第8章 ビルドとキャスター②
焼け焦げた空気が肌を撫でていく。市街地跡の高架下、ひび割れたアスファルトに膝をついて、ビルドは荒い呼吸を整えていた。
「……追いついたの、また」
背後から声が届いた。キャスターだ。細かい火薬の匂いを纏っている。さっきまで続いていた銃撃戦の残滓が、彼女の輪郭を焦がしているかのようだった。
ビルドは振り返らずに言う。
「もういいでしょ。勝負はついてないけど……何度やっても、きっと同じ」
「同感。今の私たちに決着はつけられない」
キャスターは足音もなく隣に腰を下ろす。二人の間に、短い沈黙が流れた。
遠く、戦闘音。炎上する残骸の向こうに、一つの影が思い起こされる。
コード・アルファ。
そして、もう一つ。コード・フォックス。
「……フォックス、凄かったわね」
キャスターの言葉に、ビルドは少しだけ頷いた。
「あれは“圧”だった。技術でも、力でもなく。純粋な、戦う本能……殺意だけでできてるみたいだった」
「わかる。まるで、生きてる兵器。でも……」
「でも、それでも私はアルファを選ぶ」
ビルドが言葉を重ねた。小さな声だったが、確固たる意思がそこにあった。
「フォックスは強い。あれは認めざるを得ない。でもあれは“制御されない強さ”よ。誰にも扱えないし、たぶん本人にも扱えてない」
「対してアルファは……冷静で、論理的。戦場における意味と結果を、計算して動いている」
「どちらが勝つかはわからない。でも、私は“理性”に賭けたい。私の力が誰かの計画に組み込まれるなら、それが理性ある存在であってほしい」
キャスターも静かに頷いた。
「私も。あれほど完璧に“構築された戦術”を見たのは初めて。あの動きのどこにも、無駄も、欲も、恐れもなかった」
「フォックスが“獣”なら、アルファは“刃”ね。磨かれ、研がれ、ただ一点を穿つためだけに存在している」
キャスターの言葉に、ビルドはふと笑った。
「じゃあ私たちは、その刃の柄ってとこか」
「柄でも、鞘でも、構わない。生き残るためじゃない。“意味ある存在”として戦場に立ちたい」
二人は無言で立ち上がる。
焦土の空の下、焼けた鉄骨の匂いの中で、確かな意志だけがそこにあった。
「……アルファに接触するわ」
「ええ。このまま消耗して朽ちるくらいなら、選ばれた刃のそばに立ちたい」
市街地の風が、二人の頬を冷たく撫でた。
彼女たちの選択は、逃避でも従属でもない。
それは、強さを“信じる”ことにした者の、最初の一歩だった。
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