第8話「支援団体の兄ちゃん、また現れて草」

ワイ、上野公園のベンチで空見てたらな、

背後から聞き覚えのある声が飛んできた。


「佐野さん!」


ワイ「ファッ!?(振り返り)」


見たらな、

去年の冬に一回だけ“支援どうですか”って声かけてきた兄ちゃんやった。

ジャンパーとニット帽のままで、手には例の白いファイル。



ワイ「……なんで覚えとるんや」

兄ちゃん「そりゃ覚えてますよ」

ワイ「ワイ、あのときシカトして歩いてったで?」

兄ちゃん「それでも、また会えるかもって思って来てました」


ヒェッ……この人、仏やろ……



兄ちゃん「今なら住まいの支援も生活保護申請も全部できます」

ワイ「いや……働かれへんし、歳もいってるし、ワイなんか……」

兄ちゃん「だから来てほしいんです」


ワイ、ちょっと涙目になる。



ワイ「……飯、食えるとこある?」

兄ちゃん「あります。行きましょう」



そのときワイ、ふと振り返ってベンチ見た。

最初にワイが寝ようとしたベンチ。

今でも誰かが座ってる。


でも、もうそこはワイの“終点”やない。



兄ちゃんの背中について歩きながら思ったんや。


「寒さが消えると、生きてていいかどうか考える余裕できるんやな」

「もしかして……ワイ、今日“生きる”を選んだんか?」



風が吹いた。

前よりちょっとやさしかった。

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