4 二の弟子:乙鐘ハルオ

光の羽に包まれ、嵐が静かにおさまっていくように、老女の顔からは次第に険しさが消えていきました。

そのまま、老女はライトの声に耳をかたむけながら、そっとまぶたを閉じたのです。

アカネには、目の前で何が起こっているのか、まだうまく理解できていませんでしたが、でも確かに、ライトの声と言葉が狂気を鎮めたのでした。

――すごい……、

と心の底から感じたのです。

しかしまだ安心するには早かったようです。

「フギャアアア!」

老女は再び叫びます。

なんと地面に倒れていた男のひとりが、突如として手を伸ばし、老女の足首をぎゅっとつかんで引いたのです。

老女はそのまま前のめりに転びました。目を大きく見開いたまま、地面にもがき倒れます。

「うわっ……」

ライトが顔をおさえました。もがく老女が巻きあげた砂が、ライトの目に入ったのです。

「ライト君! 大丈夫?」

アカネが思わず駆け寄ります。

その背後で――

老女が、うめき声を漏らしながら、地を這うようにして、こちらへと近づいてきていたのです。

「ガルルルル……」

混乱状態、気狂れディソナンスが静まりかけていた老女でしたが、男に引きずり倒されたことで、その心は再び乱れ、元の凶暴な姿へと戻ってしまいました。

ライトは、まだ顔をおさえたままで、視界を奪われていました。

アカネはどうすることもできず、彼を庇うように身を固くします。

「ガルルッルガルルッルル……」

老女が、じりじりと迫ってきます。そのとき――


リーーーーン。


高く澄んだベルの音が、空気を叩くように響きました。

老女の動きが、ぴたりと止まります。

まるで世界の色が一瞬で塗り替えられたようでした。

アカネがそう感じたそのとき、一人の青年が、輪の中へと姿をあらわしました。

年は十八か十九といったところでしょうか。

背が高く、ポケットのたくさんついたシャツをゆったりと着こなし、キャスケットの下からはこげ茶の短い髪がのぞいています。

「ハ、ハルオ君!?」

アカネが思わず声をあげました。

「ハルオ……この人、気狂れディソナンスを起こしてる…」

「あぁ、みたいだな…」

ハルオという名の青年は、少し困ったように眉をひそめて言いました。

「分かってたらすぐ助けにきてよ!」

「悪い、外でなんか騒いでるなーとは思ったんだけどさ。お会計がちょっと長引いちゃってさ、てかお前、目どした?」

「砂が入っただけ!」

ちょっとむくれてそう言いながら、ライトはようやく目を開けました。

そして――ふたりの青年が、並んで立ちました。

その様子を、アカネはただ、静かに見つめていました。

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