第5話 私と心先生と勤務時間
「えっと、次は204号室の田中さんを……」
勤務時間中は慌ただしい。
脳をフル稼働し、手足をあくせくと動かし、汗を流し、気がつけば勤務時間が終わっていることが多い。
正直、看護師は大変だ。
私にとっては。
でも、この界隈、バイタリティ&体力オバケがいっぱいいる。
医者にしろ、看護師にしろ、夜勤明けにディズニー行くとか、3日間の旅行のあとにそのまま夜勤に入るとか。
そんな人たちが周りにはいっぱいいる。
「私にはそんな、元気、ないな」
少しだけ足早に、でも、決して慌てている感じは見せずに、私は院内を回り回る。
ようやく一通りやることが終わって束の間の休息。
「疲れたぁ……」
私はナースステーションの椅子に腰掛け、大きく息を吐き出した。
「ちーなつ」
そんな私の耳に届く声。
ふと、視線を横に向けると、ナースステーション入り口からこちらに手招きをする心先生がいた。
先生が勤務時間中にここに来るのは珍しい。
私は重い腰を上げて先生のもとに向かう。
「どうしました? まだ労働しないといけない時間ですよ」
「わかってるよぉ。ただ、さっき見かけた千夏がしんどそうだったから、元気になれるモノをあげようと思って」
先生は白衣のポケットから何かを取り出し、こちらに渡してくる。
私は素直に受け取った。
「ビッグカツ?」
私の手に乗るは、かの有名な駄菓子・ビッグカツ。
「それ食べてると、酒飲んでる気になれて元気になるの! ビールにめっちゃ合うんだよ」
先生はとても嬉しそうに、さらにポケットから取り出し、袋を開けてさっと一口。
「うまい! ビール欲しー。あー、千夏と早く飲みに行きたいなぁ。ねね、今日はどこ行く?」
キラキラと煌めく先生の瞳。
酒のことでここまで楽しそうにできるのは、先生くらいかもしれない。
「ふふっ、先生は元気ですね」
私は思わず笑ってしまう。
「そう? 勤務時間中だからかな?」
「かもですね。……今日はビッグカツ食べながら飲みたいですし、私の家で飲みますか?」
「いいの!? やった! 千夏、なかなか家入れてくれないから嬉しい!」
先生は嬉しそうに胸の前で両の手を握る。
まあ、毎度先生と飲んでる私も大概、酒バイタリティあるか。
謎の自信を少しだけ深めながら、私は先生との飲みを楽しみに勤務時間を過ごした。
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