第4話 森の罠と絆の芽生え
森の朝は、まるで絵画のように静謐だった。 木々の隙間から差し込む朝霧が、薄いベールのように地面を覆い、遠くで小鳥のさえずりが響く。 俺、佐藤悠斗は、焚き火の残り火を眺めながら、昨夜のことを反芻していた。 水竜のトラップ、怪しい魔術師カイルの登場、そして、俺の【無限魔法】がどこまで通用するかという試練。 この異世界、ほんと一筋縄じゃいかないな。
「おはよう、悠斗! よく寝れた?」
エリスが、馬車のそばで荷物を整理しながら、明るく声をかけてきた。 金髪が朝の光にキラキラ輝き、青い瞳はいつものように元気いっぱい。 その笑顔を見ると、なんか一気に気分が軽くなる。
「おはよ、エリス。まあ、地面硬かったけど、なんとか寝れたよ」
俺が少し大げさに肩をすくめると、エリスはクスクス笑った。
「ふふ、都会っ子には厳しいよね。ほら、朝ごはん食べて、元気出して!」
彼女が差し出してきたのは、干し肉と硬いパン。 シンプルだけど、この世界の味に慣れてきた俺には、なんか懐かしい感じすらする。 エリスと並んで座って、朝食を頬張る。 その時、馬車のカーテンがガサッと開き、カイルが大げさなあくびをしながら出てきた。
「おお、なんとも清々しい朝だ! 諸君、準備はできているか?」
カイルの芝居がかった声に、俺は思わず苦笑した。 こいつ、ほんと一挙手一投足が胡散臭いな。 紫の瞳が俺とエリスをチラッと見つめ、ニヤリと笑う。 なんか、めっちゃ試されてる気がする。
「おはよ、カイル。準備はバッチリだよ。今日中に森抜けたいな」
俺が無難に答えると、カイルは「ふむ、意気込みは良い!」と手を叩いた。 エリスは、カイルをチラッと見て、俺に小声で囁いた。
「悠斗、カイル、ほんと怪しいよね。なんか企んでそう」
「だろ? でも、敵か味方かわかんねえから、しばらく泳がせとこう」
俺も小声で返して、ニヤッと笑った。 エリスが「うん、悠斗の魔法があれば大丈夫!」と頷く。 その信頼感、めっちゃ嬉しいんだけど、プレッシャーもあるんだよな。
朝食を終え、馬車で森の奥へ進む。 カイルの馬車は、見た目の豪華さとは裏腹に、めっちゃ頑丈で、ガタガタの森の道でもスイスイ進む。 俺とエリスは馬車の外を歩きながら、周りを警戒。 カイルは御者台で鼻歌なんか歌ってるけど、なんかその気楽さが逆に怪しい。
森は、進むにつれてどんどん濃密になってきた。 木々が絡み合い、陽光がほとんど届かない。 空気も湿っぽくて、なんか不気味な雰囲気。 エリスが「この辺、魔物の巣が多いんだよね」と小声で教えてくれる。 俺は、【無限魔法】の準備を頭で整えながら、軽く頷いた。
「魔物なら、いつものように一撃だな」
「ふふ、悠斗、ほんと自信満々!」
エリスが笑う。 その笑顔に、俺もついニヤける。 でも、その瞬間、森の奥からガサガサと音が聞こえてきた。
「ん? なんだ?」
俺が振り返ると、木々の間から複数の影が現れた。 でっかい蜘蛛! いや、蜘蛛ってレベルじゃねえ! 体長二メートルくらいで、八本の脚に鋭い牙。 しかも、十匹くらい群れでこっちに来てる!
「うわっ、なんだこいつら!?」
俺が叫ぶと、エリスが冷静に答えた。
「森蜘蛛(フォレストスパイダー)だ! 毒があって、めっちゃ厄介だよ!」
「毒!? マジかよ!」
文句を言いながら、俺はすぐに魔法のイメージを頭に描いた。 こいつら、群れで来るなら、範囲攻撃がいい。 炎の壁で一網打尽だ!
