第3話


「ここにいるけど」


……知ってる。


そんなこと、確認するまでもなく分かっている。


だけど、もうちょっと罪悪感とか、せめて申し訳なさそうな態度とか、そういうのはないのか?


この人は、毎日毎日しつこく告白してくる。


まるでそれが日課であるかのように、何の躊躇もなく、私の平穏な時間を破壊しにくる。


もう何回この会話を繰り返しただろう。

それを数えることすら、無駄なんだろうけど。


恋愛感情って、こんなにも持続できるものなのか?


一度…二度断られたら諦めるべきなんじゃ…

べきというか、自ずとそうなるはず…


鋼のメンタルでもない限り。


これはもう、ただの執念なのでは?


……そう思う時点で、私はすでにこの状況に慣れつつあるのかもしれない。


「はぁ、」


ペンを持ったまま、机に肘をついてぼんやりと前を見た。


私は、知らない間にループを繰り返しているのだろうか。


なんて柄にもなくそんな想像をしてしまうほどに、戸惑っていた。


「またため息。ため息ばっかりついて何か悩み事でもあるのか?先生に相談してみろ」


……この人、本当に何も分かってないのか?


それとも、分かっていて言っているのか?


ため息の原因になっている本人が「相談してみろ」なんて、どう考えても冗談にしか聞こえない。


本気で言っているなら、それこそ問題なんだけど。


「無自覚なのだとしたら…恐ろしい」


だけど、残念ながら本気らしい。

それが先生の恐ろしいところだ。


こんなに堂々と生徒を口説き続ける人間、普通はいない。


いや、いたら困る。


この人は、たぶん自分の行動に対して深く考えていない。


ただ、“好きだから”という単純な理由だけで毎日告白を繰り返している。


これだから、生徒にモラ先なんて言われるんだよ。


「え、何?どういうこと?」


少し間の抜けた反応。


眉を少しひそめるような、理解できていない様子。


ただ分かっていないフリをしているだけなら、どれだけ良かっただろうか。


私は小さく息を吐きながら言った。


「もういいです。先生、私は勉強がしたいです」


はっきりと宣言する。


私にとって最優先なのは、今目の前の問題を解くこと。


先生のしつこい告白ではない。


だから、終わらせる。

この会話を強制的に切り上げる。


でも先生はそんなこと、気にしない。


いつも通りの軽い調子で返してくる。


「どうぞ?」


どうぞって…


あなたが話しかけてくるせいで、集中できないんですけど。


「先生がいると気が散って集中できないんですよ」


静かにそう告げる。


視線はノートの上、ペンを軽く回す。


今から解こうとしていた問題が、頭の中でふわりと霧散していくのを感じる。


どうしてこうなるんだろう。


本来なら、静かな図書館で落ち着いて勉強できるはずなのに、目の前には一番集中を妨げる存在がいて。


それがまさかの教師だなんて、誰が予想できただろう。



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