第3話 川の試練と怪しい影
朝日が川面にキラキラと反射し、まるで宝石をばらまいたような光景が広がっていた。 俺、佐藤悠斗は、キャンプ地の簡素な寝床から這い出し、大きく伸びをした。 昨夜の星空とエリスとの会話が、まだ胸の奥で温かく響いている。 異世界に来てまだ数日なのに、なんだかこの生活に馴染んできた気がする。
「おはよ、悠斗! 寝ぼすけ!」
エリスが、すでに火を起こして朝食の準備をしながら、ニコニコと声をかけてきた。 金髪が朝の光に輝き、青い瞳がまるで子供のようにはしゃいでいる。 その笑顔、ほんと反則だろ。
「おはよ、エリス。って、寝ぼすけってなんだよ! 俺、ちゃんと起きたじゃん!」
むくれながら言うと、エリスはクスクス笑ってスープを混ぜ続けた。
「はいはい、じゃあ早く顔洗ってきて。スープ冷めちゃうよ!」
その軽いノリに、俺もつい笑ってしまう。 川の冷たい水で顔を洗い、頭を振って水滴を飛ばす。 朝の空気は澄んでいて、肺の奥まで新鮮な風が流れ込んでくる。 元の世界じゃ、こんな清々しい朝、味わったことなかったな。
朝食は、村長からもらったパンと、エリスが作った野菜スープ。 シンプルだけど、なんかめっちゃ美味い。 エリスが「村の特産のハーブ入れてみたんだ!」と得意げに言うから、俺も「マジでシェフの才能あるよ!」と大げさに褒めてやった。 すると、エリスが「ふふ、悠斗ってほんと調子いいよね」と笑う。 いや、調子いいってなんだよ! 素直に褒めただけじゃん!
食事を終え、荷物をまとめて出発の準備をする。 地図によると、この先は川沿いの道を進み、大きな橋を渡って森を抜けるルート。 王都まではまだ数日かかるけど、【無限魔法】があれば、どんなトラブルもへっちゃらだ。 ……たぶん。
「よし、エリス! 今日も冒険の続きだ!」
俺が拳を上げて言うと、エリスも「うおー!」とノリノリで拳を上げてきた。 その息の合ったやり取りに、俺は思わずニヤニヤしてしまう。 この異世界、ほんと楽しくて仕方ない。
川沿いの道は、思ったより歩きやすかった。 石畳の道が続き、両側には緑の草原と遠くの山脈が見える。 時折、魚が跳ねる音や鳥のさえずりが聞こえてきて、まるでRPGのフィールドを歩いてるみたいだ。 エリスは、道端に咲く花を見つけては「これ、薬草になるんだよ!」とか教えてくれる。 なんか、めっちゃ博識だな、この子。
「エリスって、ほんとこの世界のこと詳しいよな。村長の娘ってだけじゃなくて、なんか冒険者っぽい雰囲気あるよ」
俺が感心しながら言うと、エリスはちょっと照れたみたいに笑った。
「え、そ? まあ、子供の頃から父さんにいろんなこと教わったからかな。村の外にはあんまり出たことないけど、冒険には憧れてたんだ」
その言葉に、俺はちょっとドキッとした。 エリスにも、こんな旅に憧れる気持ちがあったんだな。 なんか、もっと彼女のこと知りたいって思ってしまう。
「じゃあ、俺と一緒に王都行くの、めっちゃいい機会じゃん! 冒険、めっちゃ楽しもうぜ!」
「うん、悠斗と一緒なら、絶対楽しいよ!」
エリスが目を輝かせて言う。 その笑顔に、俺の心臓がまたドキドキした。 いや、ほんと、エリス、天然で心臓に悪いって!
そんな感じで、楽しく歩いてたんだけど、昼過ぎにちょっとした問題が起きた。 大きな橋に着いたんだけど、なんか様子がおかしい。 橋の中央に、でっかい岩がドーンと置かれてて、道を塞いでるんだ。 しかも、岩の周りに水が渦巻いてて、まるで魔法で守られてるみたい。
「なんだこれ……? 自然にこんな岩、置かれないよな?」
俺が首を傾げると、エリスが真剣な顔で呟いた。
「これ、たぶん魔法の仕業だよ。誰かがこの橋を通せんぼしてるんだ」
「マジか。ってことは、敵?」
「かもしれない。気をつけて、悠斗」
エリスが警戒しながら言う。 俺も、なんか胸の奥でピリッとした緊張を感じた。 でも、同時に、ちょっとワクワクしてる自分もいた。 だって、【無限魔法】があるんだ。 どんな敵だろうと、俺ならやれる!
