第4話 私と心先生と学会
今日は学会のための出張で心先生はいない。
もう少しで私の勤務も終わるし、今日は何をしよう。
最近は先生と飲みに行ってばかりで自分のこと、何もできてなかったし。
と、そんなことを考えながら勤務の終わりを迎えた。
「ん?」
スマホを手に取ると通知が来ていた。
心先生からのメッセージだ。
『帰るから待ってて』
「んん?」
メッセージの意味がわからず、私は首を傾げる。
送り先間違えたのかな?
あまり気に留めずに帰路に着く私。
もう少しで最寄りの駅というところで、人影が目の前に現れた。
「っはぁはぁ! 千夏!」
先生だった。
肩で息をし、汗が額に滲んでいる。
「なんで! 病院で! 待っててくれないの!」
「え? 先生、学会じゃ? しかも、北海道で」
「帰るってメッセージ送ってたじゃん」
「いや、まさか北海道から帰ってくると思わないじゃないですか。誰かと間違えたのかと」
「んなわけないじゃん! 私、ここ数ヶ月、千夏しか連絡とってないのに!」
スマホの画面をこちらに見せてくる先生。
LINEのトーク履歴の一番上に私。
その下にはずらりとキャンペーン関係の公式トークが並んでいた。
「なるほど。そこの事情は初耳ですが……。でも、懇親会とかよかったんですか? 話すべき相手とかいたでしょうに」
「だって、今日飲めないと次予定合うの3日後じゃん! それは無理!」
それに、と言いながら先生は私の手を取った。
「私と話したい人はいても、私が話したい人はいないの。私は千夏と話したいの。ほら、飲みに行こう?」
北海道弾丸日帰り学会の後とは思えない、軽やかな笑顔を見せる心先生。
そんな笑顔を見せられては断るのは無理だ。
「……わかりました。行きましょう。いつもの居酒屋でいいですか?」
「うーん、懇親会では蟹とかウニとか出る予定だったらしいから、海鮮系の気分」
「なら、あそこですかね」
「明日、私は休みにしたし、千夏も休みよね?」
「そう、ですね」
「よっし! 懇親会分も飲むぞー!」
「はいはい」
今日は長くなりそうだ。
私は少しだけ幸せなため息を吐いた。
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