第13話 「灼熱教団の真の目的」

その夜、ハヤテとリリィは鈴木先生の家を訪れた。予想外だったのは、その家が普通の住宅ではなく、郊外の小さな神社だったことだ。

「ここが先生の家なんですか?」

リリィは神社の鳥居を見上げながら尋ねた。

「ああ」

鈴木先生は頷いた。「私は代々この神社の管理をしている。この神社は、実は『月蝕の門』の力を抑える結界の一部なんだ」

「結界?」

ハヤテは興味を示した。

「そう」

鈴木先生は説明した。「東京には五つの結界神社がある。それぞれが『月蝕の門』の力を抑える役割を担っている」

彼は二人を社の奥へと案内した。拝殿の裏には、普段は人が入らない別棟があった。

「ここだ」

鈴木先生は古い鍵で扉を開けた。

中に入ると、そこは近代的な装置と古い巻物、魔法の道具などが共存する不思議な空間だった。部屋の中央には、大きな円形の台座があり、その上には奇妙な模様が描かれていた。

「ここが共鳴の力を高める装置か」

ハヤテは感心した様子で見回した。

「そう」

鈴木先生は頷いた。「正確には、共鳴を測定し、その可能性を引き出す装置だ」

彼は壁に掛かっていた巻物を指さした。

「これは、五百年前の記録だ。前回の忍者と魔法使いの共鳴について記されている」

ハヤテとリリィは巻物に近づいた。そこには、古い絵と文字で、二人の若者が手を取り合い、五つの光を放つ様子が描かれていた。

「これが、前回の…」

リリィはつぶやいた。

「ああ」

鈴木先生は頷いた。「風間家の忍者と雪村家の魔法使いだ。彼らの共鳴が『灼熱教団』を封じた」

「でも、今回はまた復活してしまったんですね」

リリィは悲しげに言った。

「そう」

鈴木先生は続けた。「彼らは完全に消滅したわけではなかった。ただ封印されていただけだ。そして今、百年という周期を経て、再び力を取り戻しつつある」

「彼らの目的は本当に『大いなる門』を開くことなのでしょうか?」

リリィが尋ねた。「それとも、他に何か…」

「鋭いな」

鈴木先生は感心したように頷いた。「実は、『大いなる門』を開くことは彼らの最終目標ではない。それは手段に過ぎない」

「手段?」

ハヤテは眉をひそめた。「では、本当の目的は?」

「『大いなる存在』の復活だ」

鈴木先生の声は重く響いた。

「『大いなる存在』?」

二人は同時に尋ねた。

「異世界を支配する存在」

鈴木先生は説明した。「五百年前、彼らはその存在の一部を現実世界に呼び寄せようとした。しかし失敗し、その欠片だけが『炎の心臓』として残った」

「だから彼らは『炎の心臓』を持っているんですね」

リリィが理解を示した。

「その通り」

鈴木先生は続けた。「彼らは『大いなる存在』の力を借りて、この世界を『浄化』しようとしている。しかし、それは彼らが思い描くような美しい結末にはならない」

「どういうことですか?」

ハヤテが尋ねた。

「『大いなる存在』は、彼らが思うような慈悲深い存在ではない」

鈴木先生は厳しい表情で言った。「それは混沌そのもの。彼らが呼び寄せれば、確かに世界は変わるだろう。しかし、異能力者も含め、全ての存在が支配される


神社の奥で話を聞いた後、ハヤテとリリィは「大いなる存在」の脅威に震えました。二人は鈴木先生の指導のもと、共鳴の力を磨く特訓を始めることになりました。まずは中央の円形台座に立つように言われました。

