第15話 味方


「……聖女さま」



柔らかな声に割って入るように、少しだけ鋭さを帯びた声が響く。


振り返れば、いつの間にかそこに立っていたリサが、陽菜たちの輪に歩み寄っていた。



「体調がすぐれない中、長居はよくありません。……さあ、お部屋に戻りましょう。」



リサは紬の傍に寄り添い、その肩にそっと手を添える。


その優しいけれど芯のある態度に、紬の緊張がわずかにほぐれた。



「まぁ……。」


陽菜は驚いたように目を丸くして見せる。


「彼女が望まれるなら

わたくしたちは――。」


「聖女さまは、休まれた方がよろしいのです。」


リサの言葉は柔らかいながらも、どこか“拒絶”を含んでいた。


その一言で、場の空気が変わる。



「レニオス様も、お部屋に戻られるよう仰っていました。」


紬の瞳が驚きに揺れた。


リサはそっと微笑むと、紬を優しく促すように一歩前に出る。


「行きましょう、聖女さま。」


――――――――――


リサに連れられて部屋へ戻った紬は、どこか気まずそうに小さく肩をすぼめていた。


陽菜の言葉や、ノアからの一言が胸の奥に残り、重く沈んでいく。


そんな紬の様子に気づいたリサは、そっと微笑みながら、ベッドのそばにひざをついた。



「お疲れでしょう。今日は…少し、無理をしましたね。」



紬はかすかに首を横に振る。

けれど、表情は張りつめたまま。


リサはそんな紬の手をやさしく取って、両手で包み込むように握った。


「聖女さま。


今はまだ、何もできなくて当たり前なんです。


だから、そんなふうに無理に笑わなくていいんですよ。」


ふいに、紬の目に涙がにじむ。


その頬にそっと手を添えたリサは、ふんわりと優しく微笑んだ。


「大丈夫です。

聖女さまには、わたしがついていますから。


…どんなときも、わたしはあなたの味方です。」


その言葉は、やさしく、あたたかく。


まるで、冷たい夜に灯った小さな光のように、紬の心にそっと染み込んでいった――。

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