「くらえ、ファイアウォール!」
手を振ると、目の前に巨大な炎の壁が現れた。 ゴオオオ! と燃え上がる炎が、蜘蛛の群れを飲み込む。 悲鳴のようなキーキーという音が響き、蜘蛛たちが黒焦げになって倒れていく。
「よっしゃ、楽勝!」
ガッツポーズする俺。 でも、エリスが「悠斗、上!」と叫んだ。 見上げると、木の枝からさらに蜘蛛が糸を垂らして降りてきてる! しかも、さっきよりでかいやつ!
「うそ、しつこいな!」
慌てて次の魔法を準備。 今度は風だ。 竜巻で全部吹き飛ばす! 手を振り上げて、イメージを固める。
「テンペスト!」
叫ぶと、猛烈な風が巻き起こり、蜘蛛たちを木の枝ごと吹き飛ばした。 バキバキと枝が折れる音が響き、蜘蛛たちが地面に叩きつけられる。 そのまま炎の追撃でトドメを刺し、ようやく静かになった。
「はあ……はあ……なんとかやった……」
息を切らしながら呟く。 エリスが駆け寄ってきて、目をキラキラさせて言った。
「悠斗、めっちゃすごい! あんな群れ、一瞬で!」
「ふ、ふはは! これが【無限魔法】の力だぜ!」
疲れたけど、カッコつけて笑ってみせた。 でも、カイルが馬車から降りてきて、ゆっくり拍手しながら近づいてきた。
「素晴らしい! 悠斗、君の魔法は噂以上だな」
その言葉に、俺の背筋にピリッと電気が走った。 噂? 誰が俺のことを知ってるんだ? カイルの紫の瞳が、なんか探るように俺を見つめてる。
「噂ってなんだよ? 俺、こっちに来てまだ数日だぞ」
俺が警戒しながら聞くと、カイルはニヤリと笑った。
「はは、ただの言い回しだよ。だが、こんな辺境でこれだけの魔法を使えば、すぐに名が広まるさ」
その言葉、めっちゃ胡散臭い。 エリスも、俺の隣で少し緊張した顔してる。 でも、カイルはそれ以上何も言わず、「さあ、進もう!」と馬車に戻った。 こいつ、ほんと何企んでるんだ?
その後も、森を進むたびに魔物が現れた。 毒蛇、でっかい鳥、果ては木の精霊みたいなやつまで。 どれも、【無限魔法】で一撃だったけど、さすがに連続で戦うと疲れる。 エリスは、薬草を摘んで簡易の回復薬を作ってくれたり、魔物の弱点を教えてくれたり、めっちゃ頼りになる。 カイルは、戦闘には一切加わらず、ただニヤニヤ見てるだけ。 ほんと、怪しすぎるだろ、こいつ。
夕方近く、森の奥でちょっとした広場みたいな場所に出た。 そこには、古い石碑が立ってて、なんか魔法陣みたいな模様が刻まれてる。 エリスが「これは古い封印の石碑だよ」と教えてくれた。 なんでも、昔、魔物を封じるために作られたものらしい。
「封印? ってことは、なんかやばいのが出てくるパターン?」
俺が半分冗談で言うと、カイルが不意に真剣な顔で呟いた。
「ふむ、鋭いな。確かに、この石碑、最近誰かに弄られた痕がある」
「弄られた? 誰が?」
俺が聞くと、カイルは肩をすくめた。
「さあ? だが、この森の魔物の異常な活性化も、関係してるかもしれないな」
その言葉に、俺とエリスは顔を見合わせた。 水竜のトラップ、魔物の群れ、そしてこの石碑。 なんか、めっちゃ大きな陰謀の匂いがする。 俺、ただの高校生なのに、こんな展開に巻き込まれて大丈夫か?
「まあ、なんにせよ、俺の魔法があれば問題なし!」
楽観的に言って、エリスを安心させようとした。 彼女は「うん、悠斗なら大丈夫!」と笑ってくれたけど、目には少し不安が混じってた。
その夜、広場のそばでキャンプを張った。 カイルは馬車の中で寝るって言って、さっさと引っ込んだ。 俺とエリスは、焚き火を囲んで、星空を見ながら話してた。
「なあ、エリス。カイルのこと、どう思う?」
俺が小声で聞くと、エリスが少し考えて答えた。
「うーん、怪しいけど、なんか悪い人じゃない気がする。悠斗の魔法に興味あるみたいだし、敵じゃない……かな?」
「だよな。でも、油断はできないぜ。ほら、俺、チート能力持ってるから、変なやつに目つけられそうでさ」
半分冗談で言うと、エリスがクスクス笑った。
「ふふ、悠斗、ほんと面白いよね。でも、なんか、悠斗となら、どんな敵でも平気な気がする」
その言葉に、俺の心臓がドキッとした。 エリスの笑顔、焚き火の明かりに照らされて、めっちゃ綺麗なんだよな。 いや、ほんと、この子、天然で心臓に悪いって!
「そ、そっか。じゃ、俺、エリスを守るために、もっと魔法極めるぜ!」
照れ隠しに大げさに言うと、エリスが「うん、期待してる!」と笑った。 その笑顔に、俺はなんか、この異世界での冒険が、もっと楽しくなる確信を持った。
翌朝、俺たちが広場を出発しようとした時、突然、地面が揺れた。 ゴゴゴという低いうなり声と共に、石碑が光り始めた。 そして、その光の中から、でっかい影が現れた。 全長十メートルはありそうな、黒い鱗に覆われた蛇。 いや、蛇じゃねえ! ドラゴンだ! 角が何本も生えてて、目が赤く光ってる。
「うそ、なんだこいつ!?」
俺が叫ぶと、エリスが震える声で答えた。
「闇竜(ダークドラゴン)……封印されてた魔物だ! 誰かが封印を解いたんだ!」
「マジかよ! いきなりラスボス級じゃん!」
文句を言いながら、俺はすぐに魔法の準備をした。 カイルが馬車から出てきて、ニヤリと笑いながら言った。
「ほう、これは面白い。悠斗、君の力の見せ所だな」
「てめえ、ニヤニヤしてないで手伝えよ!」
俺が叫ぶと、カイルは「はは、俺は観客でいい」と手を振った。 ほんと、こいつ、ムカつく! でも、今はそんなくそくらえなやつより、目の前のドラゴンが問題だ。
「エリス、離れてて! 俺、なんとかする!」
「悠斗、無理しないで!」
エリスの心配そうな声が聞こえるけど、俺はもう頭フル回転だった。 こいつ、めっちゃ強そうだけど、【無限魔法】なら負けない。 よし、派手にいくぞ!
「くらえ、メテオストライク!」
空を見上げて、イメージを固める。 天から落ちる、巨大な隕石。 ゴオオオ! と空が割れるような音が響き、燃え盛る隕石がドラゴンに直撃した。 ドカーン! という爆音と共に、地面が揺れ、ドラゴンが咆哮を上げる。 でも、まだ倒れてない! 鱗がボロボロだけど、動きは止まってない。
「しぶといな!」
次は、氷だ。 ドラゴンを凍らせて動きを封じる! 手を振って、イメージを切り替える。
「ブリザード!」
叫ぶと、猛烈な吹雪がドラゴンを包んだ。 バキバキと凍りつく音が響き、ドラゴンの動きが鈍る。 今だ! 最後のトドメに、雷と炎を組み合わせた攻撃。 両手を広げ、最大のイメージを頭に描く。
「サンダーフレイム!」
雷と炎が絡み合った光の柱が、ドラゴンに直撃。 ゴオオオ! と爆発が響き、ドラゴンが地面に倒れた。 そのまま動かなくなり、ようやく静かになった。
「はあ……はあ……やった……!」
膝をつきながら呟く。 エリスが駆け寄ってきて、抱きつくように俺の腕を掴んだ。
「悠斗、すごい! ほんとに倒した!」
「ふ、ふはは! 俺、めっちゃカッコよかっただろ?」
めっちゃ疲れたけど、エリスの笑顔に、全部報われた気がした。 でも、カイルがゆっくり近づいてきて、意味深に呟いた。
「素晴らしい力だ、悠斗。だが、このドラゴンを解き放ったのは、誰だと思う?」
その言葉に、俺の背筋がゾクッとした。 カイルの紫の瞳が、なんか底知れない光を帯びてる。 こいつ、ほんと、何者なんだ?
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