第5話 「真実の重み」

林間学校から帰ってきた翌日は日曜日。ハヤテは早朝から祖父の守と共に相良家の道場で座っていた。昨日の夜遅く、二人は林間学校での出来事を詳しく報告し、守は深刻な表情で黙って聞いていた。

「青い炎の存在か…」守は長く息を吐いた。「予想よりもはるかに早い。『月蝕の門』がすでにこれほど開きかけているとは」

「どうすればいいんだ、じいちゃん」ハヤテが尋ねた。「冬至まで待てないなら」

守は立ち上がり、古い箪笥から巻物を取り出した。それは長い年月を経た、黄ばんだ和紙に記された秘伝書だった。

「これは相良家に代々伝わる『封印術の書』だ。本来なら、お前が二十歳になる時に渡すつもりだったが…」彼は重々しく巻物をハヤテに差し出した。「時が来た。これを学び、マスターしなければならない」

ハヤテは緊張した面持ちで巻物を受け取った。その重みが、単なる紙の重さではないことを感じていた。

「この中に、『月蝕の門』を封印する術が記されているのか?」

「ああ。だが、それだけではない」守は座り直し、厳かな表情になった。「ハヤテ、今から語ることは、相良家の最大の秘密だ。これまで語らなかったのは、お前に普通の人生を送ってほしかったからだ」

その言葉に、ハヤテは緊張が増した。

「相良家と星乃家は、単なる知り合いではない。古来より、『月蝕の門』の守護者として運命を共にしてきた二つの一族なのだ」

「何…?」

「我々相良一族は『影の血脈』と呼ばれ、忍の道を極めながら現世を守ってきた。そして星乃家は『光の血脈』、星の力を借りる魔術師の家系だ」

守は続けた。「二つの血脈が交わる時、最強の封印が生まれる…それが『血の誓約』だ」

「血の誓約…」ハヤテはその言葉を反芻した。「それは、どういう意味なんだ?」

守は少し躊躇した後、静かに語り始めた。

「三十年前、私とエリザベス・星乃は『月蝕の門』を封印するため、互いの血を交わし、命を懸けた封印術を行った」

「命を懸けた?」

「本来、完全な封印には生命力を捧げなければならない。だが、我々は別の方法を見つけた。血の契約を結ぶことで、自分たちの命を繋ぎ、代わりに両家の次世代に運命を託したのだ」

ハヤテは息を呑んだ。「つまり…俺とリリィは…」

「そう」守は重々しく頷いた。「お前たちは生まれる前から、次の封印を担う役目を背負っていた。お前たちの存在そのものが、私たちの決断の結果でもあるのだ」

ハヤテは言葉を失った。自分の人生が、生まれる前から決められていたことに戸惑いを感じていた。しかし同時に、これまでの厳しい修行、祖父の期待、そして突然彼の前に現れたリリィ—全てに意味があったことを理解した。

