第3話 カラオケ
時は過ぎ、カラオケ当日。
私は涼しげな白いワンピースを着て待っていた。
髪を三つ編みにして、肩からショルダーバックを下げる。
ワクワクしながら待っていた。
「桜さん」
心人君はこちらに歩きよる。
スラックスを穿き、白いTシャツの上に黒い半袖の上着を重ね、スラリとした細いシルエットを浮かべていた。
その姿に思わず見惚れてしまう。
「どうしたの?」と首を傾げる心人君。
この思いがバレないように、私は顔を伏せながら「なんでもない」と誤魔化す。
近くのハンバーガー屋でお昼を食べ、いざカラオケ屋へ向かう。
定員が「いらっしゃいませ」と挨拶する。
心人君と共にチェックインし、マイクを借りて部屋へ向かう。
二人用の部屋だがそれでも少し広めだ。
部屋の中心にテーブル。
その後ろに椅子が並んでいた。
荷物をおろし、私は受話器を取ってドリンクを注文する。
事前に調べたところ、ワンドリンク制だと書いてあったのを思い出したのだ。
心人君は炭酸系のジュースを、私は甘いミルクティーを頼んだ。
定員さんが運んできてくれて、それを受け取ったらカラオケを始める。
タッチパネルを操作し、曲を入れていく。
心人君はボカロを歌うみたいだ。
流れ出す音楽、リズムに乗りながら彼は歌い始める。
合いの手を入れつつ彼の声を聴く。
思えば、心人君が歌ってる姿はいままで見たことなかった。
知らない彼の一面。
真っ直ぐで眩しい笑顔。
楽しそうにマイクを握って、笑いながら歌ってる。
好きな人が楽しそうにしているからかな。
わたしも、一緒に居るだけで幸せだ。
思いに浸ってると、わたしの番が来た。
好きな歌手の音楽が流れる。
私が大好きな、とある男性歌手の音楽だ。
私が歌い出すと、心人君は嬉しそうに声を上げる。
「それ! 僕も好きな人だ!」
「えっ!? 知ってるの!?」
「知ってるも何も、ファンだよファン!」
「えっ、新曲は? CD買った!? どれ好き?!」
「聴いたし買ったしグッズも! いいなぁ、今度良かったらライブもいけたりして!」
「えぇっ!? じゃあチケット当たったら一緒にに!」
「うん! ありがとう!」
和気あいあいと盛り上がる。
お互いに思っていなかった、まさか同じ歌手が好きだとは。
通じ合ったことがただ嬉しい。
ほんとに嬉しい。
一気に距離が近づいて、まるで親友のように仲良くなれた。
時間はあっという間に過ぎ去っていく。
定員さんが呼びに来て、仕方なくカラオケ屋を出ることとなった。
中学生だから六時まで、と。
あっという間に日が暮れていた。
荷物を持って部屋を片付け、忘れ物がないかのチェック。
受付に戻って二人でお金を払い、店のドアを開けて歩き出す。
茜色の夕日が沈みかかっている。
空には紫色が重なって、段々と暗くなる頃だ。
ジーン、ジーン。
コオロギの声がする。
私達は最後まで「楽しかったね」と笑いながら帰路につく。
こんな日々が、ずっと続けばなぁ。
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