第12話 翌朝


リサが運んできた朝食は、

温かいスープにふわふわの白パン

小さく切られた果物の盛り合わせだった。



「お口に合うといいのですが……

召喚直後は、体調を崩しやすい方もいらっしゃるので、なるべく優しいものを選びました。」


優しい声に、紬は小さく頷いて、スプーンを手に取る。



(食べなきゃ…せっかく作ってくれたのに)



そう思って口に運ぶが、喉の奥が詰まるような感覚がする。


スープの温かさは心地よいのに、何かがずっと引っかかっていて、味さえよく分からない。


パンも一口かじるたびに重く感じられて、口の中でゆっくりと時間をかけて溶かすようにしか食べられない。


「……無理なさらないでくださいね? 少しでも召し上がっていただければ、それで十分ですから。」


リサは微笑んでそう言ったけれど、紬は首を横に振って、もう一口スープを飲んだ。


(ちゃんと、しなきゃ。迷惑かけちゃいけない)


声が出ない分、気持ちを伝えるには行動しかなかった。


だから紬は、静かにスプーンを動かし続けた。


――――――――――


スープを半分ほど食べ終えたところで、紬はそっとスプーンを置いた。


それに気づいたリサは、小さく微笑みながらも、その瞳の奥にわずかな不安を滲ませる。


「……やっぱり、まだ本調子じゃありませんよね。お顔色も、少し悪いような……。」


紬はかすかに首を横に振って、「大丈夫」と伝えようとした。


けれど、その仕草さえ頼りなく映ったのか、リサは少しだけ眉を寄せる。


「無理はなさらないでくださいね。今はゆっくり慣れていけばいいんです。お身体が一番大事ですから。」


そう言って、立ち上がると、にっこりと柔らかな笑顔を浮かべた。


「それでは、今日は少しだけお城の中をご案内しますね。あっ、その前に……お着替えをしましょうか!」


用意された衣服は、柔らかな白を基調としたワンピース。


襟元や袖口に薄いピンクの刺繍が施され、腰には細いリボンがあしらわれていた。


肌を包む布はふわりと軽く、まるで春風を纏っているかのようだった。


リサは器用に紬の着替えを手伝いながら、あれこれと話しかけてくる。


「これは、この国でも特別に上品なデザインなんですよ。とっても可愛くて、お似合いです!」


「聖女さまは華奢だから、こういう優しい色が映えますね!ほら、鏡を見てください。」


リサの言葉に促されて、紬が鏡を見ると、そこには見慣れない自分の姿が映っていた。


疲れが隠しきれない顔ではあるものの

たしかに――可愛いと思える装いだった。


思わず頬がほんのり赤くなる。


そんな紬を見て、リサがふふっと嬉しそうに笑った。


「その照れたお顔も、とっても素敵です。」


「これで王宮のどこを歩いても、胸を張っていられますよ!」


着替えを終えた紬が立ち上がると、リサは彼女の肩にそっと手を添えて言った。


「では、行きましょうか。今日は無理のない範囲で、ご案内しますね。


……きっと、気持ちも少し楽になりますよ。」


紬は小さく頷いて、リサと共に部屋を後にした。

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