってるから!」
食い気味に否定する。そうでもしないとおばあちゃんは余分にくれるから…そのほうが申し訳なくて使いにくくなっちゃう…。
『ピンポーン』
しばらく待っているうちに家のインターホンが鳴った。
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
「うん!!いってきまーす!」
元気いっぱいに返事をして玄関を飛び出す。憂は勢いよく開いたドアにびっくりして目をまんまるにしていた。
「憂っ!待ってたよ!」
「ははっ、お待たせ恋夏。行こうか?」
「うんっ!」
二人並んで歩き出す、憂は私に歩幅を合わせて歩いてくれている。
「恋夏、浴衣めっちゃ似合ってるね。かわいい。」
「…っ!あ、ありがと…。」
いきなり褒められた…。歩き出して開口一発目がそれって…!
「ゆ、憂も似合ってる!浴衣いいね。」
あんまり顔を合わせられない。どうしよ…憂、今どんな顔してる…?
「ありがと。なんかさ母さんが調子乗って『浴衣でペアルック』って家出る前に行ってきたからさ、なんか照れるんだよな…。」
「…ぇ…。」
びっくりして顔を上げる。憂は夕日に照らされてなのかわからないけど顔がちょっと火照ってた。私の方を見ず前を見据えている。
今わざわざそれを言うってことは…!!!
「って困るよなそんな事言われちゃ。ごめん、今の忘れて。ただ変なこと言われたってだけだから。」
「あ…うん…。」
なにか言おうかと思ったけど何も思いつかずに相槌を打つことしか出来なかった。
あれから、ちょっと気まずくなって会話を続けられなくなってしまった。そうして天命神社についた。
「わぁっ…!」
賑やかで明るい。提灯がたくさん飾られて、鳥居のとこからも大きな境内にところ狭しと屋台がたくさんあるのが見て取れる。
「いいとこだろ?俺も中学の頃は友だちといってたんだ。今年は恋夏と来れて嬉しいよ。」
「うんっ私も来れて嬉しい。早く回ろっ!憂!」
そう言って憂の手を掴んで引っ張った。
「はいはい、はしゃいだら危ないぞー。」
「もー、お父さんみたい!早く早くー!」
”お父さん”と私が言うと憂はなんだか暗い表情になった気がしたけどすぐに笑顔になって私の手に手を引かれるまま、ついてきてくれた。
「どこ回るの?恋夏。」
「うーん、最初はー…あ!たこ焼き!」
「そうだな、恋夏、ずっと楽しみにしてたもんな。」
半笑いで憂は言った。私がこの前雲をたこ焼きと言ったことをまだ引きずっているのだろうか…?ちょっと複雑だけど、覚えててくれて嬉しいと思える。
「いらっしゃい、お二人さん。」
優しそうな中年の男性が私達に話しかけてくれた。
「たこ焼き2個ください。」
憂がすかさず言ってくれて私は隣にいることしか出来なかった。
「あいよ、一個150円ね。」
「「はーい」」
そう言って二人で150円ずつ出す。
「毎度ありっ、ふたりともこの祭楽しんでけよ!」
そう言っておじさんは出来立てのたこ焼きをくれた。
「「ありがとうございます!」」
屋台から少し離れたところでたこ焼きを頬張る。出来立てだから熱くてやけどしかけた。
「ふふっ、恋夏熱くない?」
「う…んっ…」
「あははっ、おいしい?」
「うんっ…あつぅ…。」
「やっぱ熱かったんじゃん。大丈夫?火傷してない?」
「うん…平気!」
悟らせまいと頑張ったのにバレてしまった、悔しい…。
二人たこ焼きを食べ終わって、少し熱くなった体を夜風に当てて冷ました。
「恋夏、俺ゴミ捨ててくるわ。ちょっとまってて。」
「あ、私も一緒に…」
「はぐれちゃうとやだから、人も多いしすぐ戻るから。ね?」
「…わかった。」
はぐれたりなんかしないのに…。
しばらく待っても憂は戻ってこない。何かあったのかな…そうして私は境内の人混みの中に入った。
色んな人の声がして、人も多くて、憂の姿は見つけられないかもと戻ろうとしたとき声が聞こえた。
「ほんとに久しぶりだな、憂。」
「ね、俺は暇しててもそっちが暇じゃねーもんなー。」
憂の声…と友達…?
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