第14話 「赤い石の共鳴」
神社の帰り道、ハヤテとリリィは無言で夜道を歩いていた。先ほどまでの特訓の余韻が、まだ二人の体に残っている。
「ハヤテくん…」リリィが沈黙を破った。「あの赤い石を持った時、何か感じた?」
ハヤテは歩みを緩めた。月明かりが彼の横顔を照らし、普段は無表情な顔に微かな動揺が見えた。
「…ああ」彼は短く答えた。「お前の…心臓の鼓動が、自分の胸の中で感じられた」
リリィは息を呑んだ。「わたしも!ハヤテくんの心臓が、わたしの中で鳴っていたの」
二人は思わず足を止め、見つめ合った。リリィの青い瞳が月明かりに濡れたように輝き、ハヤテの黒い瞳にも何かが宿っていた。
「共鳴…か」ハヤテがつぶやいた。「忍術の伝書にも似たようなことが書かれていたが、まさか本当にあるとは」
リリィは頬を赤らめながら、金色の髪を耳にかけた。「わたしの祖母の魔導書にも…二つの魔力が共鳴すると、一つだけの時よりずっと強くなるって」
「だが、あの光が不安定になった。まだ何かが足りないんだろう」
「うん…」リリィは少し俯いた。「でも、きっとできるよ。わたしたち、ずっと一緒に修行してきたもの」
ハヤテは無意識に、先ほどまでリリィの手を握っていた自分の手のひらを見つめていた。まだその温もりが残っているような気がした。
「そうだな。諦める理由はない」
翌朝、霧島学園の教室。
「おはよう、ハヤテくん!」
朝の教室に入るなり、リリィの明るい声が響いた。ハヤテは静かに頷きながら席に着く。どこか落ち着かない様子だ。昨夜の特訓の記憶が鮮明に蘇ってくる。
「昨日の特訓、すごかったね」リリィは目を輝かせて言った。「わたし、もっと上手くできるように頑張るからね」
その時、教室のドアが開き、鈴木先生が入ってきた。
「おはよう、諸君」いつもの調子で朝の挨拶をする鈴木先生だが、その眼鏡の奥の眼差しが、一瞬ハヤテとリリィに向けられた。二人は軽く頷き返した。
授業が始まり、黒板に数式を書く鈴木先生。しかし、ハヤテの耳には彼の言葉が届いていなかった。昨夜の出来事と、祖父から聞いた「大いなる存在」の脅威について考えを巡らせていた。
「相良君」
鈴木先生の声に、ハヤテは我に返った。
「はい」
「この方程式の解き方を説明してくれないか」
ハヤテは黒板を見た。微分方程式だ。彼は無言で立ち上がり、解答を述べた。忍術の修行で鍛えられた記憶力のおかげで、授業に集中していなくても問題なかった。
「正解だ」鈴木先生は満足そうに言った。「だが、授業中は集中するように」
ハヤテは軽く頭を下げて席に戻った。その時、リリィからのメモが机の上に滑り込んできた。
『放課後、図書館で待ち合わせ?いつもの森に行く前に、調べたいことがあるの』
ハヤテは小さく頷いた。
昼休み、ハヤテとリリィはいつものように屋上で弁当を広げていた。
「ねえ、ハヤテくん」リリィは自分の作ったサンドイッチをハヤテに差し出しながら言った。「わたし、昨日の夜、おばあちゃんの残した魔導書をもう一度読み直したの」
「何か見つかったのか?」ハヤテは相良家特製の玉子焼きをリリィの弁当箱に入れながら尋ねた。二人の間で食べ物を交換するのは、もはや日課となっていた。
「うん、『感情の共鳴』についての記述があったの」リリィは少し恥ずかしそうに言った。「二人の魔力使いが共鳴するとき、最も強い力を発揮するのは…」
「最も強い感情を共有している時だろう」ハヤテが続けた。「祖父の伝書にも書いてあった」
「そう…」リリィは頬を赤らめた。「だから、赤い石を持った時に…」
「あの反応が起きたんだな」
二人は黙ってサンドイッチを口に運んだ。急に会話が続かなくなる。
「おいしい」ハヤテがつぶやいた。
リリィの顔がパッと明るくなった。「本当?よかった!今日は特別なマヨネーズを使ってみたの」
「俺の玉子焼きは?」
「最高!甘くて、でもしょっぱくて、絶妙な味」リリィは満面の笑みで言った。「ハヤテくんのおじいちゃんの秘伝のレシピでしょ?」
ハヤテは小さく微笑んだ。「ああ。祖父から教わった数少ない料理だ」
風が吹き、リリィの金色の髪が舞った。その一瞬、ハヤテの心臓が強く鳴った。
「!」
リリィも同時に胸に手を当てた。二人の視線が絡み合う。
「今…」
「感じた…」
二人の言葉が重なった。特訓でもない、石も持っていないのに、一瞬だけ心臓が共鳴したのだ。
「どうして…」リリィは驚いた表情で言った。
ハヤテは首を振った。「分からない。だが…」
その時、校内放送が鳴り響いた。
『緊急連絡。全校生徒は直ちに体育館に集合してください。繰り返します…』
「何かあったのかな?」リリィは不安そうに言った。
ハヤテの表情が引き締まった。「行こう」
体育館には既に多くの生徒が集まっていた。校長が壇上に立ち、マイクを握っている。
「静粛に」校長の声が体育館に響く。「本日、残念なお知らせがある。昨夜、学校近くの森で不審な火災が発生した」
リリィとハヤテは顔を見合わせた。それは二人がいつも修行している森だ。
「幸い大事には至らなかったが、警察の調査によると放火の疑いがあるとのこと。当分の間、森への立ち入りは禁止とする」
生徒たちの間でざわめきが起こった。
ハヤテは眉を寄せた。「昨日の夜、俺たちが帰った後か...」
リリィは小さな声で言った。「ハヤテくん、これって...」
「ああ、偶然じゃないな」ハヤテは冷静に状況を分析していた。「『灼熱教団』の仕業かもしれない」
「でも、どうして森を...」
「あの森には『月蝕の門』に繋がる力の流れがある。だから俺たちはそこで修行していた」ハヤテは説明した。「奴らは何かを探していたんだろう」
校長の話が終わり、生徒たちは教室に戻るよう指示された。
「これから図書館?」リリィが尋ねた。
ハヤテは首を振った。「予定変更だ。直接、神社に行こう。鈴木先生に報告する必要がある」
放課後、二人は急いで鈴木先生の神社へ向かった。
神社の境内に入ると、既に鈴木先生が彼らを待っていたかのように拝殿の前に立っていた。
「来たか、二人とも」鈴木先生の表情は昨日より厳しい。「森の件は聞いたな」
「はい」ハヤテが答えた。「『灼熱教団』の仕業ですか?」
鈴木先生は頷いた。「間違いない。昨夜、神社の結界にも攻撃があった。わずかだが、『月蝕の門』の力が漏れ出した」
「それで、森が...」リリィが理解した様子で言った。
「そうだ。彼らは門の力の漏れを感知して森を調査していたんだろう」鈴木先生は苦々しい表情で言った。「まだ『月蝕の心臓』の場所までは突き止めていないようだがな」
「先生」ハヤテが真っ直ぐな眼差しで言った。「『月蝕の心臓』はどこにあるんですか?」
鈴木先生は二人を見つめ、深くため息をついた。
「ここだ」彼は拝殿を指した。「この神社の御神体そのものが『月蝕の心臓』なんだ」
リリィは息を呑んだ。「でも、そんな大事なものを...」
「ここが最も安全だからこそだ」鈴木先生は説明した。「五つの結界神社が連携して守っている。だが今、他の四つの心臓のかけらが奪われた今、この神社への攻撃も激しくなるだろう」
「俺たちに何ができますか?」ハヤテが問いかけた。
鈴木先生は微笑んだ。「昨日の特訓がその答えだ。二人の共鳴の力が結界を強化する」
「でも、まだ上手くできていません」リリィが不安そうに言った。
「時間がない」鈴木先生は厳しく言った。「今夜、彼らが本格的な攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。特に...」
「今夜?」ハヤテが尋ねた。
「そう、今夜は新月だ」鈴木先生は空を見上げた。「『月蝕の門』は、月の力が最も弱まる新月の夜に最も揺らぐ」
その時、神社の鳥居の方から物音がした。三人は振り向いた。
境内に一人の女性が立っていた。金髪の美しい女性。しかし、その目は冷たく、唇は残酷な笑みを浮かべていた。
「こんにちは、鈴木先生」女性は甘い声で言った。「お久しぶりです」
鈴木先生の表情が強張った。「琥珀...焔」
ハヤテとリリィは身構えた。『灼熱教団』の『炎の五芒星』の一人、琥珀焔だ。
「懐かしい顔も見えますね」琥珀焔はハヤテを見た。「相良家の息子さん?いえ、お孫さんですか?よく似ていらっしゃる」
ハヤテは無言で彼女を見つめ返した。
「そして、これは...」彼女の視線がリリィに移る。「星乃家の...ふふ、これは興味深い」
「何の用だ」鈴木先生が低い声で尋ねた。
琥珀焔は軽やかに笑った。「ご挨拶に伺っただけですよ。そして...」彼女は手を上げ、指を鳴らした。「少しばかり、試させていただこうかと」
指を鳴らした瞬間、神社の周囲から黒い煙のようなものが湧き上がり、人型へと変形していった。
「影法師だ!」鈴木先生が叫んだ。「二人とも、気をつけろ!」
十体以上の黒い人影が三人を取り囲んだ。
「では、お楽しみください」琥珀焔はそう言うと、鳥居の方へ歩き始めた。「今夜、本番でお会いしましょう」
「待て!」ハヤテが動こうとした瞬間、影法師の一体が彼に襲いかかった。
「くっ!」ハヤテは素早く身をかわし、忍術の印を結んだ。「風遁・鋭刃の術!」
彼の指先から風の刃が放たれ、影法師を切り裂いた。しかし、切れた黒い体はすぐに再生する。
「ハヤテくん!」リリィが叫び、彼女も魔法の詠唱を始めた。「光よ、我が掌に!ルミナス・フレア!」
彼女の手から強い光が放たれ、影法師を貫いた。光を受けた影法師はうめくように溶け始めた。
「光が効く!」リリィは声を上げた。
鈴木先生も神社の札を取り出し、呪文を唱え始めた。「破邪の光よ、顕現せよ!」
神社の周囲に結界が張られ、いくつかの影法師が押し返された。
しかし、次々と新たな影法師が現れる。
「このままでは限がない...!」ハヤテは状況を見極めながら言った。
「ハヤテくん、あの石!」リリィが突然言った。「赤い石を使って共鳴すれば...!」
鈴木先生は結界を維持しながら叫んだ。「拝殿の中だ!赤い箱に入っている!」
ハヤテは迷わず拝殿へ走った。数体の影法師が彼を追いかける。
「行かせない!」リリィは魔法を放ち、ハヤテの後ろの影法師を押し返した。
ハヤテは拝殿に飛び込み、素早く赤い箱を見つけた。開けると、昨日使った赤い石が二つ入っていた。彼はそれを手に取り、外へ飛び出した。
「リリィ!」彼は石の一つを投げた。
リリィは見事にそれをキャッチした。「準備はいい?」
二人は互いに向き合い、石を握りしめた。
「集中するんだ!」鈴木先生が叫んだ。「二人の感情を一つに!」
ハヤテとリリィは目を閉じ、互いの存在を感じようとした。昼休みに感じた共鳴の感覚を思い出す。
しかし、周囲の戦いの音、影法師の唸り声が気を散らせる。
「うまくいかない...!」リリィが焦りの色を見せた。
ハヤテは目を開け、リリィを見た。「リリィ、俺を見て」
彼女が目を開けると、ハヤテの黒い瞳が彼女を見つめていた。
「一つだけ考えろ。俺たちが守りたいもの」ハヤテは静かに言った。「お前は何を守りたい?」
リリィの青い瞳に決意の色が宿った。「わたしは...ハヤテくんと、この世界を守りたい」
