第7話「出所したらベンチしかなかった件」

3月10日午前9時。

労役場の重い扉が開いた。

ワイ(佐野)、3ヶ月ぶりに外界へ解き放たれる。


「寒っ……なんや春って嘘やろ……」

開口一番、それ。



出所セット:

• 交通費(SUICAチャージ500円分)

• 謎のインスタント味噌汁(誰が決めた?)

• 支援団体の連絡先メモ(見るだけで罪悪感)


ワイ「うーん、持ち物が“サバイバル未遂者セット”なんよなあ」



とりあえず電車乗って、

上野駅まで戻る。

そして、あの“ワイのベッド”、上野公園のベンチへ直行。



着いた。

……が。


「誰かおるやんけ」


見知らぬホームレス兄貴が、ワイのベンチで寝とる。



ワイ、無言で横のベンチに腰かけて空見上げた。

桜、まだ咲いてへん。

でも鳩は元気そうに歩いとる。

ワイの人生と違ってな。



「ここが……“社会”か……」


風はあたたかいようで、

毛布のない膝には普通に刺さる。



ワイ、思わず呟いた。


「戻ってきてもうたなぁ……」


その声に反応する者は、誰もいなかった。

この場所では、“ワイがここにいる”ことすら、誰も気づかん。



おにぎり屋の前を通ると、炊きたての匂いがした。

腹が鳴った。

でも財布の中身は空っぽや。


「また……捕まるか?」


頭の中で、選択肢がスッ…と浮かんで消えた。

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