「よし、エリス、ちょっと下がってて。俺、調べてみる」
そう言って、俺は橋に近づいた。 岩の周りの水の渦は、近くで見るとめっちゃ迫力ある。 なんか、普通の水じゃなくて、青白い光を帯びてるんだ。 明らかに魔法だな、これ。
「さて、どうすっかな……」
とりあえず、シンプルに魔法で岩をどかしてみよう。 手を伸ばして、岩を浮かせるイメージを頭に描く。 【無限魔法】、発動! すると、岩がふわりと浮き上がり、水の渦も一瞬弱まった。
「お、簡単じゃん!」
調子に乗って笑った瞬間、岩が突然バキッと割れて、中から何かが出てきた。 でっかい蛇! いや、蛇ってレベルじゃねえ! 全長五メートルはありそうな、青い鱗に覆われた怪物。 頭には角が生えてて、口から水の刃みたいなのを吐いてくる!
「うわっ、なんだこいつ!?」
慌てて後ろに跳ぶと、エリスが叫んだ。
「水竜(アクアドラゴン)だ! 川に棲む魔物で、めっちゃ強いよ!」
「マジかよ! いきなりボスキャラじゃん!」
文句を言いながらも、俺は冷静に頭を働かせた。 こいつの攻撃は水系っぽい。 じゃあ、俺は火か雷で対抗すればいい。 よし、雷で一撃だ!
「くらえ、サンダーボルト!」
手を振り上げて、雷をイメージ。 空から落ちる、めっちゃでかい雷撃。 ゴロゴロと音が響き、雷が水竜に直撃した。 バチッ! という音と共に、水竜がビクッと震えて倒れた。
「よっしゃ、瞬殺!」
ガッツポーズする俺。 でも、エリスが「悠斗、待って!」と叫んだ瞬間、水竜がガバッと起き上がった。 なんだ、しぶといな!
「マジか、雷効かなかった!?」
焦りながら見ると、水竜の鱗が青白く光ってる。 なんか、雷を吸収したみたいだ。 エリスが慌てて説明してきた。
「水竜は魔法を吸収するんだ! 普通の攻撃じゃダメ!」
「うそ、チートすぎだろ、こいつ!」
俺が叫ぶと、水竜がまた水の刃を吐いてきた。 慌てて横に跳んでかわす。 橋の上で戦うのは狭いし、エリスも近くにいる。 このままじゃ、巻き込んじまう!
「エリス、ちょっと下がってて! 俺、なんとかする!」
「悠斗、無理しないで!」
エリスの心配そうな声が聞こえるけど、俺はもう頭フル回転だった。 魔法が効かないなら、物理攻撃はどうだ? いや、でも、普通の物理攻撃じゃあの鱗は破れない。 じゃあ、魔法と物理を組み合わせた攻撃なら?
「よし、こうだ!」
俺は新しいイメージを頭に描いた。 でっかい岩を魔法で作り出して、それをものすごいスピードでぶつける。 魔法で加速させた物理攻撃なら、吸収されないはず! 手を振って、地面から岩を召喚。 バスケットボールくらいの岩がいくつも浮かび上がる。
「くらえ、ロックキャノン!」
叫びながら手を振ると、岩がロケットみたいに水竜に飛んでいった。 ドカドカドカ! と連続で直撃し、水竜が悲鳴を上げてよろけた。 鱗がバキバキ割れて、動きが鈍る。
「今だ!」
最後の一撃に、俺は風の魔法を追加。 岩を包む竜巻を作り、それを水竜に叩きつけた。 ゴオオオ! という風の咆哮と共に、水竜が吹っ飛んで川に落ちた。 水しぶきが上がり、もう動かない。
「はあ……はあ……やった……!」
息を切らしながらガッツポーズ。 エリスが駆け寄ってきて、目をキラキラさせて叫んだ。
「悠斗、めっちゃすごい! 魔法と物理の合わせ技なんて、初めて見た!」
「ふ、ふはは! これが俺の【無限魔法】の真髄だぜ!」
めっちゃ疲れたけど、カッコつけて笑ってみせた。 エリスが「ほんと、チートすぎ!」と笑う。 その笑顔に、俺の疲れもちょっと吹っ飛んだ。
水竜を倒した後、橋の水の渦も消えて、道が通れるようになった。 でも、俺の頭には一つ疑問が残ってた。 あの岩と水竜、明らかに誰かが仕掛けたトラップだ。 自然にこんなのが出てくるわけない。
「エリス、この辺でそんなトラップ仕掛けるやつ、いると思う?」
俺の質問に、エリスが少し考えて答えた。
「うーん、普通の魔物じゃそんなことしないよね。もしかしたら、魔術師とか、誰かの意図的な妨害かも……」
「妨害? 俺たちを狙ったってこと?」
「わかんないけど、気をつけた方がいいよ。悠斗、目立っちゃってるから」
エリスが心配そうに言う。 確かに、【無限魔法】でバンバン魔物を倒してたら、そりゃ目立つよな。 でも、誰が俺たちを狙うんだ? まだこの世界のこと、よくわかってないのに。
「ま、なんにせよ、俺の魔法があれば大丈夫だろ!」
