第9話 人体実験!?

「いらっしゃい」


「タイミングが分かってたとかか?」


 俺がその空間に侵入するとそんな声がかかってきた。


「張ってたのかもよ?」


「そんな暇なのか?この組織のリーダーってのは」


 そう。そんな声をかけてきたのは、奏者という組織のリーダーの少女フィーネだった。


 俺が入ってきたタイミングちょうどで、外にあるベンチに腰掛けてる姿を発見した。偶然という可能性もないわけではないが、わざわざ深夜、外にあるベンチに座る理由もないだろう。そして、今は夜ということで俺は例の獣の姿になっている。


「秘密ってことで」


「……」


 秘密って言ったって、こんなことが予測できるとしたら、未来予知くらいしかないだろう。だとすれば、未来予知が彼女の力?


「そういうことは考えないほうがいいよ。少女の秘密を暴くなんて無粋な真似は」


「……はぁ。分かったよ」


 この少女の前では思考することは何の意味も持たない。それすらも読み取っているのだろう。そんな感覚がした。


「それでいいのだ。君が私について考える必要なんて全くないんだから」


「それで、俺が居てもいい場所ってどこだ?」


 さすがに、この姿でうろつくわけにもいかないだろう。そう考えての質問だったのだが。


「自由に動き回ってもいいよ」


「……それで騒ぎになったら面倒なんだが」


「それごときで騒ぎになってたら、この組織はいつもてんやわんやだっての」


 曰く、俺みたいな化け物が組織の中をうろつくことなんてざらにあり、他にも、そこらかしこで爆発やら消滅が起こっているらしい。


 ……この組織、大丈夫なんだろうか。


「まあ、しろにさえ気を付ければ……」


「よんだ?」


 ひょっこりと後ろから現れるしろ。しろに気を付ければっていった直後の出来事だった。


「で、これはりーだーのあたらしいぺっと?」


「……二人なんだから普段通りの口調でいいでしょ」


 フィーネは一瞬、にやりと笑みを浮かべ、そんなことを言う。


「……偶に、言語を理解できるのもいるから」


「人間以外にそのスタンスを続けなくてもいいだろうに……」


 これは、俺がしゃべってもいいのだろうか。突然に、豹変したしろを見ながらそんなことを思う。もし、俺が彼女の言葉を理解できているとばれたら処分されるのでは……?


「やっぱり印象って大事だから」


「印象がいいわけではないと思うんだけど」


 ……しろってそんなキャラなんだなぁ。そんなことを思いながら、どうしたものかと考える。


「……そろそろ喋っていいよ」


 そんな言葉が俺にかけられる。しかし、その声をかけたのはフィーネではなくしろだった。


「えっと、すいません?」


 フィーネのたくらみによるものとはいえ、彼女の本性を知ってしまったので謝る。フィーネにはめられた側なので、不本意だけど。


「別に気にしなくていい。いずればれる事」


 いや、俺は騙されていたんだけどなぁ……。


「ばれてない相手って、祈ちゃんくらいじゃない?」


「あれは、目の前で普通に喋っても気づかない。鈍感とかそんな次元じゃない」


 ……祈ってそんなキャラなんだなぁ。ポンコツな少女の姿を思い返す。目の前で喋っても気づいていない姿が容易に想像できてしまう。


「あれはなかなか大変な君のパートナーだよ」


「そうだ……な」


 しまったと思ったときには遅く、しろはこちらをじっと見つめている。


「こんなカマかけに引っかかっちゃ駄目」


「いつから、気づいてたんだ?」


「?最初から。未来君が来た日に化け物が侵入してくるなんてできすぎ。ここは物語じゃないんだから」


 何らかの関係があると考えるほうが自然ってことか。


「仕事柄、そういう関連付けは考えなきゃいけないから。普通は偶然って考える。特に祈」


 最後の一言はいらない気がするんだけど……。


「人が化け物になるってこと自体、想像つかないと思うんだが」


「ここじゃ日常茶飯事だから、別にどうとも思わない」


「……言っとくけど、しろがおかしいだけだよ?そこまでいないからね?」


 そこまでってことは、いるにはいるんだ……。


「リーダーもなってみる?」


「流石に遠慮しようかなぁ……」


 そう言って、恐る恐るとしろから距離をとるフィーネ。


 うん。気持ちはとても分かるぞ。俺も、しろとはあまり関わらないようにしようって思ったもん。


「だいじょぶ、こわくないよ」


 十二分に怖いが!?誰が好き好んで、化け物になろうって思うんだよ!


「あ、そうだ。リーダー、彼は今日はここにいるんだよね?」


「うん。そうだけど……」


「じゃあ、貸して?」


 !?。化け物の体に変身する人間が、こんな組織の研究者に貸してと言われるってことは……もしや、実験台!?


 フィーネさん、流石に止めて下さ……。

 縋るようにフィーネに視線を向けると、若干困った表情を浮かべる。


「どうぞ?」


 見捨てやがった!あなた、リーダーなんですよね!?なら、人体実験しようとしているメンバー居たら止めてくださいよ!いや、今人間じゃないから人体実験じゃないのか!?どっちでも変わらねぇけどもな!


「……そんなにビビらなくていい。というか、リーダーも悪乗りしすぎ」


「だって、楽しいじゃん?こういうの」


「未来君、怖がるから」


「だったら、君ももう少し言葉を尽くそうぜ?」


「……めんどい、察して?」


「……変なところで怠惰だなぁ」


「とかく、未来君の体について調べるから、ついてきて。ひどくても、少し採血するくらいだから。マッドサイエンティストってわけでもないし」


「えっと、分かりました?」


「この組織のメンバーになるんだったら敬語じゃなくていい。さっきまで敬語じゃなかったのに」


「あ、ああ」


 しろについていってもいいのか、そう思って、フィーネのほうに目を向ける。


「いいよ。行って来ても。別にすることもないわけだし」


「分かった」


 そう言って、俺はしろの後を追うのだった。

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