ハヤテは微かに微笑んだ。「俺もだ」
その瞬間、二つの石が輝き始めた。赤い光が二人を包み込む。
「共鳴している!」鈴木先生は驚きの声を上げた。
二人の周りの空気が振動し始め、赤い光の渦が彼らを中心に広がっていった。その光が影法師に触れると、彼らは悲鳴を上げて消滅した。
光の渦はさらに拡大し、神社全体を包み込んだ。
「結界が強化されている...!」鈴木先生は驚きの表情で言った。
やがて、最後の影法師も消え去り、神社に静けさが戻った。
光が弱まると、ハヤテとリリィはその場にへたり込んだ。
「すごい...」リリィは息を切らしながら言った。「あんな力が出るなんて...」
ハヤテも疲れた様子だったが、満足そうに頷いた。「ああ...うまくいった」
鈴木先生は二人に近づいた。「見事だ、二人とも。だが、これは始まりに過ぎない」
彼は空を見上げた。「今夜、本当の戦いが始まる」
第2章 新月の夜襲
夕暮れ時、神社には緊張が漂っていた。
ハヤテとリリィは神社の奥の部屋で休息を取っていた。先ほどの共鳴で相当な魔力を消費したようだ。
「飲むか?」ハヤテはリリィにお茶を差し出した。
「ありがとう」リリィは微笑みながらカップを受け取った。「少し元気が戻ってきたよ」
ハヤテは窓の外を見た。日が沈み始め、空が赤く染まっている。
「今夜が勝負だな」
リリィは不安そうに言った。「本当に私たちだけで大丈夫かな...」
「心配するな」ハヤテは冷静に答えた。「祖父も来るはずだ」
その時、部屋のドアが開き、鈴木先生が入ってきた。その背後には杖を突いた老人の姿があった。
「おじいちゃん!」ハヤテは立ち上がった。
相良守はゆっくりと頷いた。「ハヤテ、無事で何よりだ」
「祖父さん」リリィも立ち上がり、軽く頭を下げた。
「星乃家のお嬢さんか」相良守はリリィを見つめた。「あなたのおばあさまによく似ている」
リリィは驚いた表情を見せた。「わたしの祖母を知っているんですか?」
「ああ」相良守は懐かしそうに微笑んだ。「三十年前、一緒に戦った仲間だ」
鈴木先生が口を開いた。「時間がない。作戦を説明するぞ」
四人は神社の地図が広げられた低いテーブルを囲んだ。
「『灼熱教団』は五つの方向から攻めてくる可能性が高い」鈴木先生は地図の五カ所を指した。「『炎の五芒星』、それぞれが一方向を担当するだろう」
「彼らの目的は明らかだ」相良守が続けた。「『月蝕の心臓』を奪い、五つの門を開くこと」
「でも、なぜ門を開こうとしているんですか?」リリィが尋ねた。
相良守と鈴木先生は顔を見合わせた。
「『大いなる存在』を復活させるためだ」相良守がゆっくりと言った。「異世界を支配する存在...かつて私たちの世界を滅ぼそうとした」
「三十年前、私たちはその存在を封印した」鈴木先生が続けた。「星乃家と相良家の力を合わせて」
リリィは息を呑んだ。「わたしの祖母も...」
「そうだ」相良守は頷いた。「彼女の魔力と私の忍術の共鳴で封印したのだ」
ハヤテとリリィは顔を見合わせた。
「だから、俺たちに共鳴の特訓をさせていたんですね」ハヤテは理解した様子で言った。
「そうだ」鈴木先生は頷いた。「お前たちは血筋的にも最も共鳴の可能性が高い。今日の昼間、学校でも感じただろう?」
二人は驚いた顔で鈴木先生を見た。
「どうして...」
「神社の結界は学校にも繋がっている」鈴木先生は説明した。「お前たちの共鳴は結界を通じて感知できたのだ」
相良守が立ち上がった。「さて、準備をしよう」
「私たちは何をすればいいですか?」リリィが尋ねた。
「お前たちは神殿の中心で待機する」鈴木先生が言った。「そして必要な時に共鳴の力を発動するのだ」
