第3話
(なかなか上手くいかないなぁ……)
魔法を見たあの日から、産まれて一歳にも満たない赤児は己の中にある神秘的なエネルギー、すなわち魔力が操れないものかと試行錯誤を繰り返していた。
(多分これだと思ったんだけど、気のせいなのかな?)
弱気になりそうな心を、あの日見た神秘を思い出して焦がれ、諦めずにひたすら知覚するために意識を向ける。
(恐らく一酸化炭素とかが出た場合に篭ったら危ないとかそんな理由なんだろうけど、あの日から魔法は一回も見せてくれてないんだよなぁ。)
赤児は、何度か魔法を出して貰ってじっくりと観察したいところだったが、それを伝えるための口はまだ未発達、ましてやそもそも言語すら分からない状況ではどうにもならなかった。
食事や排泄はある程度ジェスチャーや泣き声でも行けたが、「魔法を見たい」だなんて魔法を実際に使ってる所で思いっきり笑うとかぐらいしか、表現方法が思いつかずに再度あの光景を見る事は出来ていなかった。
しかし全くの手掛かり無し、というわけでもなく、あの日見た魔法を発生させるために使用していたであろう魔力とでも言うべきエネルギーの揺らぎを、赤児の敏感な肌のせいか外界にも自身の内側にも集中すれば極僅かながら感じ取れるようになっていた。
これが、ハイハイが出来るようになる前の事。
そして、一歳を超えて掴まり立ちを当然とし、更に頭が思い為素早くは難しいが軽い歩行くらいなら安定して出来るようになるような頃には、
(おお!これが魔力か?ゆっくりではあるけど動くぞ!!まだまだ全然動かせる量は少ないけど、これは鍛錬でどうにか出来るのか?最終的には使える魔力量がそもそも多くなったら最高なんだが。)
と言うように、魔力を知覚して極微量ながら動かす事も出来るようになっていた。
(取り敢えず、手のひらまで移動させてみるか?)
赤児は、全然思い通りにならない自身の魔力と格闘すること数刻。
漸く腹の底に溜まっていた魔力を手のひらまで移動する事が出来て興奮していた。
(よし!ようやくここまで持って来れたぞ!これで手の力が強くなれば……あれ?魔力が消えて行く?それに、なんか眠気が…………)
直前まで興奮していた赤児は、手元の皮膚表面まで魔力を持っていった際に急激な魔力の減少を感じた後、身体中のエネルギーを失ったみたいに脱力感を感じて、動けなくなる。
幸いにして、横になって鍛錬を行っていた為に転倒して頭を打つなど怪我に繋がるような事はなかったが、突如として増した疲労感に引っ張られて意識を闇の中へと沈ませて行く。
「あ!起きた!おはようレガロ。今日はお寝坊だね〜」
(「レガロ」。それと、「おはよう」だろうか?レガロは多分俺を指してる。後は分からんが、母親に抱かれているのか。)
微睡に引っ張られて霞が晴れきってない思考でぼんやりとそんな事を思いながらレガロは、頭を整理していく。
(……眠ってしまっていたのか。まだまだ体力が赤ん坊レベルだから仕方ないけど。)
ボーっとしながらも先ほどまで動かしていた魔力を探ると、腹の底まで戻っておりそこで不規則にゆったりと蠢いていた。
(せっかく手先の方まで動かしたというのに、またやり直しかぁ……)
結構長時間苦労して魔力を移動させていたので、また最初から時間をかけて動かす事について、多少鬱屈した気分になりはしたものの、それを口に出そうが「あーぶー」くらいにしかならないので、心の中で文句は押し止めつつ、暇なので結局は毎日そんな鍛錬を続けるのだった。
(赤ん坊の体に筋トレは無理かもしれないけど、それでも魔力なら何とかなる……はず、というかなってくれ)
この世界に神が居るのかどうか、そんなことは分からなかったし、元々信心深い方ではなかったために特に祈る先を決める事もなく、ただなんとなくそうやってレガロは祈りながら魔力的な鍛錬を続けた。
しかし、祈ったところで急激に上達するなんて事は勿論なく、とは言え、全く上達する気配がなかった訳でもなくあくまでもゆっくりと着実に腹部に集っていた魔力の可動範囲と移動速度は日々高まって行った。
そうして2歳を数える頃には、その効果も実感し始めていた。
(初めに比べれば大分早くなって来たな。初めは手先まで届かせるために数時間くらい使ってた印象だったのに、今ではゆっくりとなら全身にスムーズな移動をさせられる。)
レガロは、体内にいつも通り魔力を眼は瞑ってゆっくりと内側に意識を集中させて循環させて行く。
(体の表面に近づけば魔力がなくなっちゃうけど、これくらいなら循環させても問題なさそうだ。)
幾度も経験した魔力消耗に依る脱力感を思い出すと、これまでの苦労が頭に滲み出る。
精神的に一番辛かった、起きた時に最悪な気分になる寝小便が即座に脳裏に浮かんで来るが即座にスルーしてこれ以上嫌な記憶を思い出さないように、只管内側へと潜って行く。
(魔力の量も日に日に増えている。何倍にもなっている訳ではないかも知れないけど、明らかに最初より量が多い。)
毎日の積み重ねが効いたのか、それとも成長による自然な生理現象なのかは分からなかったが、それでも前進している感じがして、レガロにとってはこの魔力鍛錬の時間は結構好きな日課だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます