第7話 双頭牛鬼
『双頭牛鬼』は激しく後悔していた。
このダンジョンに存在するどのモンスターよりも強く、向かってくる人間たちすら容易く蹴散らせた事で全能感すら感じていた。そのため2人組の人間を、厳密に言えば料理人のような格好をしている女性を見た瞬間に『双頭牛鬼』の頭の中で鳴る警鐘を無視してしまった。しかしそれは間違いであった。
『双頭牛鬼』の戦闘スタイルは、物理と魔法の両刀スタイルである。
両刀は中途半端になりやすいが、2つの頭がある『双頭牛鬼』であれば、近接戦闘や回避を行いつつ魔法の詠唱をする『並行詠唱』も容易のため使いこなせていた。
【モォモォ】
【モォーーー!!】
「片方の頭でこっちの様子を伺いながらか。炎熱系魔法の『炎槍』かな? 優梨花、炎の槍がこっちに…って何してるの?」
「『炎の料理人』七つ道具の1つ中華鍋よ!」
炎熱系魔法の中でも殺傷性の高い『炎槍』が飛来する直前に、優梨花は何処からともなく取り出した中華鍋を構えていた。
「何で中華鍋を構えてるか、って危ない」
「何でって、っと!」
「へぇ?」
【【モ゛ォ!?】】
優梨花の謎の行動に気を取られている間に『炎槍』は放たれる。しかしその『炎槍』はものの見事に優梨花が構えた中華鍋に吸い込まれそのまま霧散する。
あまりの光景に秀樹も、『双頭牛鬼』も呆然としてしまうが、優梨花だけはさも当然のようにしていた。
「こうやって中華鍋を空焼きするためよ。やっぱり新しい鉄製品は空焼きしたいと思ってたのよ」
「『炎の料理人』セットの説明欄に炎の扱いに長けるようになるってザックリとした説明がされてたけど、えぇ…」
装備品が凄いとか、装備者が凄いというか、両者の相乗効果でとんでもない使われ方をしている。
渾身の『炎槍』を容易く防がれ、しかも自分たちではなく中華鍋に注目している料理人。『双頭牛鬼』からすれば恐怖しか無い。
『双頭牛鬼』から先ほどまでの全能感は消え去り、頭が痛くなる程けたたましい警鐘が聴こえてくるが時すでに遅いのであった。
◆◆◆
魔法が通用しないならばと物理攻撃を選択した『双頭牛鬼』であるが、結果は悲惨であった。
『双頭牛鬼』がミノタウロスよりも優れている点は魔法抵抗力と魔法が使える事である。それの選択肢を放棄すれば、ミノタウロスを単騎で討伐可能な秀樹と、食材特効かつ竜刀包丁で常に威圧感を漂わせている優梨花に敵う訳が無いのだ。
【も、モ゛ォーーー!】
【モモォーー!!】
「鳴き声は『大角牛』も『双頭牛鬼』もまな板の上に乗せたら変わらないわね」
「いや…え、『仮想キッチン』のまな板って、食材ならどの大きさでも乗せられるの!?」
「そうね。仮想だもの」
「ちょっと仮想って言葉を過信しすぎじゃないかな!」
生産系スキルは使用者のイメージが効果に多大な影響を与えるとは良く言うが、ここまで物理的な影響をもたらす事に秀樹の叫びは止まらないのであった。
【【モ゛ォーーー!!】】
「…でも大きいだけあって煩いわね。仕方ないわね。秀樹さんノッキングお願い」
「…分かった。眉間に諸手突きでいい?」
「はい。あ、2つの頭どちらもお願いね」
「はーい」
とはいえ乗せられたモノは仕方がない。優梨花は中華鍋の油ならしをやりつつ、ノッキングを秀樹にお願いする。
「ありがとう。じゃあ私は解体しちゃうわ。えーと討伐証明で牛頭は欲しいのよね?」
「最低限『双頭牛鬼』だって分かればでいいよ」
「分かったわ。…保存する分と今から食べる分を…その前に血抜きね!」
ノッキングにより脳震盪を起こし昏倒した『双頭牛鬼』を優梨花はテキパキと解体していく。
その姿を見ながら秀樹は静かに呟くのであった。
「『双頭牛鬼』…お前は幸せだよ。『大角牛』の犠牲のお陰で君は昏倒した状態で解体されるんだから」
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