第五話「花と灰」

ある日曜日、私はいつもの散歩道で、おじさんが一人、花を抱えて立っているのを見かけた。


小さな公園の片隅。誰もいない石碑の前に、静かに白い百合を置いたおじさんは、しばらくその場を離れなかった。


声はかけず、私は離れたベンチからそっと眺めていた。風が舞い、百合の花弁が揺れたとき、何かがふと、過去からほどけたように思えた。


帰り道、おじさんとすれ違ったが、彼は何も言わなかった。ただ、ほんのわずかに微笑んだ気がした。


それは、語らぬことの重みと、それでも人は前を向いて歩くということを、教えてくれた日だった。

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