「じいちゃん、なぜもっと早く教えてくれなかったんだ?」

守の顔に悲しみの影が落ちた。「私は…お前に選択肢を与えたかった。できるだけ長く、普通の少年として生きていてほしかった」

ハヤテは黙って巻物を見つめた。

「選択肢はまだある」守は静かに言った。「今でも拒否することはできる。その場合は…」

「俺は逃げない」ハヤテが毅然とした声で言った。「これが俺の運命なら、受け入れる。たとえ生まれる前から決められていたとしても、今はこの手で掴み取る俺の選択だ」

守の厳しい表情が、わずかに柔らかくなった。

「やはりお前は、相良の血を引いている…」

その時、玄関のチャイムが鳴った。

「ハヤテさん!守さん!」

リリィの声だった。彼女は祖母のエリザベスと共に訪れていた。

エリザベスは70代半ばながら、凛とした佇まいの白髪の女性だった。青い瞳はリリィに似ているが、より鋭く、深遠な知性を湛えていた。

「久しぶりだな、守」エリザベスは英国訛りの日本語で言った。

「ああ、三十年ぶりか」守は立ち上がり、古い友人を迎え入れた。

四人はリビングに集まり、林間学校での出来事を詳しく話し合った。ハヤテとリリィが体験した全てを聞いた後、エリザベスは深刻な表情で言った。

「思ったより事態は深刻ね。『月蝕の門』はすでに部分的に開きつつある」

「最悪の場合、リリィと二人で封印するための血脈は受け継がれているか?」守が尋ねた。

「ええ。血脈は二人に確実に流れているわ」エリザベスは二人の若者を見つめた。「特にリリィは、私よりも強い魔力の素質を持っている」

その言葉に、リリィは少し驚いた様子で祖母を見た。

「おばあちゃん、そんなこと言ったことないよ?」

「言う必要がなかったからよ」エリザベスは微笑んだ。「あなたの才能は生まれた時から明らかだった。だから私はあなたを厳しく鍛えた」

「ハヤテも同じだ」守が言った。「相良家の血を色濃く引いている」

二人の老人は若者たちを誇らしげに見つめていた。そこには深い愛情と、同時に送り出す悲しみがあった。

「さて」エリザベスが話題を戻した。「問題は『月蝕の門』が予定より早く開きつつあることね。本来なら冬至だが、このペースでは…」

「一月も持たないかもしれない」守が厳しい表情で言った。

「じゃあ、どうすればいいの?」リリィが不安そうに尋ねた。

エリザベスは立ち上がり、持ってきた古い革製のバッグから一冊の古書を取り出した。それは魔法の紋様で装飾された、分厚い本だった。

「これは星乃家に代々伝わる『星の書』よ」彼女は本をリリィに渡した。「この中に、『血の誓約』の儀式が記されている」

リリィは恐る恐る本を受け取った。

「守」エリザベスは相良家の当主を見た。「もう彼らに全てを話したの?」

守は重々しく頷いた。「ああ、ハヤテには伝えた。だが、詳細はまだだ」

エリザベスはリリィの方を向いた。「リリィ、あなたにも真実を話す時が来たわ」

リリィは緊張した面持ちで、祖母の言葉に耳を傾けた。

「私たち星乃家と相良家は、何世紀にもわたって運命を共にしてきた。『月蝕の門』の封印を維持するために、両家は常に協力してきたの」

「それは聞いたことがあるよ」リリィが言った。

「でも、その封印がどうやって行われるかは言っていなかったわね」エリザベスの表情が厳かになった。「それは『血の誓約』と呼ばれる儀式によって行われる」

「血の誓約…」

「二つの血脈の持ち主が、互いの血を交わし、魂を結びつける儀式よ。それによって『月蝕の門』を封じる力が生まれる」

リリィは少し顔を赤らめた。「魂を結びつける…?それって、どういう意味?」

エリザベスとリリィは目を合わせた。「それは文字通りの意味よ。儀式を行う二人は、魂の結びつきを形成する。互いの命を捧げて封印を完成させるの」

「命を捧げる…?」リリィの声が震えた。

「昔は、そうだった」守が口を開いた。「だが、我々が見つけた方法なら、命を失うことはない。代わりに…」

「二人は永遠に結びつくことになる」エリザベスが言葉を継いだ。「魂の絆で」

リリィは驚いて、思わずハヤテの方を見た。彼もまた彼女を見つめ、二人の視線が交差した。

「つまり、私たちは…」リリィが言葉に詰まった。

「そう」エリザベスは穏やかに言った。「あなたたちは『月蝕の門』を封印するために、魂を結ばなければならないの」

部屋に重い沈黙が下りた。ハヤテとリリィは互いを見つめ、突然明かされた運命の重さに言葉を失っていた。

「しかし」守が静かに言った。「これは強制ではない。二人の自由意志がなければ、儀式は成功しない」

「そうよ」エリザベスも頷いた。「だから、あなたたちには選択する権利がある。この運命を受け入れるか、拒むか」

ハヤテは巻物を強く握りしめた。「俺は…すでに決めた。この運命を受け入れる」

リリィはまだ戸惑いの表情を浮かべていたが、やがて決意を固めたように顔を上げた。

「私も…受け入れるわ。私たちにしかできないことなら」

彼女の声には迷いがあったが、目には決意の光が宿っていた。

エリザベスと守は安堵の表情を見せた。

「では、準備を始めよう」守が言った。「時間がない」


その日から、ハヤテとリリィの特訓は新たな段階に入った。学校が終わるとすぐに二人は相良家に集まり、守とエリザベスの指導のもと、『血の誓約』の儀式に必要な技を学んだ。

