第2話




 赤児が魔法を見てから暫く経って、大人達が着用している革で出来た傷が随分と目立っているのにボロボロとした感じがしない雰囲気を漂わせる鎧的な何かに、言葉で表現するのが難しいファンタジー味を感じていた時からも更に時が経って、短剣や槍に打撃武器の類など物騒な得物を腰の辺りに帯びて外出し、気付けば人数が増えていたり、減っていたり、誰かが怪我をして帰ってきたりという事は当たり前な日常を過ごしながら、気づけば首が座り、ハイハイが出来るようになっていたそんな時期。

 彼は、久しぶりに父親を見ていた。



「おかえり!結構遠くまで行ってたみたいだね。」


「おう!なかなか獲物が姿を表さなくてな。途中で雨が降ってたし、それが原因かもしれん。何はともあれ、こうして成果も得られた事だし何よりだ。」


「損害は?」


「なぁ〜に、そんな大したことはねぇよ。暇すぎて体を鈍くさせてたせいで、流れ矢が立った間抜けもいたが、運が良い事に軽症で済んでたからな。結果的に、死者はゼロで怪我人もその運が良いのか悪いのか分からん軽症者一人ってところだしな。」


「うん、良かった。事前にそこまでの脅威はないって聞いてはいたけど、やっぱりちょっと不安だったから安心したよ。」


「なんだぁ?心配してくれてたのか?可愛い奴め、ガッハッハ」


「そりゃね。産まれて一歳にもならないで、父親が居なくなるなんてよくある話ではあるけど、それでも居てくれた方が良いでしょ?」


「確かにな!こりぁ、暫くはおちおちあの世に逝ってるわけにもいかんな!こいつが、立派な戦士になってくれるまで生きてないと!」


「そうだよー。だから、この子が戦えるようになるまでは危険は避けないとね。」


「そうかぁ、子持ちってのは色々大変だなぁ。まぁ、後悔なんてしてないから別にいいが。それに、こいつが初陣キメるのは3歳とかになったらだろ?なんなら一歳になったら大丈夫なんじゃないか?」


「うーん。私は大丈夫だって思ってたんだけど、3歳までは死んじゃう可能性が高いらしいよ?」


「なんだぁ、弱っちぃな〜」


「そりゃあ、赤ちゃんだからね。そんなもんじゃない?」


「しっかし、それならもうすぐに作戦を決行しないとまずいんじゃないか?ほっといたら死んじまうんじゃ?」


「それは私も思ったけど、私はせっかく産まれてきてくれたこの子を大切にしたいかな。」


「珍しいな。まぁ、そういう事なら数年待つか。」


「母親なら皆同じだと思うよ?ただ、頑丈に産めなかったら早くに死んじゃう子供達が多いってだけで。本当は皆大きくなって欲しいんじゃないかな?最近は、魔法とかの発達で大分死んで逝く子供達も減ってきた訳だし。」


「ああ、それで都の方は人口が増えて来てるって言ってたのか。そうだな。俺もこいつの巣立つ姿を見てみたいし、楽しみに待ってるとするか!…だが、もう一人くらい仕込んでおくか?念のために。ほら、子供は人数が多い方が楽しいだろ?」


「もう!少なくてもここでは嫌だからね?するならちゃんと宿とかでしたいし。」


「そっかぁ。それも暫くはお預けってわけだ。ったく、早く大きく丈夫になってくれよぉ?」


 (何を言ってるかは分からんが、この親父さては機嫌がいいな?)


 言語がまだ理解出来なかったために、表情から汲み取る事しか出来ないが、目の前の大男は明らかに上機嫌であり、隆々とした筋肉も心なしか嬉しそうに脈打ってる感じがして見えた。


 (しっかし、この父親はどんな職業をしてるんだろう?魔物とか魔法のあるファンタジー世界で、鎧っぽい格好で数ヶ月外にいる……兵士、とかにしては野蛮な感じだし、冒険者とかなんだろうか?そもそも冒険者っているのか分からないけど。)


 母親はすぐに認識し、父親もなんとなく認識出来ていた赤児は、そんなことを考えながらじっと大柄な父を見つめる。


「なんだぁ?こいつこっちをガン見してるな?ハッ!?まさか、この俺の筋肉の良さをこの歳で理解しているというのか?」

 

「多分違うと思う」


「ふっ、そう言う事なら見せてやろう!はっ!どうだ!これはどうだ!こんなこともできるぞ!」


(な、なんだ?この人いきなりポージングし始めたぞ?)


 赤児は、フロントダブルバイセップス、フロントラットスプレッド、サイドチェスト、バックダブルバイセップスなど次々にポーズをキメる父親に困惑するが、その様子を一緒に見ている己の母親も困ったものを見る目をしていたので、これで良いんだと思うようにした。


「ふぅ、こんなもんか。さて、それじゃあ俺は休む事にする。後の事は起きたらまた話し合おう!」


「そうだね。色々と狩りがいのある獲物も動き始める季節になってるし、危険性の見極めもこれまで以上にしっかりしないといけないからね。」


「ああ、そうだな。じゃあ、またあとで!おやすみぃ!」


「おやすみ、良い夢を」


 (おっ?なんだいきなりキスし始めたぞ?結構お熱いな、この世界だとこれが普通なのか?)


 入って来る情報が視覚や環境音に限定されていて、且つその状態になってから一年も経ってない現状では、目の前で起こることが一般的なのかどうかは分からなかった赤児ではあるが、それでもこの環境は、そこまで捨てたものではないと思いながら、身体が訴える眠気に抗う事なく入眠して行く。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る