おもいで

 俺が死に損なって、数日がたった。

 日々は、淡々と過ぎている。

 

 両親は、もう家に帰っている。

 俺が帰って、と言ったら、すんなり帰った。


 不規則に寝て不規則に起きてを繰り返して、時計なんて見ないで、蒼空との思い出を反芻している日々を送っていた。

 思い出してはわすれる。

 わすれたら、また思い出す。

 それを記憶として定着させる。どうにかこうにか。

 おんなじことだ。

 ずっと。


 記憶、蒼空の。

 初めて会った記憶を、また。

 初めて会ったのは、多分入学式の時。

 綺麗な水色の目の美少女が隣に座っていたものだから、まじまじと見つめてしまった。

 その視線に気づいた蒼空がふっと微笑んだ。

 女神みたいで綺麗だなぁって、思って、それで、好きになった。

 と、思う。


 それが出会ったきっかけだ。

 多分。


 なんども、忘れては思い出してを繰り返している。


 そのなかで、何か、引っかかって取れない何か、蒼空を見るたびに主張してきて、違和感を覚えた。

 単に、何か忘れているだけだ。いつものことだから、仕方ない。


 俺は忘れっぽいから。きっと何かの病気なんだ。


 だから、蒼空は思い出せって言うのかな?

 …さぁ?蒼空にしかわからないことだから。

 そうなんだろう。多分。


 他にも、たくさんの思い出がある。

 1番衝撃的だったのは、蒼空が…


 なんだっけ、忘れちゃった。

 あぁ、まただ、忘れてく。


 どうして、俺は、あぁ、やだ。

 蒼空のこと、忘れたくない。


 何を忘れたんだ?何度も繰り返し繰り返して、思い出さなきゃ。

 蒼空、そら。


 俺は、何を忘れてるんだ?


『思い出して』


 教えてよ

 蒼空。


 何を忘れて…?

 何を、何を。


『思い出してよ、僕のこと』



 ぁあ。あれ、俺は、何を、考えていたっけなぁ。


 …そら。

 そうだ、そらのことだ。


『…そう、そうだね』


 どこかで、前に、一度、同じ名前を、聞いた。

 蒼空じゃなくて、そら。


 ………?


 高校生になるよりも、もっと前。

 中学生だった頃…?の、話。


 同じような、空色の瞳の。


 そら。


 同じ名前の、同姓同名の、


 ひいらぎ そら

 という、男。


 の、子。




 俺の、多分、初恋の人、だった気がする。

 蒼空と、よく似てた。


 そら。蒼空?


 俺はどっちを思い出してるんだろう。


 …?



 なんなんだろう。

 うまく思い出せないや。

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