第22話 目覚め


ぼんやりとした光が、瞼の奥に差し込んでくる。


重たいまぶたを、紬はほんの少しだけ動かした。


誰かがそっと手を握った気がした。


薄く目を開けると、まず視界に入ったのは、レニオスの顔だった。


少し疲れたような、でも安堵に満ちた優しい表情。


その瞳が紬を見つめて、かすかに震えていた。


「……気づいたのか。よかった……本当によかった……。」


その声を聞いた瞬間、紬の胸が温かくなった。


けれど声を出そうとしても、まだ喉はかすれて音を結ばない。


レニオスがそれに気づき、そっと頭を撫でてくれた。


「無理しなくていい。少しずつ、回復していこう。君が戻ってきてくれて……よかった。」


その言葉に、紬は弱々しく微笑んだ。



と、その時――




「レニオス。わたくしも……お力になれてよかったです。」


傍らにいた陽菜が、柔らかな笑みを浮かべて口を開いた。


ヒーラーとして手を添えていた彼女の指先には、まだ微かに癒しの魔力が残っている。


「ヒナリア……君がいてくれて助かった。ありがとう。」


レニオスの感謝の言葉に、陽菜はそっと微笑む。


だがその瞳の奥には、僅かに揺れる誇らしさと、優越感の影が潜んでいた。


(ふふ……わたしからレニオスを奪うなんて、そんなことさせない。わたしは、みんなに愛される“たった1人の聖女”なのだから。)


誰にも見えない場所で、陽菜は静かに微笑む。


紬の回復を喜ぶふりをしながら、彼女の存在がまた一歩遠のいたことを感じ取っていた――。


――――――――――



日中の陽が差し込む頃。


「レニオス様、失礼します。第一王子クラウス様より、至急お伝えすべきことが。」


ヴァルトが神妙な面持ちで現れ、レニオスに頭を下げる。


レニオスは名残惜しそうに紬を見つめながらも、静かに立ち上がった。



「……わかった。

…少しだけ席を外す。


また夜に来るから。」



微笑みかけると、紬も弱々しく頷き、レニオスを見送った。


部屋に静寂が戻る。


午後の時間、紬はベッドに身を預けながら、ぼんやりと天井を見つめていた。


胸に、ほんの僅かに空いた穴のような感覚が残った。


リサがそっと声をかける。


「お水、少しだけでも……飲みませんか?」


紬はかすかに笑みを見せ、頷くが、カップを手にしても口元まで運ぶ力がなかなか入らない。



夕暮れ。


空は薄桃色から深い藍へと変わる。



やがて、部屋の扉が再びノックされる音がした。

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