第8話 ロリコンイケメン

「なんで、ああなったのかなぁ」


 そんなことをぼやく、この組織のリーダー、フィーネ。


「かれをかんゆーしたのはりーだーでしょ」


「こんな事になるとは思わなかったんだよぉ」


「……まあ、りーだーにすくわれたひとはいっぱいいるから、すかれるのもしょーがない」


 救われた人、か。てっきり、超能力者を集めているだけの組織だと思っていたのだが。


「勧誘って、俺を誘ったときみたいにやってるのか?」


「いや、君みたいなパターンはレアだね」


「りーだーがどこからともなくふぐうなめにあってるちょうのうりょくしゃをみつけてきて、さそってるの。ぐうぜんにであうってことはれあ」


「なるほど」


「どこから見つけてくるんだって感じだけどな」


 フィーネに振られた青年が、俺にそう声をかけてくる。


「えっと、あなたは……」


「ああ、自己紹介してなかったか。つい、彼女を見るとな」


 そう言って、爽やかな笑みを浮かべる青年。容姿は非常に整っており、めちゃくちゃイケメンだ。灰色の髪も映える。

 しかし、出会いが小学生に告白している姿であり、残念というかヤバイイケメンという印象になってしまっている。


「灰崎玲央だ。よろしく」


 そう言って、手を差し出す玲央。きらきらと光を放つイケメンスマイルである。こういう動作は様になっており、映えるのだけど。


「よ、よろしく」


 ロリコンのイメージはそう簡単には払しょくされない。というか、しろの情報からすると、ストーカー属性も入ってそうなんだよな……。関わらないほうがいい、そんな気がする。


「それじゃ僕は訓練に戻るから、これから一緒に頑張ろうね!」


 そう言って、走り去っていく玲央。


「リーダーにアピールしたいなら、一緒についてくればいいのにね~」


「そこか?」


 なんだか、的外れなことを言う祈にそんな突込みを入れつつ、彼を見送る。


「もはや、あれは風物詩だからね~。リーダーと行動するときは見慣れることになると思うよ~」


「見慣れてほしくはないんだけど、私見世物になってるじゃん」


 一応リーダーなんだけど、なんて呟きながら、愚痴をつくフィーネ。まあ、会うたびに告白されてたら、嫌にもなるか。

 唯一、まともな性格の幼女に同情する。


「生産部の説明に戻るけど……」



 その後も、様々な課の説明を受けて見学は終了した。


「言った通り、私が一番まともでしょ?」


「類は友を呼ぶんだな」


「なにをー!」


 そう言って、祈はぽかぽかと俺を殴る。


「……君たち、なんで私がいる前でそんなやり取りできるかなぁ」


 そう言って、ため息をつくフィーネ。


「見た目詐欺代表が何言ってんだー!」


 リーダーなんだよな?


 フィーネに突撃していった祈を見ながらそんなことを思う。


 とりあえず分かったことは、祈に勝るとも劣らない変人たちがそろっているということが分かった。


「とりあえず、紹介はこんなもんだけど、なにか聞きたいことは?」


 フィーネは無理やり祈を引きはがし、俺に目を向ける。


「特には」


「そっか。ならまあ、頑張ってね」


 断られるとはみじんも考えていないような瞳で、俺を見つめる。入るとは言っていないんだけど……。

 とはいえ、断ろうと思っているわけではない。むしろ、俺としては所属しようかと考えているくらいだ。


「だったら、一つ聞きたいんだけど」


 俺は、そう前置きしてその質問を繰り出す。


「どこまで知ってるんだ?」


「……どこまででも、知ってるよ」


 瞳を一切そらさずに、そう宣言するフィーネ。


「そうか」


 俺はそう言って、沈黙する。一切の嘘をついているように見えない、そんな表情に気おされて。もしかすると、俺の今までの人生すべてを見通しているかのような、そんな瞳をしていた。


 そんな、意味深なやり取りをしていたからか、祈はあたふたとしている。


「え、何?何事?」


 俺とフィーネを交互に見て、そんな呟きを口にする。


「ま、私にも彼にも秘密があるってことだよ」


「うーむ?」


 納得できない、そんな表情をしていたが俺もフィーネも口を割りそうにない様子だったからか、無理やりに飲み込んだようだ。


 そして、一転してフィーネは真剣な表情を緩める。張り詰めた一気に空気が弛緩する。


「じゃあ、これからよろしく」


 俺はそう言って、フィーネに手を差し出す。


「うん。よろしくね。……ヒーローさん」


 そう言って、くすりと笑みを浮かべるフィーネ。


「祈、お前、俺のことどう説明してたんだ?」


 俺のことをヒーローなんて形容したのは祈しかいない。


「それはねー。敵をバッタバッタとなぎ倒すヒーローだって」


 笑いながらそう言葉にするフィーネ。


「俺は、そんな柄じゃないって」


「柄、とかそういうのは関係ないでしょ。口の悪いヒーローが居ても、ヴィラン的なヒーローが居ても、どんな人でもヒーローになれると思うよ。少なくとも私は」


 迷いなく、そう宣言する祈。


「そ、そうか……」


 その言葉に、俺はまた気圧されてしまう。


「ヒーローの定義ってのはよく分かんないけどさ、誰かを救ってたらヒーローなんじゃないかな?」


「救う、か……」


 俺は、誰かを救ってたのだろうか。


 そんなことをふと、思い浮かべるのだった。

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