第2話 君は小春空

翌日、ちょっと早起きして身支度にいつもより気合を入れた。憂は私の中で特別になり始めていたような気がする。

「おはよう恋夏、今日はおめかしに気合が入っているんだね。」

「あっ、おばあちゃん!おはよ!」

おばあちゃんが起きてきた。

「えへへ、気合い入れ過ぎかなぁ?」

「いいや、そんなことないよ。ところで何時に会うんだい?」

「…あ、あー!決めてなかった!!いつ会いに行けばいいんだろ…?」

「あらまぁ…会うとしてもまぁ昼頃が無難じゃないのかい?」

「昼頃…?具体的に何時くらい?」

「そうだね13時半かね。」

「わかった。そうする。」


昼頃になって、私はそわそわとしていた。待ち合わせ場所も決めてない、だから家に行くしかない。それはとっても緊張することで、少し怖かった。

とにかく、行かなきゃいけないから昨日持って帰ってきた手提げ袋を持って家を出た。

「い、いってきまーす!」

「行ってらっしゃい、気をつけなね。」


緊張でどうにかなってしまいそう。男の子の家に行くのは初めて、というか全然ないから足が重たい。昨日は感謝を伝えないとっていう使命感から突き動かされたけど、今は違うから…。一旦心を落ち着かせようと港に寄った。昔から海を見ると落ち着くから。船着場からちょっと離れたちょっと広いところに行くと、人影が見えた。海を見つめながら座っている。

「(誰だろ……。)」

誰かも分からないから、少し離れて座ろうと思った。そしたら、座ってる人がこちらを見た。

「あれ?恋夏?」

「え?」

「ゆ、憂!」

「奇遇だな。」

「う、うん。会えてよかった…。」

「だな、俺もうそろそろ戻ろうかななんて思ってたんだよ。」

「え?なんか用事とかあるの…?」

「ううん、そうじゃなくて家にいないと恋夏が困るかなって思ってさ。」

「あ…そうだね。危ないとこだった。」

「あははっ。…そういえばその手提げ袋は?」

「あ、そうだ!これ一緒に食べようと思ってさ。おばあちゃん私のために買いだめしてくれたんだけど、一人で食べるのは寂しいし。それに憂の好きな物も知りたいし。」

「俺の?ありがと。そーだなぁー…。」

そう言って憂は差し出した手提げ袋の中のお菓子を吟味し始めた。

「んー、あ!これ俺好きなやつだ!……おお!これもある!あっ!!これ一番好きなやつ!めちゃくちゃ美味いんだよこれ。」

子供みたいにはしゃぐ憂を見てると嬉しくなる。私が持ってきたからこんなにはしゃいでくれているから。

「ほんと?ふふ、嬉しい。私もそれ好き。」

ちょっと嘘をついた。嬉しいのは本心、だけどお菓子は好きじゃない。お菓子の味なんか気にしないから。でも、憂が好きなら私も好きになるだろう。

「一緒に食べようぜ。」

「うん。」


二人でお菓子を広げて食べた。今までになく楽しい。友達とこんな事したのいつぶりだろう、なんて感傷に浸っていたら、憂が話を切り出した。

「俺さ、空が好きなんだ。」

「空?たしかに、綺麗だもんね。」

「空模様も好きだし、天気も好き。」

「天気…。」

「俺は天気の神様の感情で天気が変化するって思うんだ。」

「天気の神様?」

「うん、天気の神様。」

「天気の神様には人間みたいに喜怒哀楽があると思うんだよ。」

「あと、天気の神様の気分で天気が変化していってるんだと思うんだ。」

「ほほう?」

「ふふっ、晴れは喜びで雨は哀しみ、怒りは雷雨とか暴風雨で楽しい気持ちは快晴!ってな感じで。」

「へぇー!おもしろいね。」

「だろ?」

「それと、日本語にさ心が晴れるとかあるじゃん?それは天気の神様から由来してるんじゃないかって思うんだ。」

「どうして?」

「それはさ、天気の神様の心が喜びに満たされて曇りとか雨とかから天気が晴れに変わるなんてことがあるかもしれない。俺、それが由来なんじゃないかって思うんだ。」

いい終わった憂の顔は晴れ晴れとしていて、楽しそうだった。

「憂の話おもしろいね。ずっと聞いてられるよ。」

「そう?」

「うん、楽しそうに話してるからこっちまで楽しくなってくる。」

「……そんなこと言われたの初めてかも。」

そう言う憂は照れくさそうに頭をかいた。軽く顔をしたに向けて、上目遣いで見つめる。その仕草にいちいち私の心臓は脈打つ。

「そんな話する相手いないし、恋夏が聞いてくれてさ俺、嬉しいよ。」

照れて下を向いてた憂はぱっと顔を上げて、ぱんっと手を叩いた。

「さ、次は恋夏の番!恋夏は何が好き?」

「…えっと、犬、かな。」

「いいじゃん!犬!犬種は?」

「大型犬とか好きだなぁ。でも小型犬もいい。中型犬も可愛いし…。決めらんない!」

「あははっ、どんな犬も可愛いもんな。」

「でも飼うなら……小型犬がいい…。」

少し、声が暗くなる。過去が頭をよぎったから。憂は私のそんな様子を察してか、優しい笑みを浮かべた。

「…そっか。俺はハスキーが好きだな。かっこいいし、ギャップもあって可愛い。」

「ふふっ、そうだね。」

憂はすぐ私の気持ちを察して、場を和ませてくれる。とっても優しくていい人だ。

「憂、ありがとう。」

「ん?…おう!」

ちょっと戸惑うあどけなさもいい。この夏のこときっと一生忘れないだろう。

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