ダーヤマンの弟子達
温筆 李飛
一話 風にふれるたびに
1 アシュミアの錆市
ざらついた風の中から
ひとつの物語が そっと始まりました
それに気づいたのは たぶん…世界であなたひとりだけ…
アシュミアは、砂漠のはしっこにある、とても貧しい町です。風に削られた石とガラクタを寄せ集めたような、荒れた町です。昼のあいだ、太陽は真上からじりじりと町の骨身を軋ませるので、人々は隠れるように日陰に潜み夕暮れを待っていました。
そして、やがて日は傾き、
わらわらと人々が現れ、樽や木箱を並べ、ロープを結んで布を張り、灯りを下げ、あれよあれよという間に、賑やかな市が立ち上がるのです。
斜めに傾いたトタン屋根の下には、干からびかけの果物が籠に積まれています。
その隣には、木皿に乗せられた塩干しのトカゲ肉、さらにその隣には、茶色い薬瓶やすり減った古書……。
軽く見回しただけでも、驚くほど奇妙な品々が無数に、そして無秩序に並べられています。
少し古びているとか、ちょっと怪しいといった程度ならまだ良いほうで、中には片方だけのブーツや割れた鏡、持ち手だけになったランプといった、使い道の分からないものもありますし、赤黒い焦げのような汚れがついた首飾りなど、明らかに何か禍々しい気配を帯びた品もあります。
年の頃は十六か十七ほどでしょうか。
明るい赤茶の髪をした娘が、髪と同じ色の瞳をきょろきょろと動かしながら、のんびりと歩いてきました。ゆっくりと品物を一つずつ眺めていますが、手籠などを持っていないところを見ると、どうやら買い物に来たわけではなさそうです。
「アカネちゃーん!」
果物屋のおばさんが、明るい声で娘に呼びかけました。
「もう杖、いらなくなったのね」
「はい。」
アカネと呼ばれた娘は、少し照れくさそうに答えました。
「何探してるの?」
おばさんは赤い果物を服の裾でゴシゴシと拭きながら聞きました。
「いいえ、眺めてるだけです。」
実際、何かを買うあてもなく、ただ市の騒めきの中を歩きたかっただけでした。
呼び込みの声、香辛料の濃い香り、見たこともない獣の気配――
そんな、五感をぐるぐるとかき混ぜられるような喧騒の中にいると、なんだか心が弾みます。
「ほら、これ持ってきな」
おばさんは、たった今拭いたばかりの果物をアカネに差し出しました。
「えっ、でも……」
アカネが遠慮がちに言うと、
「いいのいいの。持ってきな」
おばさんはにっこりと笑いました。
「……ありがとうございます」
アカネは小さく頭を下げて、赤い果物を受け取りました。
それを大切そうに持ち、また市を歩き始めたのでした。
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