「この台座に立ち、互いに向かい合いなさい」

鈴木先生は静かに指示した。「そして、手を取り合うんだ」

ハヤテとリリィは言われた通りにした。二人が手を取り合うと、台座の模様が淡く光り始めた。

「この台座は、二人の力の相性と共鳴の可能性を示す」

鈴木先生は説明した。「青い光は基本的な共鳴、緑は中級、そして赤は最高レベルの共鳴が可能であることを示す」

台座の光は青から緑へ、そして瞬間的に赤く輝いた後、再び緑に戻った。

「素晴らしい」

鈴木先生は目を見開いた。「一瞬だけ赤く輝いた。つまり、二人には最高レベルの共鳴の可能性がある」

「でも、維持できなかった…」

リリィは少し落胆した様子だった。

「それは当然だ」

鈴木先生は優しく言った。「最高レベルの共鳴には、強い絆と完全な信頼が必要だ。それは時間をかけて育むものだよ」

「どうすれば、その絆を深められるのでしょうか?」

ハヤテが真剣に尋ねた。

鈴木先生は静かに微笑んだ。

「それは、二人だけが見つけ出せる答えだ。ただ、ヒントをあげよう。共鳴の力は心と心の繋がりから生まれる。互いを完全に理解し、受け入れる時、真の力が目覚める」

彼は壁から古い木箱を取り出した。

「これを使って練習しよう。箱の中には、様々な感情を引き出す小石がある。二人で同じ石を握り、その感情を共有する練習だ」

二人は木箱から小さな白い石を取り出した。

「その石は『平穏』の石だ」

鈴木先生は説明した。「まずは穏やかな感情から始めよう」

ハヤテとリリィは石を握り、目を閉じた。徐々に、二人の周りに静かな光が広がり始めた。

「良い調子だ」

鈴木先生は頷いた。「次は『信頼』の石を」

彼らは青い石を手に取った。今度は光がさらに強くなり、二人の間に青い糸のようなものが見え始めた。

「見えるか?」

鈴木先生は指さした。「それが二人の魂を繋ぐ糸だ。共鳴の基本形だよ」

特訓は深夜まで続いた。様々な石を使い、様々な感情を共有する練習をするうちに、二人の共鳴の力は少しずつ安定していった。

「最後に、これを」

鈴木先生は赤い石を取り出した。

「『情熱』の石だ。最も強い感情の一つ。この感情を共有できれば、共鳴の力は飛躍的に高まる」

二人は少し照れながらも、赤い石を握った。すると今までにない強い光が放たれ、二人の体が宙に浮かび上がった。

「す、すごい…!」

鈴木先生は驚きの声を上げた。「これほどの反応は…!」

しかし、突然光が不安定になり、二人は地面に降り立った。

「まだ完全ではないが、素晴らしい進歩だ」

鈴木先生は満足そうに言った。「今日はここまでにしよう。明日も放課後、ここに来なさい」

帰り道、ハヤテとリリィは並んで歩いていた。二人とも疲れていたが、充実感も感じていた。

