第6話 奏者
「とりあえず聞きたいのが、この組織についてどれくらい知ってる?」
まずは組織について説明しようという話になり、俺はそんなことを聞かれていた。
「超能力者が多くいる集団としか」
「まあ、そうだよね……」
こいつはやっぱりほとんど説明していなかったか、という目で祈を軽く睨むフィーネ。そんな視線を受けた祈だが、どこ吹く風と受け流す。
そんな様子にため息をついて、俺のほうに視線を戻す。
「じゃあ、見学の前に簡単にこの組織について説明しておこうか」
「えっと、お願いします」
「ああ、さっきあの子も言ってたけど、そんな固くなんなくてもいいよ。面接ってわけじゃないんだから」
10歳児の口から面接なんて言葉が出てくるんだから、なんだかもやっとする。
「この組織は奏者って名前で通ってるの。由来は特にない」
「理由もなくそんな名前なんですか!」
「いやいや、リーダーが名前つけたんでしょうに」
「いやー、ノリでつけちゃってね」
軽いなぁ。じゃれあう二人を見ながらそんなことを思った。陰陽師の組織を想像していたから、もっとカチカチな空気を想像していた。なんちゃら会とかそんな感じの。というか、ノリで奏者なんて名前つけるか?
そんなことを思ったが、彼女らがそう言うならそうなのだろう。まことに納得いかないのだが。
「まあ、そんな感じでかる~い組織だからそんな気負うことないよ」
「分かりました?」
「じゃあ、基本的な活動についてだけど、まず君と祈がやったように妖怪的な存在の退治。組織運営のための資金調達。そして、ここに使われているような技術開発。主にこの三つかな。君が入るとしたら退治のチームだね」
案外ざっくりした説明だなぁ。
「んで、私のペアになってほしいってこと」
「うんうん。場所も近いみたいだし、ペアになってくれると嬉しいかな」
「ここの組織に所属しているなら場所は関係ないんじゃないか?」
この場所は、俺たちの学校からもほど近い場所の何の変哲もない住宅街にある。つまり、この組織に所属しているなら俺たちに近い場所に住んでいるのだろう。そんなことを思ったのだが……。
「ああ、それね。この場所って偏在してるっていえばいいかな。君が入ってきたところにも存在してるし、別の県、なんなら国、ついでに海の上にも存在している。だから、アクセスはいいんだよね」
「超常技術……」
この組織の技術力って世界一なんじゃないだろうか。さすがに宇宙にはないけどね、というつぶやきを聞きながらそんなことを思う。
「え!初耳なんだけど!」
俺の隣では祈が驚いていた。
「はぁ……。君には説明したんだけど、何度も」
10歳児に呆れられる17歳の女子高生。ものすごい構図である。
「というわけで、君たちの地区には祈しかいなかったわけなの」
「なるほど!急な引っ越しでも勤務を続けられるわけだ!」
「ねえ、話を戻さないでくれるかな?あと、その感想は何かずれてると思うよ」
まあ、確かにどこでも勤務できるというのは魅力、なのだろうか?
「詳しい条件については後で詰めるとして、とりあえず、見学に行こうか」
その前に、と彼女は間をおいて祈のほうに視線を向ける。
「ちょっと、彼と話したいことがあるから退室してくれる?」
「ん?なになに?告白?」
「んなわけないでしょうが」
はぁ……とため息をつくフィーネを尻目に祈は部屋から出ていく。
「話っていうのは……」
「ちょっと待ってね……。よし、行ったかな」
祈が出ていった扉を見つめていたフィーネがつぶやく。
「話っていうのはね、君の体質についてだ」
「……体質?」
内心動揺していたわけだが、俺はそれを隠すように言葉を返す。夜、獣になる体質のことを言っているわけじゃないのかもしれない。
「君も分かってるでしょ?君は夜になると化け物に姿を変えるってやつ」
「……」
さすがに話した記憶はない。いくら何でも、今日初対面の相手にそんな話をするほど俺も馬鹿ではない。
「まあ、私以外に知ってる人はいないから、気にする必要はないよ」
「気にする必要はないって……」
まだ俺には、この少女に対してそこまでの信頼はない。
「まあ、気持ちはわかる。何なら黙っておいたほうがいいかもしれないけど、影響はあんまりなさそうだしね」
この少女の目的はなんだ。あの姿の力を借りたいとか、そんな理由か?確かに、あの姿の俺の体は性能が跳ね上がる。
「これは提案だ。君としては、周りにばれたくないでしょう?だから、この場所を隠れ蓑にしない?」
「それの対価は?」
「特にないよ~。まあ、もし君の秘密が祈にばれてたら彼女と夜も仕事してほしいなってくらい」
「なるほど?」
俺にとってはメリットしかないだろう。
「ここにいることのデメリットは?」
「デメリットって言っても特にないかな?体に毒とかそういう場所じゃない。まあ、研究所に行けばそういう場所もあるけど」
「だったら、そちらのメリットは?」
なぜ、こんなにこちらに都合のいい提案をしてくるのか、そんな疑問をぶつける。するとフィーネは、くすりと笑みを浮かべて答える。
「そのほうがシナリオにいい、それだけ」
「は?」
そんな意味の分からない回答を。
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