第2話 初任務
「よし、皆、今日はこれで解散だ!勝者たちは後日、正式に騎士団員として迎え入れる!」
酒場で、若手騎士たちは口々にカイに声をかける。
「さすがだな、おっさん!」
「いやぁ、まさか本当に勝つとは!」
「これで騎士団に入れるんだな!すげぇ!」
カイは酒を飲みながら、深く息を吐いた。
(……やれやれ、本当に騎士団か。面倒事は増えるが、まあ、悪くはなさそうだ)
その時、マヤがカイの隣に腰を下ろし、にやりと笑った。
「……まぁ、あんたが騎士団入りするなんて、ちょっと意外ね」
「……お前さんは?」
「マヤよ。選抜をトップの成績で合格したの」
「選抜トップねぇ……」
カイは驚きの色を隠せず、ゆっくりとマヤを見る。
「そうよ。あんたが騎士団入りするなら、私の前で無様な真似は見せないで」
そう言うとマヤは踵をかえして酒場から帰って行った。
(……あの娘、相変わらず口は悪いけど、頼もしいな)
カイは静かにため息をつき、酒場のざわめきに耳を戻す。若手騎士たちはまだ興奮冷めやらぬ様子で談笑していた。
「さて……俺もそろそろ、帰らないとな」
肩に掛けたマントを整え、カイは夜の街へと足を踏み出す。今日の騎士団入り――思わぬ形で決まった出来事を、まだ完全には飲み込めていなかった。
(……まあ、これからの日々がどうなるか、少し楽しみかもな)
夜風を胸いっぱいに吸い込み、カイはゆっくりと歩き出した。
───後日。ワルフラーン城、広場。
朝の光が広場に差し込み、石畳を淡く照らしている。
「さて、今日から正式に騎士団員として迎え入れる!」
イスの声が広場に響き渡る。整列した若手騎士たちの中に、カイも静かに立っていた。肩に掛けたマントは少し重く感じるが、背筋は自然と伸びている。
イスは一人ずつ前に呼び上げ、正式な入団証を手渡していく。
「カイ、前へ」
呼ばれたカイはゆっくりと前に進み出る。視線は落ち着いているが、胸の奥では緊張が微かに走った。
イスがカイに入団証を手渡す。
「これでお前も正式に騎士団員だ。今日からこの城と王国を守る仲間の一人だ」
カイは受け取り、軽く頭を下げる。
「……わかった。よろしく頼む」
その瞬間、広場に拍手が巻き起こる。
若手騎士たちが一斉に手を叩き、祝福の声を上げる。
カイは肩越しに周囲の様子を見回す。騎士団の一員としての自覚が、少しずつ体に馴染み始めているのを感じた。
(……さて、これからが本番か)
胸の奥で小さな覚悟を決め、カイは広場の中心で立ち尽くした。
「さて……たった今、決まった五人の騎士団には初任務がある」
イスの低く響く声が広場に鳴り渡る。
「お前たちの任務は、近隣の森で目撃された盗賊団の討伐だ。簡単な任務だが、油断は禁物だ」
若手騎士たちは背筋を伸ばし、武器を握り締める。緊張と期待が入り混じった空気が広場を包んだ。
「カイ、お前には騎士団のリーダーをやってもらいたい」
「俺!?」
カイは思わず声を上げ、周囲を見回す。経験豊富とはいえ、まだ正式な騎士団員になったばかりだ。
「……ちょ、ちょっと待ってくださいイス様!なんで私がリーダーじゃダメなんですか!」
マヤが割って出て来た。
イスはカイを一瞥し、淡々と答える。
「確かにお前は選抜ではトップの成績だ。しかし、この任務は実戦での経験が物を言う」
マヤは渋々と頷いた。
「……わかりました」
イスは二人を見渡し、低く頷く。
「よし、それでいい。カイ、お前がリーダーとして指揮を執れ。マヤ、お前はサポートに回れ」
マヤは少し不満げな顔を見せつつも、剣を握り直す。
「……仕方ないわね。あんた、変な真似はしないでよ」
カイは肩をすくめ、淡々と答える。
「無駄な真似はしないさ」
イスは広場の奥を指さし、声を張った。
「五人とも準備はいいな。森へ向かえ!」
若手騎士たちは武器を握り、緊張の中にも決意を秘めて森へ進む。
カイは深く息を吐き、心の中で小さくつぶやいた。
(……よし、初任務、いくか)
騎士団の一行は、城の門を出て森へと向かう。
木漏れ日の中、緊張感が肌を刺す。
若手たちは互いに視線を交わしながらも、歩みを止めない。
(はあ……こういう場所は任務じゃなくて。鍛冶屋の仕事で来たかったのになあ)
カイは肩にかけたマントを軽く直しながら、ため息をつく。
(……まぁ、今さら文句を言っても仕方ない。今やる仕事は盗賊を倒す事だ)
森の中は静まり返り、木々の間から差し込む光が地面に斑模様を描く。
若手騎士たちは緊張した面持ちで周囲を警戒しながら歩く。
「……あれ、か?」
「そうみたいだな……」
茂みの間から、盗賊の姿がちらりと見える。
小柄だが鋭い目つきでこちらを伺い、手には短剣や棍棒を握っていた。
「……よし、まずは数で圧倒する」
カイは低く呟き、手の動きで若手たちに指示を送る。
「右側を俺が押さえる。左はマヤ、中央はお前たちで固めろ」
若手騎士たちは互いに視線を合わせ、素早く陣形を整える。
盗賊たちは気付かぬうちに徐々に囲い込まれていく。
それにあっけに取られる盗賊達。
「なっ!?」
盗賊達はその場から飛びのいた。
「王国め……相当な強者を味方につけたようだな……」
「でもよ!逃げたら親分に殺されちまうよ!」
盗賊たちは互いに目を合わせ、焦りと恐怖が入り混じった表情を浮かべる。
「……た、確かに何かしら手柄をあげねぇと親分のところに帰れねえ!」
盗賊たちは互いにうなずき、斧や短剣をぎりぎりと握り直す。
「……行くぞ!」
一斉に森の中を駆け出し、カイたちに向かって突進してきた。
盗賊たちの攻撃は雑で勢い任せだった。
カイは持っていた剣の鞘で薙ぎ払った瞬間、盗賊たちは倒れて動かなくなった。
若手騎士たちは息を整えつつ、互いに目を見合わせる。
「……こ、こんなに簡単に……」
一人が震える声で呟いた。
カイは剣を肩に担ぎ、深く息を吐く。
(……まぁ、予想通りか。実戦経験の差ってやつだな)
カイがそう呟いた時、森の奥から盗賊達が現れた。
「まるでゴキブリだな……」
カイは森の奥から出てきた盗賊を指差して言う。
「カイ。ここはいったん引きましょうか……」
「……わかった」
そして、カイとマヤとルルエルと騎士団達は走り出した。
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