ある上等兵が語る「誰にも言えなかった作戦」
収録日:2021年10月
話し手:元米陸軍第75レンジャー連隊所属 トラヴィス・“T.J.”・ヘンダーソン上等兵(当時)
聞き手:戦史ジャーナル『Military Reflections』編集部
──本日はお時間をありがとうございます。まず、当時のご所属と任務について教えてください。
ええ、当時は第75レンジャー連隊、2大隊、ブラボー中隊に所属していました。階級は上等兵(E-3)。2008年10月の時点で、すでに3度目のイラク派遣中でした。ただ、あの夜の任務は、イラクじゃなく“シリア”だった。それが異常だったんです。
──アル・スカリヤ襲撃は、公式には「国境を越えた特殊作戦」として知られています。現場にいたあなたから見て、どんな作戦でしたか?
言ってしまえば、「斬首作戦」でした。ターゲットはアブ・ガディヤ──ISISじゃなくて、当時はまだアルカイダ系のネットワークの人間。彼は武器、金、戦闘員をイラクに流し込んでいた。俺たちは“その蛇の頭を潰しに行った”って感じです。
──作戦当日の状況は?
日没後にブラックホークで発進しました。機体は無音飛行モードで、4機編隊。俺は最初の突入チームにいて、村の外れの平屋に降下しました。敵の武装は軽装、AKと拳銃だけ。でも、何があるか分からない緊張感は半端なかった。
着地と同時に、先行班が突入、俺たちは外周確保。夜空は真っ黒で、周囲には家族らしき人間が逃げ惑っていた。誰が敵で誰が民間人か、瞬時には見分けがつかない。でも、我々には迷ってる暇はない。
──実際に交戦は?
交戦はありました。敷地内にいた護衛2人が銃を向けてきた。俺のチームリーダーが即応射撃で排除。戦闘自体は、ほんの数分でした。対象と思われる人物は、別の部屋で確保されました。後で聞いた話ですが、米中央軍はその男がアブ・ガディヤ本人だと判断していたようです。
──シリア国境を越えての作戦ということで、現場の緊張感は特別でしたか?
そりゃもう。これは「見つかれば国際問題になる」作戦だったから。俺たちには一切の所属表示がなく、捕まっても“公式には存在しない”ってやつですよ。無線は最低限、部隊内での呼び出しは全部コードネーム。空軍のカバーも、イラク側の電子支援しかなかった。要するに、“成功しても誰にも褒められない、失敗すれば外交問題”のタイプの任務でした。
──作戦後、何が一番印象に残っていますか?
朝の空です。村を離脱してヘリに乗った後、朝焼けがイラクの地平線に滲んできて、俺はずっと考えてましたよ──「あれが本当に正しかったのか?」って。
でも同時に、「あれをやらなきゃ、何人の味方がイラクで死んだか分からない」とも思った。それが戦争ってもんだと、痛感しました。
──今になって語れること、語りたいことはありますか?
あの夜、俺たちは任務を果たしました。でもそれは「誰にも知られない戦争」だった。ニュースは数行の記事、国防総省は公式に認めも否定もしない。だけど、そこにいた俺たちは確かに呼吸して、走って、引き金を引いた。
だから、こうして語ることで、少しでも“記録”に残したいんです。誰かがやったことじゃない
ーー俺たちが、やったことなんだって。
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