第12話 不信
水野姉妹の車が見えなくなった後、舞子は夜の静けさの中で、ふと立ち止まった。栞も、姉の様子を訝しげに見つめている。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
栞の問いかけに、舞子は少し考え込むように俯いた。「うーん…やっぱり、鳴海さんの言っていたこと、少し引っかかるんだ」
「引っかかるって?あの、抜け殻の力を利用するってこと?」
栞はすぐに舞子の意図を察した。「確かに、なんだか危ない気もするけど…他に方法がないのかもしれないし」
舞子は顔を上げ、遠くの夜景を見つめた。「でも…あの抜け殻から感じた、悲しいだけの力で、本当に何か良いことができるのかな?それに…なんだか、利用するって言い方が、引っかかるんだ。まるで、あれ自体に意思がないみたいに…」
栞は腕を組み、少し考えた。「うーん…確かに、あの時、お姉ちゃんが見たって言ってた、悲しい記憶の塊みたいなものだとしたら…。無理やり利用するって、なんだか違う気がするね」
舞子は、栞の言葉に深く頷いた。「うん。私もそう思う。もっと、他に方法があるんじゃないかな…。それに、あの抜け殻が一体何なのか、もっとちゃんと知りたい気がする」
「じゃあ、どうする?」
栞が問いかけると、舞子は少し間を置いて言った。「私、久しぶりに大島に戻ってみようと思うんだ」
「大島に?どうして?」
栞は目を丸くした。
「あそこで、いろんなことが始まった気がするから。それに…村田さんに、もう一度話を聞いてみたいんだ。もしかしたら、何か手がかりになることを知っているかもしれない」
「村田さんって、沖津宮の郡司さんだよね?お姉ちゃん、小さい頃から神社の手伝いしてたもんね。でも、もう五年も帰ってないんじゃない?」
栞の言葉に、舞子は少し寂しそうな表情を浮かべた。「うん、そうだね…。でも、村田さんは、私のことずっと心配してくれていたから。きっと、また会って話を聞いてくれると思うんだ」
「分かった。私も一緒に行くよ」
栞は、すぐに舞子の決意を支持した。姉の不安な気持ちを察して、一人で故郷へ帰すのは心配だった。
夜明け前の静かな港。舞子と栞は、久しぶりに大島行きのフェリーに乗り込んだ。潮の香りが、懐かしい記憶を呼び覚ます。五年ぶりに見る故郷の海は、どこか優しく、舞子の心にじんわりと温かいものが広がった。
フェリーが港に着くと、見慣れた景色が目に飛び込んできた。変わらない島の風景に、舞子は安堵の息をつく。二人は、沖津宮へと続く参道をゆっくりと歩き始めた。
神社の境内に足を踏み入れると、見慣れた顔がすぐに舞子を見つけた。白髪が増えたものの、優しそうな眼差しは変わらない村田が、驚いた表情でこちらを見ている。
「舞子さん…!本当に舞子さんですか?」
村田の声は、驚きと喜びが入り混じっていた。五年ぶりの再会に、言葉が見つからない様子だった。
「ご無沙汰しております、村田さん。舞子です」
舞子は、深々と頭を下げた。隣で、栞も丁寧に挨拶をした。
村田は、目を潤ませながら舞子の手を握りしめた。「ああ、舞子さん…。本当に大きくなられて…。ずっと、あなたのことを心配しておったんですよ」
その言葉に、舞子の胸にも熱いものが込み上げてきた。故郷の温かい繋がりが、久しぶりに舞子の心を包み込んだ。今、舞子が抱える不安や疑問を、この優しい眼差しの持ち主なら、きっと受け止めてくれるだろう。舞子は、村田に、これまで起こった出来事、そして今、感じている不信感を打ち明ける決意を固めた。
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