ハヤテは巻物に記された封印術を一つ一つ習得していった。それは単なる型ではなく、精神と体の完全な調和を要求する高度な技だった。何度も失敗し、時には体を傷つけることもあったが、彼は黙々と修行を続けた。

リリィも同様に、『星の書』から複雑な魔法の詠唱と、魔力の制御法を学んだ。彼女の部屋の壁には魔法陣が描かれ、夜遅くまで魔法の練習に励んだ。

6月中旬のある日の夕方、二人は相良家の裏庭で特訓の休憩を取っていた。

「疲れた…」リリィは木陰に座り込み、水筒から水を飲んだ。

「ああ」ハヤテも隣に座った。「でも、少しずつ進歩しているな」

「うん。でも、まだまだだよ」

二人は並んで、夕焼けに染まる空を見上げた。その美しい景色の中に、時折違和感のある光の揺らぎが見えることを、二人は敏感に感じ取っていた。

「ねえ、ハヤテ」リリィが静かに言った。「私たち、本当にこれをやり遂げられると思う?」

ハヤテは正直に答えた。「わからない。でも、やるしかない」

「うん…」彼女は膝を抱えた。「時々怖くなるんだ。こんな大きな責任を背負って…」

「俺もだ」ハヤテは素直に認めた。「でも、一人じゃないからな」

彼は迷った後、勇気を出してリリィの手を握った。彼女は驚いたように彼を見たが、手を引っ込めることはなかった。

「リリィ、俺たち…運命に導かれて出会ったのかもしれない。でも、俺はそれを後悔していない」

リリィの瞳に涙が浮かんだ。「私も…後悔してない。あなたに出会えて良かった」

二人の間に流れる感情は、単なる同志としての絆を超えた何かだった。それは『血の誓約』に必要なものなのか、それとも自然と芽生えた感情なのか—二人自身にもわからなかった。

