第11話 姉妹の岐路と彷徨う影
「鳴海さん」
舞子は、決意を込めた声で言った。「私たちも、ただ待っているわけにはいきません。二手に分かれて、それぞれ調査を進めるのはどうでしょうか?」
栞も、姉の言葉に同意するように頷いた。「うん、そうだね。手がかりを少しでも早く見つけたいな」
鳴海は、舞子の提案を真剣な表情で聞いた後、優しく微笑んだ。「うん、それがいいかもしれないね。私たちも、できる限り協力するから」
「ありがとうございます」
舞子はぺこりと頭を下げ、再び顔を上げた。「鳴海さん、もしよかったら、『海門』のこと、もう少し詳しく教えてもらえますか?場所とか、何か言い伝えとか、手がかりになりそうなことがあれば…」
鳴海は少し考え込むように目を伏せた。「『海門』ね…。かつての貞子さんが封印した場所だって聞いたわ。詳しい場所までは、私たちもまだはっきりとは分からないの。でも、古い書物とか、村の人の話だと、すごく強い霊気が集まる場所で、違う世界への入り口とも言われているみたい。封印する時も、すごく大きな力が必要だったらしいわ。きっと、その辺りには何か手がかりとか、詳しいことを知っている人がいるかもしれないね」
「違う世界への入り口…」
栞は、その言葉に小さく息を呑んだ。「なんだか、すごい場所みたいだね」
一方、助手席の奈緒は、姉と舞子たちの会話を静かに聞いていたけれど、心はさっきのサービスエリアで見た、あの黒い影のことがどうしても気になっていた。冷たい感じとか、何もないはずなのに、そこにいるような気配とか…。一体、何だったんだろう。どうしてあんなに、悲しい記憶だけが残っているみたいだったんだろう。
(あの感じ…まるで、どこにも行けなくなって、ただそこにいるだけの感情みたいだった…)
奈緒自身も、昔、誰にも言えなくて、どうしようもない気持ちを抱えていたことがあった。だから、あの抜け殻から感じた、深い悲しみと孤独が、他人事とは思えなかったんだ。
(どこへ行ったのかな…あの影は…)
鳴海や舞子、栞がこれからどうするか話している声が、ぼんやりとしか聞こえない。奈緒の頭の中は、あの消えていった影のことでいっぱいだった。もし、あれがただの怨念の残りじゃないとしたら?もし、何か別の目的があって、うろうろしているとしたら…?
「奈緒?」
鳴海の優しい声が、奈緒を現実に引き戻した。「…うん、どうしたの?」
「大丈夫?なんだか、考え込んでいるみたいだったけど」
鳴海の心配そうな顔を見て、奈緒は少し微笑んだ。「うん、ちょっとね…昔のことを思い出していたの」
それは、本当の気持ちの一部だった。あの抜け殻のことは、奈緒の心の奥底に、そっとしまい込んでいた痛みを、優しく、でも確実に呼び覚ましていた。あの影のことが、これから起こる何かに繋がっているような、そんな気がしてならなかったんだ。
舞子は、鳴海から教えてもらったわずかな情報を、栞と顔を見合わせながら整理した。「とりあえず、海門があったかもしれない場所の近くを、何か手がかりを探しながら回ってみようか。古いお話を知っている人とか、何か変わった場所がないか、聞いてみるのもいいかもしれないね」
栞は、うん、と力強く頷いた。「そうだね。私たちにできることから、やってみよう」
鳴海は、二人の真剣な眼差しを見て、心強く思った。「私たちも、こっちで何か手がかりがないか、調べてみるわ。何か分かったら、すぐに連絡するね」
それぞれの心に、少しずつ違う思いを抱えながら、夜は静かに更けていく。舞子と栞は、まだ見えないけれど、確かに存在する脅威に立ち向かうために、小さな一歩を踏み出そうとしていた。鳴海は、遠い過去の封印の記憶を辿り、かすかな光を探そうとしていた。そして奈緒は、心の奥で静かに疼く過去の痛みと、消えていった抜け殻への言いようのない不安を抱えながら、夜の闇を見つめていた。あの彷徨う影は、一体何を引き起こすのだろうか。まだ、誰も知る由はなかった。
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