第4話 両者、帰路にて
琥景「ずいぶんと優しいんですね。」
湊「あー?」
2人は一件を終え、委員会業務専用の棟にある副委員長室への帰路についていた。
琥景「相田君ですよ。何か思い入れのある人なんですか。」
湊「別に。ただあのままじゃ帰れねーだろ。」
湊は普段飄々としていて誰にでも分け隔てなく接する反面、誰に対しても特定の感情を持たないのだと琥景は思っていた。そんな湊がわざわざ相田をフォローするので、なにか面識があるのかと琥景推理していた。が、違っていたらしい。
湊「でも相田はお前がトラウマになるかもな笑」
琥景「とんだとばっちりです。誰かが本心を言えとか言うから。」
湊「まさか本当に言うとはなー♪」
琥景「💢…!」
言い返すのも負けた気がするように思い、琥景はこれ以上口を開くのをやめた。長い脚ですいすい進んでいく湊の、せめて横に並べるように、速足で歩く。委員会棟は委員会の仕事をするときにしか使わないため、基本がらんとしており、静かである。
湊「でもまあ、悪かったな。相田の心をへし折る邪魔して。」
琥景「!!気づいてたんですか」
湊「そりゃそーだろ。普段あんだけ徹底して清楚キャラ守ってるお前が、あえてあんな言葉の選び方したんだから。」
琥景「…」
湊「相田には、特進やめて欲しかったか?」
琥景「…そうですね。特段思い入れもないですし、今回と同じようなことをされては困る、というのは本心です。でも同時に、湊委員長のおっしゃってた『あいつももう限界だろ』と言う言葉が引っかかっていました。」
琥景「もし、勉強と委員会の両立ができないなら『書記にああ言われたからやめた』そう言って辞めればいい。その逃げ道を作ったまでです。」
湊「…琥景なりの助け舟だな」
琥景「持ち上げないでください。私が与えたのはあくまで逃げる手段です。」
琥景「湊委員長の言葉で、相田君は救われました。」
「………すごいと思いました。」
湊に聞こえるか聞こえないかの声で、琥景がそうつぶやいた。
湊「……ん?」
早足で進み始める琥景。
湊「なんだって?琥景(笑)なんて言った?」
琥景「いいえ何も!!」
湊「照れずに素直にもう一回言ってみろよ」
琥景「ああもううるさいな!言うんじゃなかったですよ!」
いつもの2人の空気に戻った。
湊「まあ琥景たちの代の副委員長は皆なんでもできるエリート個人が集団だからな。なにかに縋って生きるやつとはとくに分かり合えないこともあるだろ。今回もそのケースだよ。」
色々学んでけっこうけっこう、と高らかにニヤつく湊の横で、「はいはい、、」と先ほどの自分の呟きにいまだに照れる琥景でした。
「優しさがすれ違う午後に」 @shiii_ya
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