「ねえ、ハヤテくん」

リリィが静かに話しかけた。「私たち、本当に『灼熱教団』を止められるのかな?」

「ああ」

ハヤテは力強く頷いた。「俺たちなら、できる」

「でも、彼らはとても強くて…」

「だからこそ、俺たちは共鳴の力を極めなければならない」

ハヤテは真剣に言った。「リリィ、お前となら、きっとできる」

リリィは頬を赤らめ、小さく頷いた。

「うん…私も、ハヤテくんとなら…」

二人が自宅に向かう中、遠くの空では、赤い雲がさらに濃くなっていた。『灼熱教団』の計画は、着々と進行していたのだ。

神社の帰り道、ハヤテとリリィは無言で夜道を歩いていた。先ほどまでの特訓の余韻が、まだ二人の体に残っている。

「ハヤテくん…」リリィが沈黙を破った。「あの赤い石を持った時、何か感じた?」

ハヤテは歩みを緩めた。月明かりが彼の横顔を照らし、普段は無表情な顔に微かな動揺が見えた。

「…ああ」彼は短く答えた。「お前の…心臓の鼓動が、自分の胸の中で感じられた」

リリィは息を呑んだ。「わたしも!ハヤテくんの心臓が、わたしの中で鳴っていたの」

二人は思わず足を止め、見つめ合った。リリィの青い瞳が月明かりに濡れたように輝き、ハヤテの黒い瞳にも何かが宿っていた。

「共鳴…か」ハヤテがつぶやいた。「忍術の伝書にも似たようなことが書かれていたが、まさか本当にあるとは」

リリィは頬を赤らめながら、金色の髪を耳にかけた。「わたしの祖母の魔導書にも…二つの魔力が共鳴すると、一つだけの時よりずっと強くなるって」

「だが、あの光が不安定になった。まだ何かが足りないんだろう」

「うん…」リリィは少し俯いた。「でも、きっとできるよ。わたしたち、ずっと一緒に修行してきたもの」

ハヤテは無意識に、先ほどまでリリィの手を握っていた自分の手のひらを見つめていた。まだその温もりが残っているような気がした。

「そうだな。諦める理由はない」


翌朝、霧島学園の教室。

「おはよう、ハヤテくん!」

朝の教室に入るなり、リリィの明るい声が響いた。ハヤテは静かに頷きながら席に着く。どこか落ち着かない様子だ。昨夜の特訓の記憶が鮮明に蘇ってくる。

「昨日の特訓、すごかったね」リリィは目を輝かせて言った。「わたし、もっと上手くできるように頑張るからね」

その時、教室のドアが開き、鈴木先生が入ってきた。

「おはよう、諸君」いつもの調子で朝の挨拶をする鈴木先生だが、その眼鏡の奥の眼差しが、一瞬ハヤテとリリィに向けられた。二人は軽く頷き返した。

授業が始まり、黒板に数式を書く鈴木先生。しかし、ハヤテの耳には彼の言葉が届いていなかった。昨夜の出来事と、祖父から聞いた「大いなる存在」の脅威について考えを巡らせていた。

