第3話 君は薄明
その後も色々な話をした。好きな色、好きなアニメ、趣味、好きな動物園の動物、思い出話。そんな色んなことを話していたら、気が付けば空が赤くなっていた。
「うわ、もうこんな時間か。」
「早いなぁ、夏なのに。」
憂は私の方を向いて満面の笑みを浮かべ、
「恋夏とおしゃべりしてたらあっという間に時間が過ぎてくよ。」
「……ほんと、その通りだよ…。」
あまりに無邪気に笑うから眩しさに目を焼かれそうになって、思わず顔を伏せて、幸せをかみ締めながら呟いた。
「よし、名残惜しいけど帰ろうか。」
「え、まだ全然暗くないよ?」
「うん、でもここら辺は街灯が少なくて暗くなると危ないんだよ。」
「そっか…。」
私が不満げに呟いたら、憂は私の手を取って私の顔を覗き込んだ。
「!!」
「恋夏、俺家まで送るよ。」
「っえ…いいの?でも暗くなると憂まで危ないよ?」
「平気平気、俺の家の近くにはまだ街頭多めに設置されてるし。」
「それに、恋夏ともうちょっと一緒にいたいし。」
「…ありがと…。」
不意に嬉しいことを言われほっぺに熱が宿る。
「あれ?恋夏暑い?なんか顔赤…」
「ゆ、夕日のせいかな!?」
頬の紅潮は、茜色の夕日に照らされてそう見えるだけだと憂にも私にも言い聞かせた。
「さ、か、帰ろうか!?」
「か、帰ろうか…。」
小っ恥ずかしくて私は憂と手を繋ぐことも出来ずに、隣り合ってただ歩くだけだった。話もできなくて私は顔を背けたままで黙ったまま歩いた。
「ごめんな、恋夏…。」
「へ?なんで…?」
「体調悪かったのに連れ出して、引き止めて…」
「そ、そんなことないよっ!体調悪くないしむしろ元気だよ!?」
「…恋夏…。」
「私…私ちょっと照れくさかっただけなの…。男の子とお話するの初めてで…嬉しいこと言ってくれたから、言葉が出てこなくて、ごめんね。憂…。」
憂は私がそう言い切ると、不安そうな顔から一気に明るくなった。…かわいい。
「良かった…恋夏が元気なら良かった。」
「ありがと、憂。」
ほっと胸を撫で下ろした憂は、優しい笑みを浮かべた。
「なんかあったらいつでも言ってよ。受け止めるからな。」
「…!」
ちょっとびっくりしたけど私はすぐ笑みを浮かべて、憂の手を取って、顔を見つめた。憂はちょっとびっくりした顔をしてたけど、お構い無しに私は言った。
「心強いや!私憂のことずっと頼りにしてるから!」
「っ…おう!!」
こころなしか憂のほっぺも紅く染まっていたような気がしたけど、きっと夕日のせいだ。
「それじゃあ、私ん家ここだから。」
「うん。」
「送ってくれてありがとね。」
「うん。また明日。」
「また明日。…あ!」
手を振ってお互い背を向けて帰ろうとしたところで、私は重要なことを思い出した。
「憂!連絡先、交換しよ!」
「今日はまだすれ違い未遂だったけどさ、」
「すれ違い未遂?」
「そ!離れていても一緒にお話できるようにしたいし。」
「そうだね、じゃあ交換しよっか!」
「うんっ!」
「えっと…どうしようかな。あ!憂、”Mile”持ってる?」
「持ってるよ、Mileで交換する?」
「うん。」
Mileは中高生に人気のメッセージアプリで、中高生向けなためスタンプとかいろいろな機能がすべて無料で利用できる、ちょっと便利なアプリ。
「よっしできた!」
「わ、憂のアイコンかわい!白ウサギだー!」
「あはは、なんか照れる。」
「ふふっ。」
だんだんと地面の茜色が薄くなって、暗くなっていく。
「あ、憂、帰らなくて大丈夫?」
「うわ、ほんとだ!そろそろ帰らなきゃだ。」
「ごめんまた明日!」
「うんまた明日!!」
家に帰って手を洗って一直線に自分の部屋に行く。部屋に入ってベッドに飛び込む。うつ伏せになってベッドで悶える。
「(っ〜〜!!連絡先交換しちゃった〜〜!!)」
「夢じゃない、よね…?」
スマホの画面を確認して憂の名前を探す。ほんとにいる。そこに、名前がある。
「出会えてよかった…憂がいなかったら、私…」
「恋夏〜?夕ご飯できたよー。はよう来なー。」
「はーい!ちょっとまってておばあちゃん!」
「今日もいいことあったんね。恋夏、前よりいい顔してるよ。」
「っ…!憂と会えたからかな。」
「恋夏が元気そうでおばあちゃんも嬉しいよ。」
「うん!」
「そういえば今日のお夕飯はどう?」
「…うん、ホクホクで、いいと思うよ。」
「そうかい。」
「恋夏。」
「ん?」
「無理はしなくていいんだよ。ゆっくりでいいからね。」
「うん…ありがとう、おばあちゃん。」
夕ご飯の後部屋に戻ってスマホを確認する。
「あー!憂から来てる!」
『なんとなく恋夏と話がしたくて送っちゃった』
『返事くれたら嬉しいな』
「憂…!」
『わかるよ、私もお話したくて送ろうと思ってたもん』
そう送ったらすぐに相手が読んだことを示すマークが付いた。それですぐに返信が返ってきた。
『ほんと?うれしいな』
『恋夏もおんなじ事思ってくれてたなんてさ』
『私も嬉しい。今日はほんとに楽しかったよ』
『俺も!そうだ、明日も会えないか?』
『いいよ!会おう会おう!!どこで待ち合わせる?』
『今日と同じとこでもいい?』
『うん!私あそこ好きだよ。いい景色で、落ち着くし』
『良かった。じゃあ、明日もあそこに一時集合!でいいよな?』
『うん!なんか今から楽しみになってきちゃった』
『あははっ、恋夏ってば』
幸せだな。
「恋夏ー、お風呂入りー。」
「は、はーい!」
名残惜しい、まだもうちょっと話していたい、でも、おばあちゃんが悲しむし…。
『ごめん、お風呂入らなきゃ』
『そっか、でもありがとうな』
『こんな無駄話にも付き合ってくれて』
「こちらこそだよ…。」
『ううん、こっちこそありがと』
『じゃあ、また明日!』
『また明日な!!』
明日も会えるなんて、幸せだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます