第2話 宇宙旅行

 今日の空も夏みたいな顔をしている。夏のすっきりとした匂いもする。

この季節を春と呼ぶのか夏と呼ぶのか僕はまだ、わからない。僕はやっぱり、『わからない』ことの方が多い。



今日の授業は予習ばっちりの刑法だ。今日こそは全て理解しようと意気込んでいたが、力及ばず、授業が始まるとすぐ先生が何を言っているのかわからない時間になった。先生が一生懸命、難しい概念を喋っている間は、宙に浮いているような感覚になる。そして、僕の理解が先生の説明に追いつくと、地面に戻ってくる。宇宙旅行のようなものだ。いや、宇宙旅行だ。


地球に還りたい一心で、地面に戻りたい一心で、全力で耳を傾ける。

隣の子は多分、夢の世界に旅立っている。

先生の説明が終わって、休み時間になっても、僕だけまだ宙に浮いている。


「難しいなあ」と隣の山崎が呟いている(気がする...)。


「山崎は寝てたでしょ」と言いかけたけど。


やめた。どうせ宇宙だから聞こえないし。



夏の匂いがしなくなる昼と夜の狭間。窓から見える大きな海がこちらを覗いている。波の音はしない。波の音のしない海に睨まれて、見て見ぬ振りをした。


星一つない海だっから余計に腹が立った。






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