第4話
一年というものを長く感じながらも、気付けば3歳になっていたレガロは、漸く聞き取って頭で意味を理解出来るようになって来た言語のシャワーを今日も浴びながら、未熟な言語話者故の取り違えかと、そう思いたかった現実という魔物にぶつかっていた。
「よぉし!今日はレガロの初陣だな!って言っても何かする訳でもねぇし、なんならただ親に抱かれてるだけなんだけどな!!ガッハッハ!」
「まぁ、さすがにこの子に戦わせるのは無理があるからね」
「そうだな。今回は、家業の見学ってところだ。」
「レガロ良い?これから知らないおじさん達に会いに行くけど、大人しく静かにしてるんだよ?少し喧嘩が始まるかも知れないけど、絶対レガルス達が守ってくれるから泣かないようにね?」
「うん、分かった。」
「おお、さすが俺達の子だな。初陣だと言うのになかなかどうして凛々しい眼をしている。こりゃあ、将来大物かもなぁ〜」
(いや、結構さりげなくと言うよりガッツリと自分なりに抗議の構えはしてたんだけどね?ベッドから起きて行く時間を遅くしたり、魔物が怖いって言ってみたり……)
脳裏に浮かぶ、「大丈夫だぁ、大丈夫!なんとかならぁ!ガッハッハ」という言葉に憎ましい感情を向けながら、既に諦観の念を心に抱いていた為に、もう周りが引き返せるような雰囲気では無いのをなんとなく感じ取って、仕方なく了承の意を親に返す。
彼は、幼児と言える歳ほどでありながら、なまじ既に思考だけはそこそこ熟していた為に、本来の同年代な子供であれば使えたイヤイヤ期の駄々を捏ねるという全力の力業を発揮する機会を得る事が出来ずに、流されて危険地帯へと身体を運んで行く。
(はぁ……せっかく生まれ変われたってのに、ここが俺の墓場になっちゃうのかも知れないな。)
「お?なんだぁ、不安なのか?大丈夫だって!今回の獲物についての情報は斥候や侵入組共からのだから、結構信頼出来るはずだ!それに、なぁ〜にソイツらが裏切ったとしても、久々に信用出来る連中だけで集まってする狩りなんだ。そう滅多なことは起こらねぇって!」
気楽に言う父親に対して息子はというと、
(いや、魔物相手とかだったら確かにその情報やら仲間やらは結構嬉しいんだけど、今回俺らがするのは、結局の所ただの強奪だからね?ファンタジーな世界なんだし、そろそろ天罰とか降ったりするんじゃないの?)
不安と前世に培った一応の薄い倫理観とが相まって、複雑で一本化がとても難しい心境で、父親の言葉には苦笑を返すくらいしか出来なかった。
しかし、レガロにとっては無常にも時間や物事というものは確実に前に進んでしまうものである。
武器の整備や装着を終わらせた熟練の無法者共は、それぞれが使い古されてはいるものの誰一人錆びた得物を持つ事なく、それが自然体であると立ち姿・座り方等の雰囲気だけで語っている。
新入りは一目で見分けられる程に、そこに居た大多数である彼らの皮鎧は小さな傷に彩られているが、それによる貧弱さなど微塵も感じられない程であった。
時間が経つにつれて漂ってくる重苦しい空気感を、レガロは母親に手を繋がれながら感じていた。
そして、時は満ちたとばかりに走ってくる斥候が遅く重く動いていた現場の歯車を押し進める最後のピースだったようで、
「頭ぁ!獲物が予定人数とほぼ同程度で、第一定点を通過しました!!」
「よぉし!ご苦労!!」
盗賊の頭であるレガルスは、軽く斥候の仕事を労ってから、勢い良く膝を両手で叩いて音を鳴らしながら立ち上がり、準備をしていた歴戦の戦士達に向き直る。
「聴いたかテメェら!!狩りの時間だ!!!」
「「うぉぉぉぉおおおあおお!!!!」」
レガロが今まで聞いたどんな音よりも腹の底に響くような猛者共が放つ大音量の絶叫が通り抜けて地面を揺らす錯覚を見せて来る。
そして、その叫びが鎮まるタイミングを上手く見計らってレガルスは言葉を重ねる。
「作戦は既に説明した通り、今回は俺の嫁とガキが囮役を務める!そして、合図が出たら先ずは魔法攻撃隊が露払いをする!いいか!?この3年はオメェらの育成期間みたいなのも絡んでるんだ、今回の初陣は絶対に失敗すんじゃねぇぞ!!」
「おぉぉぉおお!」
魔法使いを集めて作った戦闘部隊は、少人数ながら士気は十分と言った威勢の良い声を上げてアピールする。
「次に、露払いが済んだと判断したら敵地に俺が乗り込む!それを確認したら直ぐに各々の配置から獲物を狩る為に突撃して来い!!以上だ、各自配置に移動!!!」
「「「「おう!!!!」」」」
(作戦、ざっくり過ぎないか?)
父親の言葉に、今度は短く了解の意を示して各自が移動を開始したのを見てレガロは驚愕する。
当たり前ではあるが、ここは作戦会議の場所ではないが故に細かな作戦は語られなかった、しかし、そんな事前準備など知らないレガロは、作戦の短慮が過ぎて襲撃が失敗するのではないかと恐怖に駆られながらも、母親に抱かれながら移動する。
道中、3歳児となった自らを息を切らす事なく抱いて走る母親の凄さに驚愕しながら、気付けば定位置に着いていたようで、彼らは木陰に隠れて獲物の様子を伺う。
既に目視可能な範囲まで迫っていた獲物を確認した彼の母は、
「じゃあレガロ、行こうか!」
小さな声で嬉しさを溢すように微笑みながらそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます