第四話「チョークと沈黙」
その日は、小学校の道徳の時間だった。
先生が黒板に大きく「男らしさ、女らしさ」と書いたのを見て、教室の空気が一瞬だけピンと張り詰めたのを覚えている。
「男の子は強くあれ。女の子はやさしく、にこやかに——」
先生の言葉に、私はなぜだか落ち着かなかった。
おじさんの声が頭の中で何度もこだました。
放課後、私はランドセルのままおじさんの家を訪ねた。
おじさんは驚いたように笑い、私の顔を見るなり「お茶を淹れるね」と言って台所へ向かった。
私は、今日あったことをぽつりぽつりと話した。
「…女の子の声って、どんな声? 男の子の歩き方って、決まってるの?」
おじさんは、温かい紅茶を私に差し出しながら、静かにこう言った。
「声も歩き方も、心から出るものよ。大事なのは、その声が誰かを傷つけないこと。歩き方が誰かを踏みつけないこと。」
チョークの粉の匂いと、紅茶の香りが、胸の奥で交差した。私はその日、誰にも言えなかった違和感を、初めて言葉にできた気がした。
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