2 三の弟子:星亀ライト

赤く熟れた果物を眺めながら、アカネは錆市をゆっくりと歩いていました。

ボロ布同然の天幕も、夕陽の燃えカスに炙られ、やわらかく煙るように染まっているのです。

それらを通りを抜けていくと、大きな広場に出ます。

そこには古い井戸があり、いつもたくさんの人々が集まっていますが、今はひときわ賑やかなようです。井戸を囲むように幾つもの屋台が並んでいました。

その中にアカネは見知った顔を見つけました。

その青年は、アカネを見つけるなり、嬉しそうに破顔し手を振りながら駆け寄ってきました。

並んでみると、背丈はアカネと同じくらいか、ほんの少し低いくらいです。髪の色はアカネよりもずっと明るくて、背中の中ほどまで長く、襟足のあたりで彼の髪色によく似合う青い髪紐で結ばれていました。


「ライト君、一人?」

とアカネが尋ねると

「ハルオと二人、今買い物行ってる!」

と、彼は頬をやや上気させながら答えてから、ふとアカネの手の中の果実に気づきました。

「サコの実?」

「頂いたの、通りからすぐの果物屋さんから」

「あのおばちゃん、ずっとアカネのことを心配してたもんね。」

アカネは数ヶ月前、とても大きな怪我をして、一時は命の瀬戸際を彷徨ったことがあります。そのことを知っている人たちは、元気になった彼女の姿を見ると、自然と何かしてあげたいという気持ちになるのかもしれません。

「うん、みんないい人たち…」とアカネは果実を見つめながら頷きました。

この町は貧しくて荒れているけれど、ここに住んでいる人たち、少なくともアカネの周囲の人たちは、心根の真っ直ぐな人ばかりです。もちろん、全ての人がそうというわけではないのですが……。


「ンギャアアアアアゥ……」

突如として、獣のような奇声が広場に響き渡りました。刹那の静寂の後、すぐにそこいらは騒然となりました。人々のざわめきに、男たちの怒鳴り声、女たちの悲鳴が重なり合っていき、やがて、奇声を上げた人物を遠巻きに囲むように、自然と人だかりができはじめました。


「どうしたのかな…?」

アカネは不安げな声でつぶやきます。

「酔っぱらいかも…少し、離れた方がいいね」

ライトが早口気味にそう促しました。

けれどアカネの胸の奥には、酔っぱらいの喧嘩にしては、何かが違う――そんな感覚が、静かにありました。

アカネは人だかりの方へと歩き出していました。

「アカネ! 危ないってば!」

ライトが慌てて呼び止めます。

人の肩ごしに覗き込むと、そこでは――

痩せこけた老女を三人の大柄な男達が取り押さえようとしているところでした。

「……えっ?」

アカネもライトも、思わず息をのみました。

あんなに細くて青白い身体のどこにそんな力があるというのでしょうか……

男達が地面に押さえつけようとするたび、老女の骨のような腕が、分厚い男の腕を、まるで小枝を払うように跳ね除けているのです。

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