第7話 しろ
「まずは研究科。超常現象の理論解明と実用化が主な仕事だよ」
「超常現象の理論」
パワーワード過ぎないだろうか。
「理論って言っても、カオスが云々、奇跡が云々とよくわからんこと言ってるだけだからね~」
祈がそんな風な口をはさむ。カオスは学術的にどうなのか微妙なラインだが、奇跡は確かに理論とは縁のなさそうな言葉である。
「りーだー、いらっしゃい」
俺たちの姿を見つけ、奥から少女がかけてくる。真っ白な髪を揺らし、白衣を身にまとった幼女。まさに白づくめの少女である。
「おー、いのりがいってたおきゃくさん?」
俺のほうに視線を向け、舌足らずな言葉で紡ぐ。
「よ、よろしく」
俺は、彼女に手を差し出す。
「はいってくれたらうれしい」
庇護欲をそそるような表情と言葉を返して、俺の差し出した手を取る幼女。フィーネと同じ幼女だというのに、ひどい差である。
「……合法ロリのくせに」
「何?」
ふと呟いたフィーネの言葉に、ぎょろりと目を向ける幼女。
「はいはい、自己紹介しましょうね~」
子供をあやすように、フィーネはそう言い聞かせる。
「むー、しろ、よしなに」
真っ白な髪で白衣に身を包んだ幼女はしろというらしい。
「じゃあ、けんきゅーあるから、またきてね」
そう言って、トテトテと去っていくしろ。いや、幼女はこうじゃないとね。可愛らしい正当な幼女の姿である。
「ほんと、猫かぶるの上手いこと」
ぼそりとフィーネが後ろでつぶやいていたが、俺には聞こえていなかった。多分、祈にも聞こえていない。
「じゃあ、研究科の案内を始めようか」
そう言って、歩き出すフィーネ。
「まず、反物質の研究、らしい」
反物質、よく聞く単語であるが何を意味するのかは全く知らない。SFチックなものを想像すればいいんだろうか。いや、SFでも何なのか分からないのだが。
「たとえば、おんなじそくど、おもさでうごいてるものがぶつかるととまるでしょ?それをぶっしつでやって、ぶっしつけしさろうぜってやつ」
いつの間にか傍にやってきていたしろが説明する。しかし、専門的なことを舌足らずな口調で話すものだからいかんせん聞き取りにくい。
「研究があるんじゃなかったの?」
ジトっとした目でしろを見ながらフィーネが言う。
「わたしいがいにせつめいできるひとはいない、でしょ?」
「まあ、そうなんだけどさー」
「だいじょぶ、けんきゅーはじゅんちょうである」
「なまじ優秀なだけ……か」
フィーネはそう呟いてため息をつく。
「しろってそんなにすごいの?」
「そー、このそしきのぎじゅつのはちわりはわたしがつくった」
「八割……」
偏在するこの施設だったり、認識をゆがめたり、そういった技術を開発したのが彼女なのだろう。……この幼女がかぁ。
小学生くらいであろう少女が、ぴょんぴょんとはねながら自慢するさまを見てそんなことを思う。
「かわい子ぶってるなぁ」
フィーネはフィーネでその様子を見て小さく何かをつぶやいているが、やはり俺たちの耳には届いていなかった。
「じゃ、わたしもけんがくついていくね」
「よろしくね」
俺は、背をかがめて彼女の頭を撫でてみる。その様子を見てますます眉を顰めるフィーネ。嫉妬だろうか?
「なるほど、緋色君といえど幼い子供には優しいんだね~」
「おい、俺のことをなんだと思ってんだ」
突然失礼なことをつぶやく祈にそう突っ込みを入れる。
そんなやり取りをしている間に、しろがフィーネに近づいてぼそりと何かをつぶやく。
「これが本当の幼女の特権」
「それでうれしいの?」
自慢げなしろと対照的に、フィーネはため息交じりに何かをつぶやく。
「で、次は……」
「せいさんぶだよ~」
「おー!」
フィーネの言葉を奪うしろにそれに威勢よく返事する祈。先ほどまでのフィーネならばそれに突っ込みなりを入れていただろうが……。
「はぁ、めんどい」
気落ちした様子で彼女はつぶやく。そんなに面倒な場所なのだろうか、生産部は。
「フィーネさん、付き合ってください!」
「うげっ、また出てきた」
生産部についた途端に、フィーネの前に跪いて、そんな告白をする一人の青年がいた。小学生に告白する青年、これもまた、事案を感じさせる構図である。
「おー、また始まった恒例行事が」
「……彼は?」
ひとまず、迫られているフィーネは無視してそう、質問してみる。
「かれはせいさんぶによくしゅつぼつするせんとうぶのひと」
「生産部ですらないの!?」
「そー、なんか、けんきゅうぶとりーだーのへやにふぃーねがいないときだけさっちしたようにあらわれるの」
「えー……」
「愛の力ってやつだね!」
「愛……」
愛の力って、すごいんだなぁ。そんな感想しか抱けなかった。
「ふぃーねをさっちするだけののうりょくもあるのでは?ってうわさもある」
「もってことは、彼にも何かの力があるの?」
「かれは、ぜったいにわすれない」
「要は、絶対記憶ってやつだね~」
「絶対記憶って、サヴァン症候群的な?」
「あれはちがう。もっとこうぎてきにきおくをたもてる」
「まあ、気づいてないだけで本当はそういう超能力って人もいるかもだけどね~」
「具体的にはどう違うんだ?」
そう言われてもピンとこなかった俺はそう質問をする。すると、しろは少し考えて。
「たしかここに……。あった」
そう言って、彼女はポケットから一つのペンを取り出して俺たちに見せる。
そして、そのままポケットの中に、それを戻す。
「で、いま、わたしはなにをみせた?」
「なにって……」
今見た光景を思い出そうとして、しかし、靄がかかったように彼女が持っていたはずのものが浮かんでこない。
「こういうのもおぼえてられるの」
「……そんなものがあることも驚きなんだけど」
「このそしきにはいるならなれる。はいらないならえんのないもの」
まあ、なんとなくあの青年の超能力は理解できた。できたんだけど、想像してたよりも地味だよなぁ。
祈のように燃える札を投げたり、そんな超能力者の集団を想像していた俺はそんなことを思ってしまうのだった。
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