第6話 竜刀包丁

 『双頭牛鬼』を討伐し、美味しい牛肉を手に入れるべく『ミノタウロスの洞窟』に向かうことに決まった。

 しかし先ほどの小手調べのダンジョン探索と異なり、『ミノタウロスの洞窟』程のダンジョンに向かうのであれば、秀樹だけでなく優梨花の装備も整える必要がある。

 しかも優梨花は珍しい『料理人』である。彼女に合う装備は直ぐには用意できない。そのため秀樹が懇意にしている商人にそろえてもらう時間が欲しいと優梨花に説明した。すると、


「あ、装備の件でしたら用意してありますよ。『炎の料理人』セット一式と、特注の竜刀包丁です。私たちからの優梨花さんへの就任祝いということで」

「え、本当? ありがとう青葉ちゃん」

「…セット装備に加えて竜刀って、包丁サイズだとしてもそうとう値段行くでしょ。それにいつの間に」


 牛を切り分ける西洋のナイフを牛刀と言うように、竜すら切り分けられるという謳い文句を掲げ、竜の骨を素材にした刃物全般を竜刀と呼ぶ。

 最近は少しずつ探索者のレベルも上がってきて竜種であれば狩れるギルドも増えてきたが、それでも竜素材は希少であり、その分値段も跳ね上がる。

 しかもそれに加えてセット装備である。名前からして『料理人』専用の装備であるため需要は皆無かもしれないが、それでも並みの装備よりは遥かに希少性がある。

 流石に探索者になった祝いに受けとる物ではない。


「優梨花さんが探索者になると聞きましたので急ぎました。時間がありませんでしたので勇作さんのお父様のツテをお借りしましたが」

「勇作くんの…何もそこまでしなくても」


 齋藤勇作。青葉の婚約者であり探索者協会では若手の出世頭としてバリバリ働いている。そんな彼の父親齋藤勇次郎は、ダンジョン素材やアイテムの売買を行っている会社『サイトウ』の社長でもあった。

 

「セット装備は不良在庫として困っていたモノだったそうです。それに勇作さんのお父様は、優梨花さんの料理のファンですから、是非優梨花さんにと竜刀包丁もお安くいただきましたよ」

「あら、ならまた料理を振る舞いに行かせて貰うわね」

「はい。お喜びになると思います」

「それにしても、優梨花が『料理人』にならなかった場合…って質問は愚問か」

「はい。優梨花さんが『料理人』系以外のジョブになる筈がありません」 


 優梨花は今日ダンジョンに行き『料理人』のジョブを授かったため、下手をすれば竜刀包丁は兎も角セット装備は無駄になるかもしれなかった。 

 しかし青葉は優梨花が探索者になると決めた時点で、『料理人』系統以外のジョブを授かるなんて考えもしなかったのであった。


◆◆◆


 青葉の厚意により、準備が完了してしまったため、一度体勢を整える必要がなくなってしまったちめ、そのまま『ミノタウロスの洞窟』に向かう事になった。


「はぁ、まあ何となくこうなる予感はしてたからいいけどね。あ、でも優梨花。1つだけ気をつけて欲しいことがあるんだよ」

「何かしら?」

「『調理』スキルに効果についてなんだけどね…」


 秀樹が先ほどのダンジョンでの戦闘などを分析した結果、『調理』スキルとその派生である『仮想キッチン』には、優梨花が食材だと認識しているモンスターへの特効があるようであった。

 

「なるほど。つまりその『双頭牛鬼』を食材だと認識している今の私ならその特効が成立するのね?」

「今の優梨花はね。でも気を付けてね。『双頭牛鬼』は双頭で二足歩行。頭は牛だけど体は人間に近い。実物を見て食材だと認識出来なければ特効は切れる。それどころかスキル自体が発動しないかもしれないからね」

「なるほど。『泥人マッドマン』とかがキッチンに乗らなかったのはそういう…でも『双頭牛鬼』は美味しいんでしょ?」

「そうだね。絶品だって話は良く聞くね」

「なら大丈夫ね」


 美味しいのであれば、それは凶悪なモンスターなどではなく、等しく食材であると認識できる自信が優梨花にはあるのだった。 

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