二話 アトリエ

1 食卓

アシュミアの町の片隅に、木造の建物が一つあります。

この辺りでは、木の建物はあまり多くありません。

昼と夜の激しい気温差が木材を疲れさせ、乾いた風が運ぶ砂が木肌を少しずつ削って傷めてしまうからです。けれどここは、もともと頑丈な木造校舎だったためか、古びてはいるものの、窓や扉、屋根、壁は綻びもなく、しっかりとしています。


ここは”アトリエ”とよばれています。

そして、少し変わった若者たちが集まり共に暮らしています。


アカネ、ライト、ハルオは食卓につきました。

テーブルの上には、小さな乾いたパンとスープが、いびつな器に盛られて並んでいます。バターとジャムも添えてありました。

質素ですが、この町では上々の食事です。


料理を用意したのは、パキラという女性です。

アトリエの世話係のような存在で、安い食材でも、彼女の手にかかれば不思議ととてもおいしく仕上ります。彼女の作る食事は、毎日、若者たちの胃袋をしっかり満たしていました。

食卓には、アカネ、ライト、ハルオのほかに、もう二人の男性が、静かに食事をしています。

「市に出かけてたのか?」

三人を見て、声をかけたのは加茂かも謙二郎けんじろう

三十代はじめくらいの男性で、どこか気難しげな雰囲気をまとっていますが、不機嫌というわけではありません。撫でつけた黒髪に、口の上に細く曲がった絵描きみたいなちょびヒゲがあり、実は彼は、ほんとうに絵描きなのです。

「アカネちゃんだって、まだ本調子じゃないんだからさ、あんまり無理させるなよ」

ハルオに言葉をかけたのは、鳴海なるみ小路こみちでした。

小路は二十代半ばほどの若者で、日焼けした肌にバンダナを巻き、明るく快活な印象を持った男でした。彼は陶芸家であり、この食卓に並ぶ、ややいびつな形の器は、すべて彼の手によるものでした。そのときの小路の声には、かすかにとがめるような響きがありました。帰りが遅くなったこと、そしてアカネが怪我をしているにもかかわらず外へ連れ出したことを、穏やかな口調の中に静かな批判をにじませて伝えたのです。小路がその言葉をハルオに向けたのは、彼がライトよりも年上だったからでした。

「違うんです、謙二郎さん、小路さん。わたしが勝手に錆市を見ていただけなんです。ライト君とハルオ君も、広場で――」

アカネが慌てて弁明します。

「アカネちゃんはいいんだ。悪くないよ」

小路がやさしく言いました。

「なんでこんなに遅くなった?」

謙二郎が問いかけます。

「ま、ちょっとね」

ハルオが短く答えました。

「ちょっと喧嘩でもしたか?」

謙二郎がじっとハルオを見つめます。

「ないない、そんなの」

ハルオが首を振りました。

「本当か? じゃあ、なんでライトが砂まみれなんだ」

謙二郎の目が、ライトに向きます。

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