第15話 休みの日の出会い

──日曜日。


買い物に出かけた街角で、見慣れた白亜麻色の髪が目に留まった。

それは、詩織さんと小鞠ちゃんだった。


「あれ、朝宮君。買い物ですか?」


「三津原さんに小鞠ちゃんも、こんにちは。

うん、漫画の新刊が出たから買いに来たんだ。二人は?」


「こんにちは、お兄さん! 私たちは映画を見てきたの!」


「小鞠が見たい映画があって、私も気になっていたので、一緒に行ってきたんです」


「へえ、いいな。何を見てきたの?」


「《あの日君に伝えたかった言葉》って映画です! 幼なじみのふたりが、最後に再会して──

小さい頃に言えなかった言葉を伝えるんですよ!」


小鞠ちゃんは手を広げて、まっすぐな目で話す。

その横で詩織さんは、やさしい表情で頷いた。


「原作が好きだったので……少し不安もありましたが、映像化の雰囲気もとてもよくて。

静かな演出が、言葉以上に心に残る感じでした」


「……なんか、いいな。そういう話。俺も今度見てみようかな」


「よかったら、原作の文庫をお貸ししますよ?うちにあるので」


「ほんと?ありがとう。じゃあ俺も、お返しに漫画貸そうかな」


「ふふ、どんな漫画ですか?」


「ギャグ寄りの青春モノ。……あんまり期待はしないで」


「そうなんですか? でも……朝宮君が好きな作品、ちょっと興味あります」


そう言って微笑む詩織さんの横顔に、なぜだか心が少し熱を帯びる。


「……お姉ちゃん、朝宮お兄さんと話してると、やっぱりいつもより楽しそう」


「そ、そんなことありませんよ? 小鞠、もう……」


珍しく詩織さんがあたふたする様子に、俺も思わず笑ってしまう。


「やっぱり仲良しさんだなぁ〜」


「小鞠ちゃん、それは……」


「うん、否定してるけど、声が小さい」


「そうそう。じゃあ仲良しってことでいいよね」


二人で並んで歩くうちに、気がつけば詩織さんと俺の距離が少しだけ縮まっていた。

並んだ肩が、触れそうで触れない。そんな微妙な距離が、逆に心臓にやたら響く。


「ところで、もう帰り道?」


「ううん、ちょっとだけ本屋さんに寄って帰ろうかなって。映画の前に宣伝してた本、探してみようと思って」


「じゃあ、俺も寄っていこうかな……実は寄ってきた本屋で目当ての本前部見つからなかったんだよね」


「だったら……一緒にどうですか?」


「え?」


「ここらへんで品揃えのいい本屋さんを知っているので教えますよ」


「ありがとう三津原さん」


ふたりの白亜麻色の髪が並んで揺れる。

まるで日常の延長のような、何気ない時間。けれど、それは確かに心に残る。


そして、この小さな出来事が──

もしかしたら、少しずつ、何かを変えていくのかもしれない。

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