第11話 異変


ベッドの中で目を閉じていた紬は、不意に感じた寒気に目を開けた。


部屋の中は静かなはずだった。



けれど…


――カタ……カタカタッ。


窓が、風もないのに震えている。


「……っ」


声が出ない紬は、起き上がって周囲を見渡す。


でも、リサはもういない。


部屋の扉も閉まっていて、誰の気配もない。




――ガタガタガタッ。


今度は、鏡台の椅子がひとりでに揺れた。


(……なに、これ……?)


頭の奥に、キーンという金属音のような雑音が響きはじめる。


同時に、胸の奥がひどく締めつけられた。


まるで、何かに引っ張られているような感覚。


冷たい汗が、背筋をつたう。


でも、扉の向こうには誰の足音もしない。




これは――


紬だけの空間で起きている、異常。


その原因が“呪い”だと、まだ誰も知らない。


――――――――――


夜が明け…


薄明かりがカーテン越しに差し込む頃。



紬は目を開けて、しばらく天井を見つめていた。


眠ったはずなのに、疲れがまるで取れていない。


瞼の裏には、昨夜の不可解な“音”が何度も甦る。



あれは、夢じゃなかった――


窓が、軋むように揺れていた。


ガタガタと響く音、耳障りな雑音。



けれど、朝になれば部屋は静まり返り、まるで何もなかったかのよう。


(……やっぱり、怖い)


声にできない不安が胸の奥で膨らんでいく。


隣に誰もいない孤独が、よりその恐怖を強調した。


ほどなくして、扉の向こうからノックの音。


「おはようございます、聖女さま。朝食をお持ちしました。」


リサの柔らかな声が届き、紬は反射的に体を起こした。


ぎこちない動きで髪を整えながら、小さく頷く。

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