「相良君」

鈴木先生の声に、ハヤテは我に返った。

「はい」

「この方程式の解き方を説明してくれないか」

ハヤテは黒板を見た。微分方程式だ。彼は無言で立ち上がり、解答を述べた。忍術の修行で鍛えられた記憶力のおかげで、授業に集中していなくても問題なかった。

「正解だ」鈴木先生は満足そうに言った。「だが、授業中は集中するように」

ハヤテは軽く頭を下げて席に戻った。その時、リリィからのメモが机の上に滑り込んできた。

『放課後、図書館で待ち合わせ?いつもの森に行く前に、調べたいことがあるの』

ハヤテは小さく頷いた。


昼休み、ハヤテとリリィはいつものように屋上で弁当を広げていた。

「ねえ、ハヤテくん」リリィは自分の作ったサンドイッチをハヤテに差し出しながら言った。「わたし、昨日の夜、おばあちゃんの残した魔導書をもう一度読み直したの」

「何か見つかったのか?」ハヤテは相良家特製の玉子焼きをリリィの弁当箱に入れながら尋ねた。二人の間で食べ物を交換するのは、もはや日課となっていた。

「うん、『感情の共鳴』についての記述があったの」リリィは少し恥ずかしそうに言った。「二人の魔力使いが共鳴するとき、最も強い力を発揮するのは…」

「最も強い感情を共有している時だろう」ハヤテが続けた。「祖父の伝書にも書いてあった」

「そう…」リリィは頬を赤らめた。「だから、赤い石を持った時に…」

「あの反応が起きたんだな」

二人は黙ってサンドイッチを口に運んだ。急に会話が続かなくなる。

「おいしい」ハヤテがつぶやいた。

リリィの顔がパッと明るくなった。「本当?よかった!今日は特別なマヨネーズを使ってみたの」

「俺の玉子焼きは?」

「最高!甘くて、でもしょっぱくて、絶妙な味」リリィは満面の笑みで言った。「ハヤテくんのおじいちゃんの秘伝のレシピでしょ?」

ハヤテは小さく微笑んだ。「ああ。祖父から教わった数少ない料理だ」

風が吹き、リリィの金色の髪が舞った。その一瞬、ハヤテの心臓が強く鳴った。

「!」

リリィも同時に胸に手を当てた。二人の視線が絡み合う。

「今…」

「感じた…」

二人の言葉が重なった。特訓でもない、石も持っていないのに、一瞬だけ心臓が共鳴したのだ。

「どうして…」リリィは驚いた表情で言った。

ハヤテは首を振った。「分からない。だが…」

その時、校内放送が鳴り響いた。

『緊急連絡。全校生徒は直ちに体育館に集合してください。繰り返します…』

「何かあったのかな?」リリィは不安そうに言った。

ハヤテの表情が引き締まった。「行こう」


体育館には既に多くの生徒が集まっていた。校長が壇上に立ち、マイクを握っている。

「静粛に」校長の声が体育館に響く。「本日、残念なお知らせがある。昨夜、学校近くの森で不審な火災が発生した」

リリィとハヤテは顔を見合わせた。それは二人がいつも修行している森だ。

「幸い大事には至らなかったが、警察の調査によると放火の疑いがあるとのこと。当分の間、森への立ち入りは禁止とする」

生徒たちの間でざわめきが起こった。

ハヤテは眉を寄せた。「昨日の夜、俺たちが帰った後か...」

リリィは小さな声で言った。「ハヤテくん、これって...」

「ああ、偶然じゃないな」ハヤテは冷静に状況を分析していた。「『灼熱教団』の仕業かもしれない」

「でも、どうして森を...」

「あの森には『月蝕の門』に繋がる力の流れがある。だから俺たちはそこで修行していた」ハヤテは説明した。「奴らは何かを探していたんだろう」

校長の話が終わり、生徒たちは教室に戻るよう指示された。

「これから図書館?」リリィが尋ねた。

ハヤテは首を振った。「予定変更だ。直接、神社に行こう。鈴木先生に報告する必要がある」


放課後、二人は急いで鈴木先生の神社へ向かった。

神社の境内に入ると、既に鈴木先生が彼らを待っていたかのように拝殿の前に立っていた。

「来たか、二人とも」鈴木先生の表情は昨日より厳しい。「森の件は聞いたな」

「はい」ハヤテが答えた。「『灼熱教団』の仕業ですか?」

鈴木先生は頷いた。「間違いない。昨夜、神社の結界にも攻撃があった。わずかだが、『月蝕の門』の力が漏れ出した」

「それで、森が...」リリィが理解した様子で言った。

「そうだ。彼らは門の力の漏れを感知して森を調査していたんだろう」鈴木先生は苦々しい表情で言った。「まだ『月蝕の心臓』の場所までは突き止めていないようだがな」

「先生」ハヤテが真っ直ぐな眼差しで言った。「『月蝕の心臓』はどこにあるんですか?」

鈴木先生は二人を見つめ、深くため息をついた。

「ここだ」彼は拝殿を指した。「この神社の御神体そのものが『月蝕の心臓』なんだ」

リリィは息を呑んだ。「でも、そんな大事なものを...」

「ここが最も安全だからこそだ」鈴木先生は説明した。「五つの結界神社が連携して守っている。だが今、他の四つの心臓のかけらが奪われた今、この神社への攻撃も激しくなるだろう」

「俺たちに何ができますか?」ハヤテが問いかけた。

鈴木先生は微笑んだ。「昨日の特訓がその答えだ。二人の共鳴の力が結界を強化する」

「でも、まだ上手くできていません」リリィが不安そうに言った。

「時間がない」鈴木先生は厳しく言った。「今夜、彼らが本格的な攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。特に...」