「私と鈴木先生は外で敵を迎え撃つ」相良守が言った。「できるだけ時間を稼ぐ」
ハヤテは眉を寄せた。「それでは祖父たちが危険すぎる」
「他に方法はない」相良守は厳しく言った。「お前たちの力が最も重要なのだ」
リリィがハヤテの袖を引いた。「ハヤテくん...」
彼は彼女を見て、ため息をついた。「わかった。命令通りにする」
相良守は満足そうに頷いた。「良い心がけだ」
夜が深まり、新月の闇が神社を包み込んだ。
ハヤテとリリィは神殿の中心、御神体のある部屋で待機していた。二人とも赤い石を握りしめ、何か起こった時にすぐに共鳴できるよう準備していた。
「外は静かだね」リリィがささやいた。
ハヤテは頷いた。「静かすぎる」
その時、突然外から爆発音が聞こえた。
「始まったか!」ハヤテは立ち上がった。
次の瞬間、神社全体が揺れた。
「結界が攻撃を受けている」リリィが言った。「感じるよ...魔力の波動が」
ハヤテも目を閉じ、周囲の気を感じ取った。「五つの方向から...やはり『炎の五芒星』全員が来ている」
外からは戦闘の音が聞こえてくる。相良守と鈴木先生の声も時折聞こえた。
「祖父たちは大丈夫だろうか...」ハヤテは不安を隠せなかった。
リリィは彼の手を取った。「信じよう。私たちにできることをするしかないよ」
ハヤテは彼女の手を握り返した。「ああ」
その時、神殿の扉が突然開いた。
「おや、お邪魔してもよろしいかしら?」
甘い声と共に、金髪の女性が姿を現した。琥珀焔だ。
「お前は...!」ハヤテは身構えた。
「どうして中に...?」リリィは驚きの声を上げた。
琥珀焔は軽やかに笑った。「外の騒ぎは単なる気晴らし。本命は最初から私だったのよ」
彼女は手のひらを開いた。そこには小さな黒い結晶があった。
「影潜りの結晶」ハヤテが呟いた。「結界を潜り抜ける禁術の道具...」
「よく知ってるわね」琥珀焔は感心したように言った。「相良家の伝統教育は素晴らしいわ」
「何をする気だ」ハヤテは警戒を強めた。
「明らかでしょう?」琥珀焔は御神体を見た。「『月蝕の心臓』をいただくわ」
リリィが前に出た。「させません!」
琥珀焔はクスリと笑った。「可愛いわね。でも...」
彼女が指を鳴らすと、部屋の影から黒い煙が立ち上り、数体の影法師が現れた。
「少し遊んでいてね」
影法師がハヤテとリリィに襲いかかる。二人は素早く身をかわし、反撃を開始した。
ハヤテは忍術の印を結び、「風遁・鋭刃の術!」風の刃が影法師を切り裂く。
リリィも魔法を唱えた。「光よ、我が掌に!ルミナス・フレア!」
光の弾が影法師を貫き、いくつかは消滅した。しかし、次々と新たな影法師が現れる。
琥珀焔はその隙に御神体に近づいていた。
「ダメだ!」ハヤテは彼女を止めようとしたが、影法師に行く手を阻まれる。
「リリィ!共鳴だ!」ハヤテは叫んだ。
二人は赤い石を握りしめ、互いを見つめた。しかし、戦いの最中で集中することは難しい。共鳴の光は弱々しく、すぐに消えてしまう。
「うまくいかない...!」リリィが焦りの声を上げた。
「もう遅いわよ」琥珀焔は御神体に手を伸ばした。
その時、神殿の扉が再び開き、相良守が姿を現した。
「琥珀焔!」
彼は杖を投げ捨て、素早い動きで印を結んだ。「忍法・時影の術!」
突然、神殿内の時間が遅くなったかのように、琥珀焔の動きが鈍った。
「この術は...!」琥珀焔は驚いた表情を見せた。
「ハヤテ、今だ!」相良守が叫んだ。
ハヤテは機会を逃さず、琥珀焔に向かって突進した。
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