その時、突然強い風が吹き、近くの木々が激しく揺れた。同時に、空に奇妙な歪みが現れ、雲が渦を巻き始めた。

「あれは…!」リリィが立ち上がり、空を指さした。

渦の中心から、青白い光が漏れ出し、それが地上に向かって延びてくる。

「『門』だ!」ハヤテも立ち上がった。「部分的に開いている!」

二人が警戒する中、光の柱が庭に降り注いだ。そこから浮かび上がったのは、先日のような炎の生き物ではなく、人型の光の存在だった。

それは半透明で、青白い光で構成された人の形。しかし、顔の部分は空白で、ただ二つの光る点だけが目のようにキラキラと輝いていた。

「なんだ、あれは…」ハヤテは忍具を取り出し、リリィの前に立ちはだかった。

光の存在は二人を見つめ、やがて口を開いた—とは言っても、実際の口があるわけではなく、直接二人の頭の中に声が響くようだった。

「相良ハヤテ…星乃リリィ…」

二人は驚愕した。その存在が彼らの名を知っているのだ。

「お前は何者だ!」ハヤテが鋭く問うた。

「私は『門』の向こう側から来た。お前たちの先祖が封じた者の使いだ」

「向こう側…?」リリィは恐る恐る尋ねた。「異世界から?」

「その通り。私はお前たちに警告しに来た」光の存在は二人の周りをゆっくりと浮遊した。「『月蝕の門』を開かせよ。さもなくば、この世界に大いなる災いが降りかかる」

「脅しか?」ハヤテは短刀を構えた。「俺たちは『門』を封印する。それが使命だ」

光の存在はハヤテの方へ近づいた。「考え直せ、若き守護者よ。門が開けば、お前たちは想像を超える力を手に入れることができる。この世界を思いのままに」

「そんなこと、望んでない!」リリィが叫んだ。「私たちは世界を守るために…」

「本当にそうか?」光の存在はリリィの方へ向き直った。「お前の中にも、力への渇望がある。私には見える…」

リリィは動揺した表情を見せたが、すぐに首を振った。「嘘よ!私はただ…」

「黙れ!」ハヤテが短刀に「気」を込め、光の存在に斬りかかった。刃が光を貫くと、一瞬存在が揺らいだが、すぐに元の形に戻った。

「無駄な抵抗だ」光の存在は冷たく言った。「お前たちにはまだ『血の誓約』の力が備わっていない。私を倒すことなどできん」

「それでも、諦めるものか!」ハヤテは再び攻撃の構えを取った。

「よかろう。力を見せてやろう」

光の存在が手を上げると、突然空間が歪み、ハヤテの体が宙に浮かび上がった。

「ぐっ…!」彼は身動きが取れなくなり、苦しむ。

「ハヤテ!」リリィは叫び、両手を前に出して魔法を唱え始めた。「風よ、水よ、私の呼びかけに応えよ!」

青い光が彼女の周りに現れ、渦を巻きながら光の存在に向かって飛んでいった。しかし、魔法は存在にぶつかると霧散してしまう。

「まだ弱い…」光の存在は冷たく言った。

その時、家の中から守とエリザベスが飛び出してきた。

「何が起きている!?」守が叫んだ。

光の存在は二人の老人を見て、わずかに後退した。「お前たち…前回の封印者か」

「そうだ」守は厳しい表情で言った。「そして今回も、お前たちを封じる」

エリザベスが手を上げると、強力な魔法の波動が発生し、光の存在を押し返した。同時に守も「気」を放ち、ハヤテを拘束から解放した。

「なるほど…古き封印者たちはまだ力を持っているか」光の存在は上空へ浮かび上がった。「だが、それも長くは続かぬ。『月蝕の門』はすでに開きつつある。お前たちに止める力はない」

「それは見てからにしろ」守が冷たく言い放った。

光の存在は最後にもう一度二人の若者を見つめた。「考えよ、若き守護者たち。力を拒むか、受け入れるか…その選択が、お前たちの運命を決める」

そう言うと、光の存在は再び空へと消えていった。青い光の渦が小さくなり、やがて完全に消滅した。

庭に残された四人は、しばらく言葉を失っていた。

「あれは…何だったんだ?」ハヤテが息を切らしながら尋ねた。

「『門』の向こう側の存在、しかも強力な意識を持つものだ」守が厳しい表情で答えた。「単なる漏れ出しではない。意図的にこちらへ来た」

「なぜ?」リリィが震える声で聞いた。

「おそらく、お前たちを誘惑するためだろう」エリザベスが言った。「『月蝕の門』を開かせるために」

「でも、どうして私たちが…」

「お前たちは鍵だからだ」守が静かに言った。「『血の誓約』によって『門』を封じることができるのは、お前たちだけ。だから向こう側の存在は、お前たちを止めたいのだ」

リリィはまだ恐怖から立ち直れないようだった。「あの存在、私の心を読んでいたみたい…」

エリザベスは孫娘を優しく抱きしめた。「大丈夫よ。あの存在は精神を揺さぶるのが得意なの。心を強く持ちなさい」

ハヤテは空を見上げた。青い光は消えたが、空には不自然な渦が残っていた。

「じいちゃん、時間がないな」

守は厳しい表情で頷いた。「ああ。明日から最終段階の特訓に入る。『血の誓約』を習得しなければ」

四人は静かに家の中へ戻った。今日の出来事で、彼らの使命の重大さと緊急性が、より一層明確になった。


翌日から、ハヤテとリリィは学校に行くことすら難しくなった。守とエリザベスは学校に特別な事情があると連絡を入れ、二人は数日間の欠席を許可された。

相良家の奥にある秘密の道場で、四人は昼夜を問わず特訓を続けた。

「『血の誓約』の本質は、二つの魂の完全な調和だ」守が説明した。「相良の『影』と星乃の『光』が一つになることで、異世界の力すら封じる力が生まれる」

道場の中央には、複雑な魔法陣が描かれていた。エリザベスが古代の言葉で詠唱を行うと、魔法陣が青白く光り始めた。

「まずは魂の共鳴から始めよう」彼女は二人の若者に言った。「向かい合って座り、互いの手を取りなさい」

ハヤテとリリィは言われた通りに魔法陣の中央に座り、互いの手を握った。

「目を閉じて、相手の存在だけを感じ取るのよ」エリザベスが静かに導いた。「ハヤテは『影』の気を、リリィは『光』の魔力を集中させなさい」

二人は目を閉じ、互いの手の温もりを感じながら、精神を集中させた。ハヤテの周りには黒い霧のような「気」が、リリィの周りには青白い魔力の光が現れ始めた。

「そう、その調子だ」守が見守った。「今度は、相手の力を感じ取れ。拒絶せず、受け入れるんだ」

ハヤテは静かに呼吸を整え、リリィの魔力を感じ取ろうとした。それは温かく、明るい感覚だった。一方リリィもハヤテの「気」を感じ取ろうとした。それは冷たくはなく、むしろ静かで安定した存在感だった。

「今度は、自分の力を少しずつ相手に流しなさい」エリザベスが指示した。「少しずつよ」

二人の力が混じり始めると、魔法陣の光が強くなった。黒と青の光が絡み合い、美しい渦を作り出す。

しかし、突然リリィが苦しそうな表情を見せ、魔法陣の光が乱れた。

「あっ…!」彼女は手を離し、倒れこみそうになった。

「リリィ!」ハヤテが彼女を支えた。

「大丈夫…」彼女は弱々しく微笑んだ。「ちょっと、力の流れに驚いただけ」

エリザベスは心配そうに孫娘を見た。「無理することはないわ。徐々に慣れていけばいい」

「いや、もう一度やってみる」リリィは決意の表情で言った。「今度はもっとうまくできるはず」

ハヤテは彼女の強さに感心した。初めは華やかで少し軽率にも見えたリリィだが、その内に秘めた強さと決意は本物だった。

二人は再び手を取り合い、訓練を続けた。何度も失敗し、時には互いの力が暴走して部屋中が魔力と「気」で満たされることもあった。しかし、少しずつ二人の力は調和し始めていた。

特訓の合間の休憩時間、ハヤテとリリィは道場の縁側に座って、空を見上げていた。

「星が…揺れているように見える」リリィが呟いた。

確かに夜空の星々は、通常よりも激しく明滅し、時には位置が移動しているようにも見えた。

「『月蝕の門』の影響で、現実が歪んでいるんだ」ハヤテが言った。

「怖いね…」リリィは膝を抱えた。「でも、不思議と私、諦めたいとは思わないんだ」

「俺もだ」ハヤテは静かに言った。「むしろ、もっと強くなりたいと思う。お前を…みんなを守るために」

リリィは彼の方を見た。月明かりに照らされた彼の横顔は、いつもより柔らかく見えた。

「ねえ、ハヤテ」彼女は躊躇いがちに言った。「『血の誓約』が終わった後…私たちはどうなるの?」

ハヤテは真剣な表情で彼女を見つめた。「正直、わからない。でも…」

彼は少し顔を赤らめて続けた。「俺は、お前との繋がりが切れることは望んでいない」

リリィの顔も赤くなった。「私も…」

二人の間に流れる感情は、もはや隠すことができないほど明らかだった。それは祖父と祖母が言っていた「魂の結びつき」なのか、それとも自然と芽生えた純粋な感情なのか—おそらく両方だった。

「約束するよ」リリィが小さな声で言った。「この全てが終わっても、私たちはずっと一緒」

ハヤテは少し照れくさそうに頷いた。「ああ、約束だ。」

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