楽観的に言って、エリスを安心させようとした。 彼女は「もう、悠斗ってほんと自信家!」と笑ったけど、目にはまだ少し不安が残ってた。
その日の夕方、森の入り口に着いた。 ここから先は、木々が密集してて、ちょっと不気味な雰囲気。 キャンプを張るにも、なんか落ち着かない。 そんな時、遠くから馬車の音が聞こえてきた。
「お、誰か来るぞ」
俺が警戒しながら見ると、森の道から立派な馬車が現れた。 金と銀で飾られた、めっちゃ豪華なやつ。 馬車が止まり、中から若い男が出てきた。 二十歳くらいで、黒髪に紫の瞳。 めっちゃイケメンなんだけど、なんか怪しい雰囲気。 ローブを着てて、明らかに魔術師っぽい。
「ほほう、こんな辺境で旅人とは珍しい」
男がニヤリと笑いながら言う。 その声、なんか芝居がかった感じで、めっちゃ胡散臭い。
「えっと、誰?」
俺が警戒しながら聞くと、男は大げさに手を広げて答えた。
「我が名はカイル! 王都の魔術師にして、冒険を愛する自由人だ! 君たちは?」
「俺は悠斗、こっちはエリス。旅の途中だよ」
とりあえず無難に答えたけど、なんかこのカイルってやつ、信用していいのかわかんねえ。 エリスも、俺の隣で少し緊張した顔してる。
「ふむ、悠斗とエリスか。なかなか面白い組み合わせだな。ところで、橋の水竜を倒したのは君たちだろう?」
カイルが目を細めて言う。 その言葉に、俺の背筋にピリッと電気が走った。
「なんでそれを?」
「はは、ただの勘だよ。だが、その力、なかなか興味深い。どうだ、俺と一緒に王都まで旅をしないか?」
カイルの提案に、俺とエリスは顔を見合わせた。 こいつ、めっちゃ怪しい。 でも、単独で旅するより、情報持ってるやつと一緒の方が安全かも。 それに、もしこいつがあのトラップの仕掛け人なら、近くで監視した方がいい。
「んー、どうする、エリス?」
俺が小声で聞くと、エリスがこっそり答えた。
「怪しいけど、情報は欲しいよね。悠斗の魔法があれば、なんかあっても大丈夫だし」
「だな。よし、決めた」
俺はカイルの方を向いて、ニッコリ笑った。
「いいよ、カイル。一緒に王都まで行こうぜ!」
「はは、素晴らしい! これは面白い旅になりそうだ!」
カイルが大げさに笑う。 その笑顔、めっちゃ胡散臭いけど、まあ、俺の【無限魔法】があれば、どんな罠だって突破できる。 そう思って、俺はちょっとワクワクしてた。
その夜、俺たちはカイルの馬車でキャンプを張った。 馬車の中は、めっちゃ豪華で、まるで貴族の部屋みたい。 カイルはワインとかチーズとか出してきて、なんかやたら気前がいい。 でも、話してるうちに、こいつの知識量が半端ないことに気づいた。 王都の政治とか、魔術の種類とか、めっちゃ詳しいんだ。 こいつ、ほんとにただの魔術師か?
「なあ、カイル。さっきの水竜のトラップ、なんか知ってる?」
俺が探りを入れると、カイルはワインを飲みながらニヤリと笑った。
「ふむ、鋭いな、悠斗。まあ、確かにあれは自然のものではない。誰かが意図的に仕掛けた可能性は高い」
「誰かって、例えば?」
「さあ? この世界には、いろんな思惑を持った連中がいるからな。魔術師、貴族、果ては魔王の手下まで」
「魔王!?」
俺が思わず叫ぶと、カイルが「はは、冗談だよ」と笑った。 でも、その目、なんか本気っぽかった。 エリスも、隣で少し緊張した顔してる。
「まあ、気にするな。君の力なら、どんな敵も問題ないだろう?」
カイルが意味深に言う。 こいつ、俺の【無限魔法】のこと、どこまで知ってるんだ? なんか、めっちゃ試されてる気がする。
夜が更けて、俺とエリスは馬車の外で寝ることにした。 カイルは「馬車の中で寝てもいいぞ」とか言ってたけど、さすがに信用しきれねえ。 エリスと焚き火を囲みながら、小声で話す。
「なあ、エリス。カイル、めっちゃ怪しくない?」
「うん、めっちゃ怪しい。でも、なんか悪い人ではなさそう……かな?」
エリスが首を傾げる。 その仕草、めっちゃ可愛いんだけど、今はそれどころじゃない。
「まあ、しばらく様子見だな。なんかあったら、俺の魔法でぶっ飛ばす!」
「ふふ、悠斗、ほんと頼もしいね」
エリスが笑う。 その笑顔に、俺の心臓がまたドキッとした。 いや、ほんと、この子、ずるいよな。 こうやって、俺の異世界冒険は、ちょっと怪しい展開になりながら、続いていくんだ。
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