「今夜?」ハヤテが尋ねた。

「そう、今夜は新月だ」鈴木先生は空を見上げた。「『月蝕の門』は、月の力が最も弱まる新月の夜に最も揺らぐ」

その時、神社の鳥居の方から物音がした。三人は振り向いた。

境内に一人の女性が立っていた。金髪の美しい女性。しかし、その目は冷たく、唇は残酷な笑みを浮かべていた。

「こんにちは、鈴木先生」女性は甘い声で言った。「お久しぶりです」

鈴木先生の表情が強張った。「琥珀...焔」

ハヤテとリリィは身構えた。『灼熱教団』の『炎の五芒星』の一人、琥珀焔だ。

「懐かしい顔も見えますね」琥珀焔はハヤテを見た。「相良家の息子さん?いえ、お孫さんですか?よく似ていらっしゃる」

ハヤテは無言で彼女を見つめ返した。

「そして、これは...」彼女の視線がリリィに移る。「星乃家の...ふふ、これは興味深い」

「何の用だ」鈴木先生が低い声で尋ねた。

琥珀焔は軽やかに笑った。「ご挨拶に伺っただけですよ。そして...」彼女は手を上げ、指を鳴らした。「少しばかり、試させていただこうかと」

指を鳴らした瞬間、神社の周囲から黒い煙のようなものが湧き上がり、人型へと変形していった。

「影法師だ!」鈴木先生が叫んだ。「二人とも、気をつけろ!」

十体以上の黒い人影が三人を取り囲んだ。

「では、お楽しみください」琥珀焔はそう言うと、鳥居の方へ歩き始めた。「今夜、本番でお会いしましょう」

「待て!」ハヤテが動こうとした瞬間、影法師の一体が彼に襲いかかった。

「くっ!」ハヤテは素早く身をかわし、忍術の印を結んだ。「風遁・鋭刃の術!」

彼の指先から風の刃が放たれ、影法師を切り裂いた。しかし、切れた黒い体はすぐに再生する。

「ハヤテくん!」リリィが叫び、彼女も魔法の詠唱を始めた。「光よ、我が掌に!ルミナス・フレア!」

彼女の手から強い光が放たれ、影法師を貫いた。光を受けた影法師はうめくように溶け始めた。

「光が効く!」リリィは声を上げた。

鈴木先生も神社の札を取り出し、呪文を唱え始めた。「破邪の光よ、顕現せよ!」

神社の周囲に結界が張られ、いくつかの影法師が押し返された。

しかし、次々と新たな影法師が現れる。

「このままでは限がない...!」ハヤテは状況を見極めながら言った。

「ハヤテくん、あの石!」リリィが突然言った。「赤い石を使って共鳴すれば...!」

鈴木先生は結界を維持しながら叫んだ。「拝殿の中だ!赤い箱に入っている!」

ハヤテは迷わず拝殿へ走った。数体の影法師が彼を追いかける。

「行かせない!」リリィは魔法を放ち、ハヤテの後ろの影法師を押し返した。

ハヤテは拝殿に飛び込み、素早く赤い箱を見つけた。開けると、昨日使った赤い石が二つ入っていた。彼はそれを手に取り、外へ飛び出した。

「リリィ!」彼は石の一つを投げた。

リリィは見事にそれをキャッチした。「準備はいい?」

二人は互いに向き合い、石を握りしめた。

「集中するんだ!」鈴木先生が叫んだ。「二人の感情を一つに!」

ハヤテとリリィは目を閉じ、互いの存在を感じようとした。昼休みに感じた共鳴の感覚を思い出す。

しかし、周囲の戦いの音、影法師の唸り声が気を散らせる。

「うまくいかない...!」リリィが焦りの色を見せた。

ハヤテは目を開け、リリィを見た。「リリィ、俺を見て」

彼女が目を開けると、ハヤテの黒い瞳が彼女を見つめていた。

「一つだけ考えろ。俺たちが守りたいもの」ハヤテは静かに言った。「お前は何を守りたい?」

リリィの青い瞳に決意の色が宿った。「わたしは...ハヤテくんと、この世界を守りたい」

ハヤテは微かに微笑んだ。「俺もだ」

その瞬間、二つの石が輝き始めた。赤い光が二人を包み込む。

「共鳴している!」鈴木先生は驚きの声を上げた。

二人の周りの空気が振動し始め、赤い光の渦が彼らを中心に広がっていった。その光が影法師に触れると、彼らは悲鳴を上げて消滅した。

光の渦はさらに拡大し、神社全体を包み込んだ。

「結界が強化されている...!」鈴木先生は驚きの表情で言った。

やがて、最後の影法師も消え去り、神社に静けさが戻った。

光が弱まると、ハヤテとリリィはその場にへたり込んだ。

「すごい...」リリィは息を切らしながら言った。「あんな力が出るなんて...」

ハヤテも疲れた様子だったが、満足そうに頷いた。「ああ...うまくいった」

鈴木先生は二人に近づいた。「見事だ、二人とも。だが、これは始まりに過ぎない」

彼は空を見上げた。「今夜、本当の戦いが始まる」

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