第2話

決定的な一言を放つ。


これを言えば諦めてくれるだろう。


先生と生徒に明るい未来なんて…ない。

あくまでも私の世界では。だけど。


ペンをノートに置き直しながら、これ以上話す意味はないと感じる。


「え…、それだけ?」


その言葉に、ため息が漏れそうになるのを押しとどめる。


十分な理由ではないか。


何を期待しているのか分からないが、その期待に答える日は来ない。


これ以上何を言っても無駄みたいだ。


結局はまた明日、同じやり取りが繰り返されるのだろう。


「…はぁ」


それでも、こぼれた溜息は空気を震わせる。


一体、何度目の告白なのか。

どうしてこの人はここまで諦めが悪いのか。


無駄な考えが頭をよぎる。


こんなことに思考を使う時間が、もったいないのに。


「何だよそのため息」


予想通りの反応。


ゆっくり顔を上げると、予想通り困惑した表情をしている。


背もたれに軽く寄りかかりながら、小さく目を閉じた。


「先生と生徒の禁断の恋なんて、私の手に負えません。それに、そもそも先生タイプじゃないです」


感情を交えず、理論的に述べる。


こう言えば、少しは納得するだろうか。


いや、甘い期待は持たない方がいいかもしれない。


「え、今先生を盾にしてシンプルに振られたよね。俺の気のせいじゃないよね」


目を細めてじっと見つめられる。


視線を感じつつも、それを避けるようにノートへと視線を落とす。


無言のまま、ページをもう一度めくる。


気のせいではない。


間違いなく、本気の拒絶だ。


でも、そう言ったところで無意味なんだろう。


この場所でやるには不釣り合いなやり取りだと、改めて思う。


静寂に満ちた図書館。


空調の音と紙をめくる微かな音だけが響く空間。


周囲には誰もいない。


だからこそ、このやり取りは許される。

けれど、もし誰かが聞いていたら。


そんなことは考えたくもない。


私はただ、静かに過ごしたいだけなのに。


図書館の静けさが、妙にこの会話を際立たせる。


誰かが扉を開けてこの状況を見たら、どう思うのか。


いや、それ以前に、どうして毎日こんなことを繰り返すのか。


新手のいじめなんだろうか。


「一体どこに生徒を口説く教師がいるんですか」


生徒に告白する教師なんて、世界中どこを探しても存在しないはずなのに。


普通、教師は生徒に勉強を教えるものだ。


進路相談とか、授業のこととか、せいぜい日常のちょっとした雑談くらいのはずなのに。


それなのに、この人は違う。


どう考えても、“教師としてのあり方”を間違えている。


いや、間違えているというよりも、完全に逸脱している。


まともな大人なら、誰もがこの状況をアウトだと判断するはずなのに、




目の前の人間は、驚くほど悪びれる様子もなくあっさりと言い放った。



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