Military Reflections
カバーニャ要塞
情報担当士官が語る“影の戦争”
収録日:2022年5月
話し手:元米陸軍情報将校 エリック・マシューズ中尉(当時)
聞き手:戦史ジャーナル『Military Reflections』編集部
──マシューズ中尉、まず当時の任務について教えてください。
ええ。私は2008年、イラクのキャンプ・スピアヘッドにある情報処理部隊に所属していました。階級は中尉で、具体的にはヒューマン・インテリジェンス(HUMINT)とシグナル・インテリジェンス(SIGINT)の交差点を扱っていました。実働部隊ではありませんでしたが、作戦立案に関連する資料整理や分析に関わっていました。
──“アル・スカリヤ”作戦について、どの程度把握していたのですか?
私たちのレベルでは、非常に断片的でした。コードネームも正式には知らされていませんでしたし、「国境を越えて何かが起きる」という漠然とした情報しか伝えられていませんでした。ただ、その「何か」がシリア側で起きるというのは、ちょっとした噂になっていたんです。なにしろ、当時のブッシュ政権にとってシリアは非常に微妙な存在でしたから。
──具体的にどんな情報を扱っていたのでしょうか?
「アブ・ガディヤ」というコードネームの男に関する情報です。彼はイラク西部に戦闘員や物資を流し込むネットワークの司令塔で、事実上アルカイダの“ロジスティクス責任者”でした。私の仕事は、イラク側で拘束された戦闘員の尋問記録をレビューし、その中から“ガディヤ・ネットワーク”に関する断片を拾い上げることでした。どのルートを通り、誰が橋渡しをしていたのかそれを地図上にプロットしていくんです。
──作戦が実行されたとき、どのように知りましたか?
公式には翌朝、内部通達で知りました。ただ、夜中の1時過ぎに「TRACER-ECHO」と呼ばれる通信傍受速報で、極めて異常なヘリの出入りが確認されたんです。場所はシリアとの国境地帯で、アブ・カマルに近い農村。誰かが「これはおそらく実行だ」とつぶやいたのを覚えています。現地部隊が無線封鎖をしていたので、リアルタイムでは詳細が入ってきませんでした。
──作戦の評価について、当時の部隊内の反応は?
正直、複雑でした。一部の士官は「越境作戦は明確な主権侵害だ」と懸念を示していました。でも、多くの兵士や下士官たちは「ようやくやったか」という安堵のような空気を醸し出していたのも事実です。アブ・ガディヤのネットワークは、何ヶ月にもわたりIED(即席爆発装置)や外国人戦闘員を送り込んでおり、我々の被害にも直結していたんです。
──今振り返って、あの作戦にどんな意味があったと思いますか?
戦略的には小さなピースだったかもしれませんが、心理的・象徴的には大きかったと思います。米国がシリア国境内でも実力行使をする意思があることを示したわけですから。ただ一方で、作戦の成功が長期的なネットワーク破壊には直結せず、「頭を潰しても胴体が再生する」ような感覚も覚えましたね。情報というのは、常に限られた中で最善を選ぶものですから。
──ありがとうございました。最後に、あの作戦に個人的な感情はありますか?
ええ。直接関わってはいませんが、あの地図にプロットした無数の名前と点は、今でも頭に残っています。作戦の“きっかけ”のひとつになれたとすれば、それは少しだけ誇りに思います。
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